波乱の全仏オープンをちょっと捻って眺めてみる

今年の全仏オープンは、ついにズべレフが初タイトルを取りました。めでたいことではあるのですが、アルカラスが欠場、シナーもジョコビッチも早期敗退という状況で、ちょっと腕組みしてみたくなるのが皮肉屋の悪いところ。

この辺り、何か数字で作業できないか、少し考えてみました。別にズべレフの優勝を腐すつもりはありませんので、ファンの方、気を悪くしないでください。

シナーの生涯グランドスラムは持ち越し

6/7に終わった今年の全仏オープン・テニス。アルカラスが欠場になった段階で、ほぼ全員がシナーの優勝、生涯グランドスラム達成を期待していたことでしょう。ところが、まさかの2回戦敗退。それならジョコビッチのGS最多優勝(男子ではすでに単独トップですが、女子を含めると同数で並んでいる)+最年長優勝かと思ったところ、彼も3回戦で負けてしまいました。

何となく、主催者側としてはジョコビッチを破った19歳のフォンセカに優勝してもらい、新スター誕生!を期待していたのでは、と思うのですが、彼もQFで敗れました。

結果的に、これまで何度か決勝までいくものの、どうしても手が届かなかったズべレフの初優勝で幕を閉じました。第2シードですから、もちろん優勝してもおかしくはないのですが、本当はシナーやアルカラス、ジョコビッチの誰かをちゃんと破った上で優勝してほしかったという気持ちもあります。まぁ、次回以降、ちゃんとトップを破って、強さを証明してくれることを期待しましょう。

こういう「波乱」という感じの全仏でしたが、以前だったら、こういうほうが全仏っぽかったとも言えるかもしれません。やはりクレーって、どこか他のサーフェスと違うところがあって、他のGSでは必ずしも上位にこない選手が勝ち上がってくることも多かったですからね。

今回QFに出た8人のシードを見ても、第2シードのズべレフ、第4シードのオジェ=アリアシムは順当としても、コッボリ:10シード、メンシク:26シード、ホダル:27シード、フォンセカ:28シード、アルナルディとベレッティーニはシードなし(ランキングで104位と105位)ですから。

今年は女子も、サバレンカ、ルバキナ、シフィオンテックという安定の上位シードが負けていきました。まぁ、ここ最近のように、上位数人がどこのGSでも優勝するという「ビッグ3」以降の状態のほうがおかしいのでしょう。

優勝確率はどう変わっていったか?

さて予想に反してシナーもジョコビッチも早い段階で敗退したことで、当然、他の選手たちには「今回いけるかも」という気持ちが高まったでしょう。ちょっと、この辺りを数字で示せないかと思い、色々と考えてみました。

EloMCというマイナーなRパッケージがあるのですが、これは以前にも紹介したEloスコアというものを計算し、そのスコアによりドロー表に従って、順次、各対戦ペアの勝敗をモンテカルロ・シミュレーションして(Eloスコアをベルヌーイ分布のパラメータとする試行)、ドローを順番に進めていき、最終的な優勝確率を計算してくれるという、ちょっと面白いものです。

これを使って、1回戦からラウンドが進むごとに、各選手の優勝確率がどう変化したか見てみます。Eloスコアの計算にはクレーコートでの試合結果に高いウェイトを置いたものを使い、試行回数は10万回としています。グラフはQFまで残った8人と、シナーとジョコビッチの確率(負ける前まで)も示しています。

トーナメントが始まった段階では、やはりシナーの優勝確率が断トツ(57%)でした。1回戦に参加する選手128人で100%の優勝確率を分け合うわけですから、完全に平等なら1/128=0.78%。そこで57%というのは、とんでもない優勝確率でした。

ところが2回戦でまさかの敗退。これで3回戦の段階で他の選手の確率が上昇します。ジョコビッチは13%から24%へ、ズべレフも5%から16%へと10ポイントあまり上昇しました。この段階では、まだ第3シードのジョコビッチのほうが、第2シードのズべレフより確率が高かったわけです。

ところが、3回戦でジョコビッチも敗戦。優勝確率で上位2人が敗れたことで、ズべレフの優勝確率が上昇していきます。しかし準決勝に残った4人の中での確率でも、ズべレフの優勝確率は、1回戦段階のシナーの確率より低い状態でした。やはりシナーの敗戦は「波乱」というしかありません。

QFではズべレフがホダルを破るのですが、ホダルは第27シード。ドロー表を見ると、ズべレフのヤマにはジョコビッチ、フリッツ、デミノーなどのトップ10シード選手が入っていたのですが、この辺りとは当たりませんでした。

結局、優勝までに当たったシード勢としては、ホダル(QF:27シード)、メンシク(SF:26シード)、コッボリ(F:10シード)という感じ。お客さんとしては、上位シードとのガチンコ勝負を見たかったかもしれません。まぁ、次回以降のGSでは、ガンガンに上位シードを破って、強さを証明してもらいましょう。

もしアルカラスがいたら?

ここで、もうひとつ計算をしてみます。今回は去年優勝のアルカラスが欠場でしたが、仮に彼がいたら優勝確率はどうだったのか、シナーより確率が高かったりするのか、これも計算してみました。

Eloスコア自体は、全仏が始まる前の時点でシナーは2216ポイント、アルカラスは2147ポイントとシナーのほうが上でした(アルカラスのスコアは、バルセロナの2回戦で負けた時点のもの)。仮想的に、アルカラスがこのEloスコアを持って全仏に参加していたとして、シミュレーションをしてみます。

トップ選手と早い段階で当たるようにしたくないので、全体を8分割した中でデミノーやルブレフがいるヤマの中から、ウーゴ・カラベリという選手に外れてもらい、ここにアルカラスを入れてみました。実はこのヤマに入れてしまうと、4回戦でメンシクと会ってしまうのですが、①シナーとは逆のボトムハーフに入れたい、②その中でもジョコビッチ、ズブレフとは離れたヤマに入れたい、と考えると、ここしかないんですよね。

その前提で、1回戦段階での勝率を同じように10万回試行した結果の優勝確率を計算してみました。これをアルカラスがいない実際のドローでの優勝確率と比較したのが、以下のグラフ。ここでは、優勝確率1%以上の選手のみを示しています。

やはりシナーの確率は下がりますが(57%→49%)、それでもアルカラスより上でした。まぁ、今年のシナーは全仏前のクレー3大会すべてで優勝という快挙でしたので(しかもモンテカルロではアルカラスに勝って優勝)、当然、クレーのEloスコアも上がります。これだと、シナー有利の結果になるのは仕方ないでしょう。

他はジョコビッチの確率が13%から8%へ、ズべレフが5%から3%へというように低下していきます。アルカラスが23%を持つので、その分、他の選手の確率を食ってしまう訳です。やはりシナー対アルカラスを見たかった、できればそのうえでアルカラスを破ってシナーに生涯GSを達成してほしかった、という気持ちは拭えません。

やはりアルカラスには早く復活してもらい、シナーとの頂上争いを活性化させ、また今回優勝のズべレフ、まだまだ頑張れるジョコビッチ、期待の新生フォンセカといった辺りと入り乱れての優勝争いをしてほしいものです。とにかくトップ2だけ、という状態はどこかで解消してほしいなぁ。

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