ナフサ供給の「目詰まり」。企業は合理的に行動しているだけなんだが

一向に改善しないナフサ不足問題。政府・内閣は、「総量は問題ない。供給の目詰まり」だと繰り返していますが、それだけでいいのかと批判の声は止みません。

この問題、真面目に議論できるだけのデータは私にはないので、ちょっと暇つぶし的にシミュレーションをしてみました。

白黒ポテチを待ちかねて…

2月末に始まったイラン攻撃。当初はハメネイ師他の政権幹部を殺害すれば、政権に不満を持つ民衆蜂起が起こり、革命体制が転覆すると期待していたらしいですが、イラン側は想定以上に持ちこたえています。何とか停戦交渉がまとまるかと思えば、ネタニヤフがレバノン攻撃をしてイランの反発で頓挫、みたいな行ったり来たりです。

報道ではトランプがネタニヤフに対して「お前は狂っている!誰もがお前を憎んでいる!お前のせいでイスラエルも憎まれている」と言ったとか。トランプの発言に賛同することがあるとは思っていませんでしたが、こればかりは「全くその通り」と拍手してしまいました。

こうやってイラン紛争が長引く中で、ホルムズ海峡封鎖が長期化し、日本でも石油や関連製品の輸入が途絶えてしまいました。でも高市政権はガソリン補助金で価格を下げて、「どうぞ使ってください」という姿勢。世論調査でも「節約呼びかけをすべきだ」の支持のほうが多いのに、一体何をこんなに意固地になっているのか分かりません。

またナフサ不足については、「総量は足りている。問題は供給面の目詰まりだ」と「自分らのせいじゃない。買いだめをする企業が悪い」という姿勢。確か去年のコメ問題のときも、価格維持や在庫確保を優先する集荷業者が供給量を絞り込んでいるせいだと、流通構造を強く批判していましたし(当時は石破政権ですが)、基本姿勢は変わらないようです。

カルビーが包装を白黒に変えると言ったら「売名行為だ」という批判が出たとか。まぁ、私は白黒ポテチが出るのを楽しみにしていますがね。スーパーに行くたびに菓子棚を見るのですが、いまだにカラー包装。白黒ポテチ、早く出てくれ!

問題は企業の不安心理?

この問題、私は実際のところがどうなのか、現実に知っているわけでも、判断するデータがあるわけでもありません。ただ報道などを読んでいると、仮に在庫切れになれば生産が止まってしまうため、安全策をとって従来以上に在庫を確保したい企業側の「合理的判断」が、実際に流通量を上回る需要となって、さらに調達を難しくしているとのこと。

こうなると、いくら政府が「供給量は足りている」と言ったところで、下手すると生産が止まって倒産するかもしれない、という不安心理に駆られた企業側には全く響きません。

政府だって石油の戦略備蓄をするのは、実際に供給が止まった場合の負の影響が大きいため、バッファーを持つ必要性が分かっているから。だとすれば、同じことを民間企業がナフサでやろうとするのを、「お前らが買いだめなんかするからだ」と怒るのが理不尽だと理解すべきでしょう。

シミュレーションの枠組み

さて、この辺りを分析できるようなミクロのデータは全く私の手には届きませんので、簡単なシミュレーションで再現してみようと思います。

枠組みは非常に簡単で、ナフサを使って製品(塗料でもペットボトルでも)を作る企業が20社あるとします。企業は一定の固定費と原材料費、以下で説明する在庫関連経費を使って製品を生産・販売して利益を上げます。なお各企業の製品需要は、毎期固定で変動はないものとします。

各企業はこの製品需要に応じた必要量を調達しますが、実際のナフサ調達量は、時々の市況などにより平均値の周りで若干の上下動があり、足りなければ在庫から取り崩し、余れば在庫に積み増します。

各企業は常に一定のナフサ在庫を持っていますが、半数の10社はジャスト・インタイム方針をとる企業で、普段から在庫保有は少なめです(倹約派:just-in-timeと名付けます)。残りの10社はむしろ安全策を取る企業で、普段から多めの量を確保しています(安全派:bufferと名付けます)。在庫保有にも一定の保管費用が生じますし、仮に在庫切れで生産ができなければ、お客さんに製品を届けられない契約違反が生じ、在庫切れペナルティの費用がかかるとします。

通常のナフサ供給量は企業の通常生産に必要な量(例えば40単位×20社=800単位)を上回る量(例えば1000単位)ですが、ここで供給不安が起きて800単位に落ちたとします。つまり「総量としては足りている」水準です。供給不安に対し、安全派企業は、普段より多くの量を調達しようとします。一方、倹約派企業は従来通りの調達方針を続けます。なおナフサ価格は常に一定として、価格への影響は排除しています。

この枠組みで、毎期の利益を積み上げます。仮に利益がマイナスであれば、累計利益から取り崩しますが、累計利益のマイナスが一定水準を下回れば企業は倒産します。一方、この場合、倒産を免れた少ない企業でナフサを分け合うことになるので、1社当たりの調達量には余裕が出ることになります。

こんな枠組みでシミュレーションをしてみました。当然、結果はそれぞれのパラメーターにより異なりますが、ここでは面白い結果が出るようなパラメーターを試行錯誤して選んでいます(汗)。ここは「現実にこうなっている」と主張するものではなく、あくまで「こういう状況かもね」ということなので、まぁ、適当に流してください。

やはり企業としては合理的な判断

以下がシミュレーション結果です。100期間、倹約派(just-in-time)と安全派(buffer)で、どう経営状況、倒産可能性が異なるかを示したものです。網掛け部分が、供給が絞られた期間です。

上段のグラフは全20社(各10社ずつ)の企業生存率ですが、安全派は全く倒産しない一方、倹約派は最終的に半数以上の企業が倒産しています。下段の累積利益を見ると、安全派はそれまでの在庫があるため、(在庫を多く持つためのコストがかかっても)供給制約期にも生産は持ちこたえています。一方、倹約派は供給制約が始まるとすぐに累積利益は下降し始め、所々で破産閾値(赤の点線)を下回る企業が発生し、最終的に6社が倒産しています(中央線の上下の幅は最小~最高の幅)。

供給制約期間の半ばぐらいになると、一部の倹約派企業の倒産により、残った倹約派も安定調達が可能になり、経営は安定します。しかし供給制約期の落ち込みのため、累計利益ではかなり幅が下方にも広がっています。

下は平均在庫水準と在庫切れになる確率です。安全派は当初から多くのナフサ在庫を抱えている上、供給制約期にも倹約派より多めの調達を目指すため、ほぼ当初水準を維持して推移します。一方の倹約派は当初から在庫は最小限に抑えようとして、また「総量として足りている」という政府の言葉を信じて、供給制約時にも調達目標を引き上げないため、結果的に期間前半には在庫水準の低下幅は大きく、期間も長くなってしまいます。

この結果、在庫切れになる企業が出てきてしまい、彼らの一部は市場から退出(倒産)することになります。それにより、残った倹約派企業はナフサ確保ができて助かるのですが、もしかすると自分が倒産していたかもしれないと、悪い夢にうなされるのでしょう。

まぁ、あくまでお遊びのシミュレーションに過ぎませんが、総供給量が需要を満たしているとしても、調達に不安があると思えば、社会全体では需要超過になろうが、倒産を避けたい企業は自己防衛として在庫積み増しをするでしょうね。企業間で協力ができれば社会的な最適解に至りますが、自分だけが「いい子」になれば負けてしまうという、典型的な「囚人のジレンマ」的な状況です。

それを「個別企業の買いだめ」と否定してしまう政治家には、初歩的な経済学を勉強しなおしてほしいところ。ここはゲームのルールを変えないといけないのですが、こういう気持ちを分かろうとしない辺りに、人と会わず、資料ばかり読んで、現場で日々苦労している人たちの声を全く聴こうとしない冷たさを感じてしまうのは私だけかなぁ…という言い方も、バイアスがかかりすぎかもしれませんが。

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