議員定数削減のオプションを評価。比例区削減って最悪では?

完全な与野党対立を引き起こした議員定数削減問題。まぁ、私は今の議員センセイの数が多いとか少ないとか意見はないので、勝手にやってくれという感じですが、やはり気になるのが比例のみで45議席削減という与党案の是非。色々な削減方法の良し悪しを、シミュレーションで評価してみようと思います。

議員定数削減

日本の衆議院議員定数は465名。「身を切る改革!」ということで、これを1割削減することで自民党と維新の会が合意、審議入りしてしまいました。1年以内に結論が出なければ、比例区削減で強行するという案です。

小選挙区で削減する場合、どこを削るんだ、「1票の格差」を考えたら人口の少ない選挙区だが、そうなると合区が必要になるし…なんて考えると、そりゃセンセイ方も眠れなくなります。ということで、簡単に出来るのは比例代表をズバッと切る方法。

当然、比例区でしか当選者を出せない小規模政党からは反発を喰らいます。少数の声を無視するのか!国民の多様な声に耳をふさぐのか!という反発ですね。これはこれで一理あります。

一方でヨーロッパなどを見ると、極右・極左の極端な政党は、ほぼ比例代表制度の中で議席を確保し、勢力を拡大しています。「少数の声」は尊重すべきだが、「極端な声」も尊重すべきなのか、というように選挙制度改革というのは難しいものです。

これをシミュレーションしてみる

実際の選挙区データで制度改革をシミュレーションできればいいのですが、そこまでできる知識もスキルもないので、ここは簡単なシミュレーションで比較評価してみます。

現状の定数465名(小選挙区289名、比例区176名)から、45議席を削減します(定数420名)。方法としては比例区削減(小選挙区289名、比例区131名)、小選挙区削減(小選挙区244名、比例区176名)、両方で削減(小選挙区261名、比例区159名)、最後に中選挙区への移行(定数420名を全国80区に分割)をオプションに加えます。なお単純化のため、比例代表は全国区として扱い、また小選挙区との重複立候補は考えません。

政党数は8党として、それぞれリベラル~保守のポジション(0~1の間の数字で表現)をとります。また有権者(総数10万人:少ないですが、これでも計算時間は長かった)も、0~1のポジションを持ち、自分に一番近い政党を選好しますが、確率的揺らぎも加わります(実際の投票には、政治的ポジション+候補者個人への嗜好もある等)。

選挙結果を、以下のいくつかの指標で評価します。

まずギャラガー指数。各政党の「得票率と議席シェアの差」の2乗和で計算されます。この値が大きいほど、有権者の投票結果と、それが議席に反映された結果に齟齬が大きいということになります。

次に死票率。落選した候補への投票を総投票数で割ったもの。これが高ければ、民意の大きな部分が全く議席に反映されないという意味で歪みがあることになります。

最後に有効政党数ギャップ。有効政党数というのは、各政党シェアの2乗和の逆数。1に近ければ単独政党制、2に近ければ二大政党制、それより大きければ有権者は多党制を選んでいることになります。ここでは「議席シェア」と「得票シェア」で計算した有効政党数の差により、有権者の民意との乖離を示すことになります。

なんて偉そうなことを書いていますが、こういう評価指標の知識が全くなかったため、生成AIに「こういう場合、どういう指標で評価したらいいの」なんて聞いて、選んだものです。今回のコード自体、生成AIに頼った部分があります。比例代表制のドント方式なんて、どうやって計算するのか全く分からなかったし。

このような設計で、1000回のモンテカルロ・シミュレーションを行い、指標の傾向を見てみました。

有権者と政党の政策志向

有権者と政党の政策志向の分布ですが、4つのタイプを想定しました。

まずは中道派(Centrist)。真ん中0.5辺りに多くの有権者が存在し、両方の極端にいくほど分布が薄くなる形です。

次が二極化(Polarized)。左右に2つのヤマがあり、真ん中と両端が少し薄くなっている感じ。日本がここまで行っているかは不明ですが、欧米ではこれに近い感じかも。

三番目が一様分布(Uniform)。リベラル~中道~保守まで、押しなべて同じように有権者の嗜好が分布している形状。ま、あまりないでしょうね。

最後が右寄り(Right Lean)。右のほうに分布のヤマが来て、中道、リベラルのほうは薄い分布です。

グラフ内のP1~P8の縦線は、各政党のイデオロギー・ポジションです。最初は順番に共産、社民、立民、公明、国民、自民、維新、参政などと8党の名前を入れてみたのですが、どうも実際の議席分布とマッチしないので、記号にしておきました。

シミュレーション結果

では、これでシミュレーションした結果を見ます。まずギャラガー指数。これが高いほど議席シェアが民意と遠いことを示します。民意が中道、一様分布の場合は、全体的に指標自体が低く一方、二極化と右寄りの場合は、全体に指数が高くなります(民意と乖離)。

選挙制度別に見ると、いずれの場合も、中選挙区制の場合が最も低い(民意と近い)傾向は明らかです。世論が分断あるいは偏っている状況で、周辺の弱小政党に議席を与えても、政局が不安定化するだけだろうという見方と、声の大きな政党以外の民意を汲み取れるようにすべきという見方、どちらを重視すべきかは、人により違うでしょうけど。

またいずれの世論タイプにおいても、与党案の比例削減オプションは、現状(定数削減以前)と比べても指標を悪化(世論と分離)させてしまう傾向も明らかです。

次に死票率。報道などで見ても、現在の選挙制度での死票率は5~6割とされています。今回のシミュレーションでは現行でも7割前後なので、ちょっと数字としては高いのですが、極端に外している訳でもないでしょう。

この場合も、やはり中選挙区制がいずれの世論パターンの下でも優秀、極端に死票を削減できます。他の4つのオプションの間では差はなく、全く誤差の範囲です。

最後に有効政党数ギャップ。グラフでは、上向きのグレイの棒グラフが投票シェア・ベースの有効政党数、下向きの赤の棒グラフが議席シェア・ベースの有効政党数です。グラフ中の点がそのギャップを示します。

ほぼすべての世論パターンで、議席ベースの有効政党数が得票ベースより少なく、また選挙制度別には中選挙区制で差が小さくなる(民意との差が小さくなる)傾向があります。

この例外が、右寄り世論×中選挙区制のケース。議席ベースの有効政党数が得票ベースより大きく、ギャップがマイナスになっています。そんなことがあるのかと悩んだのですが、リベラル政党への投票は極めて少なく、得票で見れば小さなシェアを得ますが、(中選挙区制でも)議席獲得確率は現実的にはゼロです。小規模リベラル政党の議席シェアが消える結果、右派政党の議席シェアが得票シェアよりも大きく、また平等になっているようで、この結果、議席ベースの有効政党数が大きくなったようです。

いずれにしても、中選挙区制以外の削減案では、民意(得票ベース)に比べ議席ベースの有効政党数が小さくなるバイアスがありますが、(右寄り世論のケースの解釈は微妙ですが)中選挙区制が民意と議席のギャップを小さくする効果は明らかです。ここでも、現与党案の比例代表削減の場合、削減前の現状以上にギャップを大きくすることも確認できます。

まぁ、もともと中選挙区制から小選挙区制への移行は、「政権交代可能な二大政党制」を目指したものでした。その考えからすると、民意(=得票率)と選挙後の議席の差など大した問題ではない、ということかもしれません。しかし結果的に、二大政党制とは異なる状況が続いており、民意は二大政党制を望んでいないのかもしれません。

また最近の世論は、一様分布や中道というよりは、二極化、右傾化に近いように思われます。特に右傾化の場合、少数の似通った主張の政党だけに議席を与え、議論が一方向に偏るより、少数政党にも議席を持たせて、ちゃんと国会で議論しろよ、という方向もあるのだろうと思います。今の「皇室ナンタラ法案」でも、世論はもちろん、皇室内からすら懸念の声がある法案を強引に進める傾向が明らかですしね(まぁ、これはヨトウよりもアソウのごり押しかもしれませんが)。

それに小選挙区の下では「1票の格差」解消と定数削減の両立は困難ですが、中選挙区制にすれば、この辺りの調整がかなり楽になります。個人的には、中選挙区制に戻す利点が大きいように感じるところです。

とにかく現在の比例削減案は、現状(定数削減前)に比べても、より民意から離れるという問題は、ちゃんと考えたほうがいいと思うんだけど、小選挙区に力点のある自民・維新からすると、こっちが魅力的なんだろうなぁ。

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