消費税減税が閣議決定されました。財源をどうするかも全く目処がついていないのですが、9月には税制改正大綱を決定し、秋の臨時国会での成立という道筋だそうです。
全くの素人の四則演算レベルのものですが、減税と給付で所得階層別にどういう効果の違いがあるのか、非常にラフな試算をしてみようと思います。
消費税減税に向けた「国民会議」?
食料品の消費税減税について、閣議決定されました。当初は「社会保障国民会議」で野党を含めて議論して、「まとまらない」ことを理由に、野党に責任を押し付けてうやむやにする高等戦術かと思っていたのですが、どうも違ったみたい。財源も不明確なままに高市首相の一存で決めてしまったという感じです。
まぁ、でもこれについては野党の戦術もよく分かりませんでした。衆議院選挙での各党の公約では、ゼロなのか5%なのか、2年間限定なのか恒久措置なのかという差はありますが、基本はみんな減税・廃止を求めていたはず。ところが、いざやろうとなった途端にケチをつけ始めるわけです。一貫しているのは共産党、参政党、れいわ。まぁ、彼らは政権に就く可能性がないですから、何でも言えるわな。
- 自民党・日本維新の会:給付付き税額控除導入までの暫定措置として、食料品の消費税を「2年間限定でゼロ」。➡レジ負担から1%への減税、残りの1%分を給付。
- 中道改革連合・日本保守党:食料品ゼロ税率を「恒久化」。➡中道は給付優先へ、保守党は1%減税案を「仕方なく容認」。
- 国民民主党:賃金上昇率が物価+2%に安定するまで、消費税を「一律5%へ減税」。➡減税より現金給付を優先する立場へ転換。
- 共産党:消費税「廃止を目指し、直ちに5%へ減税」。➡変わらず。
- 参政党・れいわ新選組:消費税「廃止」。➡変わらず。
高市総理も「アンタら、選挙前に言うてたのは何やったの。それやったら、みんなで総懺悔して選挙やり直そか。当然、アンタらの公約撤回も、思いっきりSNSで中傷動画拡散したるからな」ぐらいタンカ切るかと思ったら、一人で突っ走ってしまいました。
でも減税って、本当に効果あるのか?
「国民会議」の中で出た対案は、「減税より即効性のある給付」という主張。法律を変えないといけない減税より早くできる、というのはそうでしょうが、ここはもう一歩下がって、本当に効果があるのはどっちだということを、素人なりに考えてみようと思います。
消費税を減税すれば、日本全国津々浦々、誰がどこのスーパーで200円の大根を買っても、消費税は現在の16円から2円に下がります(8%→1%の場合)。私が買っても、年金暮らしのおばあちゃんが買っても、はたまた孫正義、柳井正、三木谷浩史のような大金持ちでも、もちろん高市早苗や麻生太郎が買っても同じです。
今回の目的は、物価高で生活が苦しんでいる人たちを助けること。特に日本は他のG7諸国と比較しても、下位層の相対的な生活苦が断トツに厳しいので、この層にどう裨益するかが課題でしょう。年金暮らしのおばあちゃんなら、減税で浮いたお金で豚肉が買えるなんて効果があるかもしれません。しかし孫正義さんなんかの場合、今の物価高、消費税水準のせいで消費支出を我慢しているなんてことは絶対にありません。減税されたところで、何か消費行動が変わることは全くないはずです。
こういうのを「政策効果の漏出」と言いますね。政策効果を追求するなら、その政策で行動が変わる人にターゲットを絞って、直接的に選択行動に影響を及ぼす政策手段を講じるのがベストです。こういう漏出の大きな政策に多額の税金を突っ込むのは、経済政策でやっちゃいけないことリストのトップに入ってきます。
そういう意味では、現在の軽減税率も、ガソリン補助金もそうです。軽減税率導入の際も、多くのエコノミストが所得に連動して低所得層に手厚く支援する「給付付き税額控除」や、特定の所得層・世帯を対象にした「所得連動型給付」を推奨していましたが、結局、公明党に押し切られました。
まぁ、「給付付き税額控除」は制度設計等の問題から将来課題となりましたが、所得制限をつけての給付であれば、広く浅く、必要でない人にまで減税してあげる消費減税より、明らかにベターな選択と言えそうです。
ごく簡単な試算をしてみる
消費減税と所得制限付き給付の効果比較なんてのは、政府の頭のいい人たちがしっかりとやってくれていると思うのですが、ネットで探してもちょっと見つかりません。ちゃんとやるなら、家計の直接的な食料支出への減税だけでなく、外食産業のコスト削減→家計の外食費低下といった間接効果も見ないといけないのでしょうが、そこまで真面目な論考でもないので、素人の私にできる範囲のごく簡単な試算をしてみようと思います。
まず前提となる世帯所得分布ごとの消費支出ですが、総務省統計局「令和6年全国家計構造調査:家計収支に関する結果」というやつから以下の表を見つけました。
「五分位階級」というのは、全世帯を1/5ずつに分割したクラス、その所得範囲は隣に示した通りです。それぞれの所得階層ごとに月額の消費支出、そのうちの食料の割合があったので、それを掛けて右端の食料支出を計算しました(8%の消費税分を割り戻し、12を掛けて年額換算)。
現在の日本の世帯数は5,482.5万世帯となっているので、各五分位には1,096.5万世帯が入ると簡便に考え、このベースで消費減税額を試算します。各五分位の食料支出×7%(減税分)×世帯数を合計すると、約2.3兆円の減税額になります。一般に消費減税規模として約5兆円とされますが、仮に減税7%で5兆円とすれば食料消費額は71兆円と計算されます。この表で計算すると総額は33兆円なので、家計ベースの食料消費額は全体の45%程度になります。
この表から漏れている最大の部門は、外食産業等の食材購入額だろうと思います(他には外国人世帯、単身学生世帯、病院・施設・寮なども)。外食産業等の材料としての食料支出も含めた減税総額を各世帯に給付してしまうと、世帯当たりの減税と給付でのベースが違って給付の効果が高く出てしまうため、今回はこの世帯ベースの消費減税で比較します。つまり世帯ベースの食料消費の減税7%分を、それぞれの世帯に減税ではなく給付の形で行った場合、それぞれの所得分位の世帯にどれだけの効果があるのかを考えます。
給付の所得制限閾値は、このデータに合わせて351万円以下、510万円以下、689万円以下、932万円以下、制限なしの5ケースを考えます。閾値以下の世帯に対しては、傾斜配分ではなく完全に同額を給付するというシンプルな枠組み、給付は世帯ベースで世帯人数分、行われるとします(単身世帯なら1人分、2人世帯なら2人分等)。

試算結果
上記の形で行った試算結果は以下の通り。左パネルは金額ベース、右パネルはベースの食料消費額に対しての給付額の比率です。また金額ベースの場合、減税額も比較対象として載せています(8%→1%への7%分相当)。
まず消費減税の効果を金額ベースで見ると、当然、所得水準が高い家計ほど(食料支出が多い家計ほど)、減税効果は高まります。第1分位だと約2.6万円ですが、第5分位だと6.8万円となります。ベースでの食料消費額に対する比率だと、言うまでもなく減税幅と同じく7%です。金額ベースで見た場合の逆進性の問題はもちろん、この規模の家計支援で「高市さんが減税政策をゴリ押ししてくれたおかげで、苦しい家計が助かったわぁ」となるのかどうか。
最下層世帯(年間所得351万円以下、食品支出37.4万円)が2.6万円の減税を受けたとして、本当に食料購入に目に見える効果が起きるんでしょうかね。実感としては何も変わらないと考えるべきじゃないでしょうか。やはり減税という政策は、それを必要としていない世帯にも広く薄く効果が及ぶため、ほとんど実感できない、つまり行動変容にはつながらないのではないかと思います(個人の感想ですが)。
では、この減税額相当を給付に置き換えてみます。まずは一番所得水準の低い第1分位の世帯だけ(所得351万円以下の世帯のみ)に全額を給付する場合を考えます。この場合の世帯当たりの給付額は21.3万円になります。年間食料支出額37.4万円の世帯に21.3万円(ベースの食料消費の57%)の給付が来たら、この世帯にとっては大きな支援になります。今まで我慢していた肉なり果物なり、いろんなものが買えそうです。もちろん食費以外でも、子供の教育費や遠足代、実家への帰省であれ、いろんな我慢していた支出ができそうです。
第1分位だけでは不公平だ、中流世帯だって苦しいんだ、という声に押される形で閾値を高くすれば、もちろん効果は薄まります。第2分位まで広げれば、給付額は第1分位9.3万円、第2分位12.0万円(第2分位は世帯人数が多いため)、ベースの消費支出との比率で言えば、第1分位で24.8%、第2分位で26.2%です。第3分位まで広げれば、給付額は5.3~9.2万円になって、かなりショボくはなりますが、それでも消費減税の効果に比べれば、まだいいとは言えます。
当然、第4分位まで広げれば、もっと効果は小さくなり、所得制限なし(全員)となるとほぼ消費減税と同じ額になり(所得階層により、わずかな上下あり)、政策効果としては実感されないと思います。所得水準の高い層ほど給付額も増えていますが、これは世帯人数の差が原因、一人当たり給付額では同額です。消費減税も、これに違い部分はあり、まぁ似たり寄ったりですかね。
と、まぁ、滅茶苦茶にシンプルな計算でしかないのですが、やはり政策効果の漏出、逆進性という観点からすれば、消費減税が最悪、所得制限なしの給付も同じようなものです。そもそも2年後の「給付付き税額控除」までの暫定措置であれば、給付でつなぐほうが明らかにスムーズだし、事業者のレジ費用負担も避けられます。やはり所得制限を付けて(本当に食品が十分に買えない層に絞って)給付金を配るというのが「責任ある積極財政」じゃないかと思うんですがねぇ。

