G7各国の所得格差の推移~日本は格差というより貧困なのかも

以前、日本の所得階層ごとの所得、資産の経年変化を見てみました。日本と諸外国とで状況に差はあるのか、ちょっと気になりまして、今回はG7各国横並びで比較をしてみようと思います。見えてきたのは、日本の問題は不平等というより貧困問題っぽく、また本当のトップの金持ちは、他のG6に比べて、あまりいいポジションにいないという感じ。

日本は平等社会か?

昔は「一億総中流社会」なんて言葉もあり(完全に死語かも?)、何となく日本という国は諸外国に比べ所得分配も平等な国というイメージがありました。でも不平等度を表すジニ係数(1に近いほど不平等)を見ると、ちょっとイメージと違うようです。

以前も使ったWorld Inequality Databaseで、税引き前の所得(pre-tax income)、税・再分配後の所得(post-tax income)、純資産(net wealth)ベースのジニ係数の推移を、G7各国の間で比較してみたのが以下のグラフです。なお、このデータは公式の家計調査以外のデータも加味して推計しているため、公式統計のジニ係数より高く出る傾向にあります。

所得ベースだと、再分配前後いずれでも、日本はアメリカに次ぐ高水準です。資産ベースだと足元では極端に高いアメリカ、低いカナダに挟まれた団子状態5ヵ国のひとつです。個人的には、資産ベースのデータはちょっと信頼度が下がるような気はしますが(給付付き税額控除の議論でも、日本での金融資産の把握の難しさがネックになっているぐらいだし)、ここではこのデータを信じることにします。

ただ高齢者やパート就労が多いと、どうしても所得ベースでは不平等度が高く出る点は留意しないといけません。特に高齢者就業率は、日本は諸外国に比べて非常に高いので(韓国と並んで)、アメリカの不平等とは少しニュアンスが違う可能性はあります。

なおG7いずれの国でも、再分配後のジニ係数のほうが下がるのですが、日本は欧州・カナダのメンバーに比べると下がり方が弱い感じがします。最近の「自助努力」型の論調だと、この種の再分配機能をネガティブに見る人も多いとは思いますが。

所得階層ごとの相対所得推移

もう少し細かく、10%タイルごとの所得階層別に再分配後の所得がどう推移してきたかを見てみます。以下は各10%タイルの人々の平均所得が、国全体の中央値(ここでは50~51%の所得を使いました)と比べてどの程度かをグラフにしたものです。「p0p10」とあるのは、0~10%タイルの所得階層の平均所得を中央値との対比で示したものです。

とにかく目立つのが、日本の下位層の所得水準の低さ。0~10%タイル層では、アメリカと競っていますが、その上だと30~40%層まで完全にぶっちぎり独走です。これを見ると、日本の格差問題は完全に貧困問題だという感じがします。

例えば日本の30~40%タイル層の所得は中央値の7割程度で推移していますが、これはドイツやイタリアだと20~30%タイル層のレベルで、ひとつランクが下がります。20~30%タイル層、10~20%タイル層でも同様です。2010年代以降(=アベノミクス以降)、少し改善傾向ですが全く不十分。40~50%タイル層になって、ようやく足元では米加の同じ層に追い付いてきたところです。(ここも高齢就労者の影響はあるかもしれませんが。)

アメリカでは90年代以降、他の国とは逆に最下層の相対所得が低下しているのが特徴です。この悲惨な層が「取り残された」と恨みに思い、トランプ支持のMAGAに賛同するのも頷けます。日本では足元で改善傾向がみられるものの、水準自体は極めて低い状況。こういうのを見ると、日本でも「他者排除」的な政治運動が支持を得る下地は揃っている気がします。

逆に日本で落ちているのが、60~90%タイルの3層。2000年代前半までかなり上昇し、他のG7水準に近づきつつあったのが、リーマンショック以降、完全に落ちこぼれました。唯一、90~100%タイル層のみが、G7内でも上位にいます。つまりリーマンショック後、「それなりに豊かな層」が崩壊し、トップ層だけが潤ったという形です。

トップ層の動向を見ると?

データベースではトップ層は、かなり細かい分類がされているので、この層についてだけ再分配後所得の推移を細かく見てみます。縦軸は対数スケールです。右端のtop10%は上で見たp90p100と同じ、さらに上位1%、0.1%、左端は0.01%の超エリートということになります。

日本は上位10%という括りではG7内でもかなり高い水準で推移しています。トップはアメリカ、次いで日本。ドイツ、イギリス、イタリアは団子状態で、フランスが足元では低迷しています。しかし、これが上位1%、0.1%、0.01%と、本当にトップ中のトップに絞っていくと、日本はどんどんと地位を下げていきます。

結局、上位10%という大きな塊りで見れば潤っているが、その中の本当のトップ層は全く伸びず、欧米のトップ層とは差が開いていったということ。最近は企業の役員報酬が何億円というのは普通になっていますが、それでも欧米の企業経営者の「別世界感」とはレベルが違うということでしょう。カルロス・ゴーンが日産の報酬に不満だったというのは、この辺りの状況が背景だったのかもしれません。

で、結局、日本は平等なのか?

と、G7各国の状況と見比べながら、日本の所得分配を見てきましたが、やはり最も目を引くのが中央値と比べての低所得層の所得の低さ。足元で改善傾向があるとはいえ、諸外国だったら暴動が起きても仕方ないレベルではないかとすら思えます。こんなにジニ係数が高いのに、なぜ「平等社会」のイメージができたのか不思議です。

ただここで見たデータは横断面で見た分配状況を、そのまま時系列で並べた構図です。例えば1980年代に0~10%タイル層だった人が、1990年代には20~30%タイル、足元では50~60%タイルに移っていた、という可能性はあります。

かつては終身雇用・年功賃金制だったため、初任給と定年間際の管理職の間で大きな給与水準の差があるものの、同年齢層の中では、それほど大きな差はない、という状況でした。そこでは横断面で見れば(若者対年寄りで見れば)大きな格差があっても、年々、みんなが同じように給料が上がっていくことで、何となく「平等」というイメージができあがったのかもしれません。

昔の新人職員の給与水準は悲惨なものでした。自分の〇十年前の初任給なんて、今思えば、よくあれで生活できたな、という水準。それでも、その後、私のような出来損ないでも毎年給料は上がり、ちゃんと生活できるレベルになりました。

果たして、今の低所得層が同じような状況かどうかですね。非正規で社会人生活を始めた人の場合、かつてのような段階的な昇給が見込めず、年を経ても同じ所得階層に留まっているのであれば、かつての日本経済とは全く違う構図です。

もし先ほどのグラフが、こういう社会階層の固定化を意味するのであれば、日本でもポピュリズム政治がはびこる下地が作られているということでしょうね。怖い怖い。

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