日本を含め世界各国で世論の分断を招いている移民問題。自分の職が奪われるとか、治安の悪化とか、色んな懸念があるのでしょうが、根本的には自分と違うものへのおぼろげな不安や恐れがあるのでしょう。
その辺りの是非の問題には入り込まず、世界各国での移民の現状、どの国にどの国から移民しているのか、日本はどんな感じか等、大きくデータを観察してみようと思います。
あんた出生地主義に反対じゃなかったのかよ?
もうトランプの支離滅裂な言動にいちいち反応したくないのですが、先日終わったサッカーW杯で、アメリカ代表選手の出場停止への政治介入がありました。しかしこの選手は、両親ともナイジェリア国籍(イギリス在住)。母親が渡航していたアメリカからイギリスへの帰国便に、妊娠7カ月目で安全上の懸念から搭乗を阻止されたため、アメリカで出産したとのこと。このため、この選手はアメリカ国籍を有しているわけですが、これはトランプが忌み嫌う「出生地主義」による国籍取得です。
トランプは、国籍の出生地主義を大幅に制限する大統領令を発出し、最高裁で違憲判決を受けた後も、今後は議会での立法措置を目指す構えです。であれば、本来はレッドカードに大喜びして、「そもそもアメリカ人ですらないこの男が、なぜアメリカ代表なんだ。こんな男にアメリカ国籍を与えたのは史上最大の過ちだ。今すぐ●●(伏字)のような自国に帰れ!」といつも通りSNSで罵倒するんじゃないのかよと思うのですが。
ヨーロッパ各国の代表にも、移民をルーツとする代表選手が多くいますが、移民問題を大声で批判するファラージもルペンも、イングランドやフランスの移民選手を非難する発言はしません。こういうポピュリストのご都合主義を見ると、あんたらの政治信条の「芯」はどこにあんだよ、と情けなくなります。
移民の主な移出国と移入国
ちょっと出だしから話がずれてしまいましたが、移民の「是非」に立ち入ることは避けて、世界各国の移民の状況を、日本の状況も含めて調べてみました。
まずは移民を多く受け入れている移入国、送り出している移出国を見てみます。国連のInternational Migrant Stockというデータベースから、1990~2024年、ほぼ5年ごとでトップ5を抽出しました。このデータでは、理由によらず、自分の国籍とは違う国に12ヵ月以上、継続して住んでいる人を「移民」と定義しています。その国の国籍を取得したかどうかも関係ないようです。つまり海外の支店への異動でも、1年以上の滞在であれば「移民」にカウントされています。
移民の受入れ国(destination)では、言うまでもなくアメリカがトップ。2位以下を大きく引き離して断トツです。2020年、24年ではドイツ、サウジ、イギリス、フランスが続きます。サウジは、イスラム圏からの出稼ぎ労働者が大きいのでしょう。フランスはアフリカ、イギリスはインドやパキスタンの旧植民地国からの移民でしょうね。
因みに日本の順位は20位前後でウロウロしています。1995年だと26位ですが、2020年で17位、2024年では19位です。これを高いと見るか、経済規模、人口規模などを考えれば妥当と見るか、この辺りはひとそれぞれでしょう。
面白いのは2005年まではロシアが第2位の移入国だったこと。恐らくソ連崩壊後も旧構成国の人たちが多く住んでいたのでしょう。ウクライナも、やはりそういう移民受入れ大国でした。この2大国が戦争をしている、というかロシアが一方的に侵略攻撃しているというのは、あまりにも悲劇です。
インドが2000年までは移民の受入れ大国だったというのも、ちょっと意外でした。近隣南アジア諸国からの移民(長期の出稼ぎ労働者)を多く受け入れていたようです。
一方、移民の送り出し側(origin)では、2010年以降はインドがトップ。それまでの移入大国から、移出大国に転じました。また徐々に移出国として地位を高めているのが中国。インドも中国も、あれだけの人口大国ですから、送り出す潜在ストックには事欠きません。メキシコも安定的な上位国ですが、これは大半がアメリカ向けでしょう。
2024年にウクライナが4位に入っているのは、ロシア侵攻を受けての国外退避が影響しているのだと思われます。移出先を調べてみると、以前から多かったドイツやアメリカに加え、チェコ、ポーランドという隣国が上位に入ってきています。

国別の詳細を見るため、上で見た移入大国5ヵ国に日本を加えた6ヵ国で、どの国からの移民が多いのか、年毎の上位5ヵ国で推移を見てみます。移出側が一部の年しか出ていない場合は、それ以外の年にはトップ5に入っていないことを示します。
やはりアメリカは断トツでメキシコ、他の国とはレベルが違います。ただ近年は同じ水準でとどまっており、むしろ伸ばしているのはインド、中国です。この辺りは高技能職者も多いのでしょうが、一方で前述した出生地主義を悪用したbirth tourismというのも、特に中国人の問題として指摘されます。実態として、その規模が大きいとは思いませんが。
日本では昔は韓国がトップだったのが、徐々に減っていき、代わりに急増しているのが中国とベトナム。まぁ、この辺は我々の肌感覚とも近い感じはします。

移出国の所得水準別の動向
移民問題への反感って、イヤな言い方ですが、途上国からの移民だから嫌がられている部分は大きいと思います。そこで日米に加え英独仏伊への移民数の推移を、移出国の所得水準別に見てみました。ただし、ここでは移民ストックではなくフロー数で見ます。以下グラフの1995年=1990~95年の純フロー、2024年=2020~24年の純フローです。
まずかなり意外だったのがイギリス。2020年に正式にEU離脱となり、EU諸国(=高所得国)からの労働者が大量流出しているかと思ったのですが、依然として高所得国からの流入が最大です。ただ足元では中位及び低位中所得国の合計数のほうが上回っており、この辺りがリフォームUKのプロパガンダ材料にされているのでしょう。
ドイツも全体的には高所得国中心の移民フローでしたが、2020年にかけて低所得国移民が急増。詳しく見るとシリア、アフガニスタン、イラクが上位に出ています。これはメルケル政権期に大幅に難民への門戸開放をした結果です。なお2024年での上位中所得国移民の大幅増加は、ウクライナからの難民です。
フランスは圧倒的に低位中所得国からの移民フローが高く、また近年は低所得国からの移民も増えています。フランスはアフリカに旧植民地を多く抱えていた関係で、フランス語圏アフリカからの移民が多くなる点は、他の国と少し違った特徴といえそう。
総じてヨーロッパでは高所得国からの移民が全体の大きなシェアを占めていますが、途上国からの移民が増加傾向にあります。この辺りが、欧州でポピュリズムが力を増してきたきっかけなのでしょう。
アメリカは圧倒的にメキシコ=上位中所得国中心でしたが、全体規模は落ち着いてきて(ストック的には今も最大ですが)、足元では低位中所得国が大きく伸びています。メキシコ以外でもドミ共、エルサルバドル、ブラジルといった他の南米諸国、また足元では中国、インドが大きくなっています。この中では、インドが低位中所得国に該当します。
さて日本はというと、かつては上位中所得国からの移民が最大だったのですが、近年は低位中所得国が大きく上回っています。2010年頃までは圧倒的に中国移民が多く、2位以下の国とは桁が違っていました。他はタイ、フィリピンといった東南アジア、またブラジル、ペルーといった日系移民の子孫の移住でした。
これが2020年になるとベトナムがトップに出ます。いわゆる技能実習生として日本に来る人たちが増えたのでしょう。かつては中国が技能実習生送り出しのトップだったのですが、中国の経済成長に伴って人気が下がり、代わってベトナムが増えた結果です。なお、ベトナムは今年から上位中所得国に格上げされたのですが、今回使うデータ時点では低位中所得国だったので、その分類にしています。

日本の状況をもう少し詳しく
日本への移民フローを所得水準ごとに個別国で詳細を見ると、以下のようになります。いずれも各年の上位3カ国を抽出しています。
2015年の高所得国の急増は単一の国の事情ではなく、台湾、アメリカ、オーストラリアからの急増が見られます。アベノミクスでの経済回復状況でビジネスでの日本駐在が増えたのか、あるいは円安の影響で短期滞在・旅行客が増え、その後、長期滞在につながったということなのでしょうか。でも、これは一時的なものでした。
上位中所得国では、当初はブラジル移民が大きかったのが、その後は中国が取って代わりました。ところが足元では中国からは純流出になっています。もちろん、移民ストックとしては、現在でも中国がトップなので、あくまで「増え方が落ち着いた」というレベルです。2024年だとインドネシアが純流入数でトップ、あとモンゴルとウクライナがトップ3になってはいるものの、目立つ数ではありません。ウクライナは、ロシア侵攻に対して難民受け入れをしたものでしょう。
近年、規模が大きく伸びている低位中所得国では、やはりベトナムです。フィリピンもコンスタントに入ってきていますが、足元でのベトナムの伸びにはかないません。またネパール、ミャンマーの伸びも顕著です。ミャンマーは国内の紛争から逃れた人たちでしょう。ネパールは、最近流行りのインド・ネパール料理店を目指した人たちかなと思いますが、移民規制で最低資本金額が引き上げられてしまい、彼らも途方に暮れていることでしょう。ウチの近所のカレー屋も、果たして生き残れるのか心配です。本来は中国人の違法民泊等の事業者規制だったはずが、ちょっと変な方向に政策が切られてしまいました。
低所得国は、そもそも数も少ないので大勢には影響しないのですが、従来は北朝鮮が圧倒的でした。それが2020年以降、純流出になっています。これが何を原因とするのか、正直、私には全く思いつきません。
アフガニスタンからの流入が増えているのは、2021年のタリバン政権復活に対応した難民受け入れです。現実的には全体に占める規模は極めて小さいのですが、こういうのを針小棒大に取り上げて「移民問題」を声高に叫ぶ勢力に利用されるのではないかと、かなり気になるところです。

