先日のイギリス地方議会選挙では、保守党、労働党ともに大敗し、リフォームUKが躍進するという地殻変動が起きました。他の国でも、近年は伝統政党が苦戦する状況が続いています。政治と社会の両面で極論が支配的になり、既存エリートへの批判→ポピュリズム政治の隆盛という構図でしょうか。
今回は、この「政治と社会の二極化」で世界がどういう状況か、これが始まったのはいつ、どの国がリードしたのかなど、ちょっと探ってみます。
二大政党制のメルトダウン
私はヨーロッパ方面の政治に詳しいわけでも、日常的にウォッチしているわけでもありません。せいぜいテレビの海外ニュースを見る程度ですが、近年の動きにはちょっと不安になってきます。
昔はヨーロッパの政治と言えば、イギリスは保守・労働の2大政党、ドイツはCDU/CSUとSPD、フランスは共和党と社会党と、パターンとして認識できました。しかしフランスではマクロンが新党を立ち上げ、ルペンの国民戦線(今は国民連合?)が単独政党としては一番人気に、また反マクロンの左派政党も立ち上がり、正直、今は政党名もよく分かりません。『不服従のフランス』なんて、名称的には好きですが。
ドイツではAfDが特に地方選挙で圧倒的に支持を伸ばし、国政でも一定の議席を持ち始めています。そしてイギリスでは、ナイジェル・ファラージのリフォームUK(Brexit前まではUKIP)が大人気になっていて、ついに先日の統一地方選では多くの地域で第一党になりました。正直、あのサンダーバードの人形みたいな顔が好きになれん、なんていうとハラスメントかなぁ。
日本では、前回の衆議院選は高市効果で自民党が大勝しましたが、その前の参議院選では参政党が議席を大きく伸ばす展開。次の統一地方選では500人当選目標を掲げています。何となく、イギリスの状況と共通する印象があるんですよね。
リフォームUKも、国政レベルの議席シェアは1%程度(650議席中7議席)ですが、今回の地方議会選挙での得票率は26%程度で、保守党、労働党を上回ったとされます。参政党も国政レベルでは比例議席のみ、選挙区では勝てていませんが、地方議会では全体で173人、市町村レベルでは複数議員を擁して会派を結成している自治体もあるようです。
イギリスも日本も、地方議会選挙は単純小選挙区制です。本来、大規模政党に有利な制度のはずですが、地方議会だと有権者のプールが小さいことから、個別イシューを前面に出した新興勢力が入ってくる余地が高まるとも言われます。
リフォームUKも参政党も、移民反対、反エスタブリッシュメント、国家のアイデンティティ重視等で共通するイメージもあり(全部が同じとは言いませんが)、それが地方選挙で力を伸ばし、国政にも影響を及ぼすといったストーリーでしょうか。
まぁ、アメリカは選挙に掛ける政治資金の問題もあり、なかなか2大政党以外が支持を伸ばせませんが、トランプMAGA派が共和党を中から乗っ取ってしまうという、ちょっと日本やヨーロッパとは違う「新興勢力」が出てしまったのですが。
政治と社会の二極分化
既存政党の混迷の裏で、特に新興勢力の主張が先鋭化、それが特にオンライン・メディアを通じて垂れ流され、世論が分断、二極化していくというトレンドがある感じがします。こんな状況を見られないかと思い、データを探しました。
以前、アメリカの軍事介入の長期的効果を見るため、最近、よく見かける「V-dem」というデータを使ったのですが、このサブ指標として「政治の二極化」と「社会の二極化」を問うた世論調査の数字があったので、これを使ってみます。
前者は「社会は敵対的な政治的グループに二極化しているか」という質問、後者は「主要な政治的問題に関し、社会において深刻な二極分化が起きているか」という質問です。以下はOECD加盟38カ国の2024年の状況です。グラフでは両方ともマイナスほど深刻になるよう符号を調整しています。
大きくは、政治も社会も分断か、どちらも分断していないか、どちらかに分かれるようです。幸い、日本は社会と政治の両面で「分断していない」というところに位置しています。まぁ、これは世論調査の結果なので、日本人が性格的に極端にマイナスな回答をしない、というだけかもしれませんが。
逆に両方とも分断の程度が強いというのが、ハンガリー、ポーランド、トルコ、スロバキアといった国。そこより少し程度は落ちますが、スロベニア、アメリカ、メキシコ、フランス、韓国といったところが難しい状況です。
ハンガリーは、オルバン首相が15年以上にわたって君臨して、司法・選挙制度の変更、メディア統制を通じて、与党に有利なように制度を作り替え、「トランプ以前のトランプ」と言われた状況でしたので、まぁ、この位置づけは分かります。でも先般の選挙で負けた後、簡単に敗北宣言を出して政権交代をしたのは、トランプとは全く逆な潔さでした。
トルコも、エルドアン大統領が20年以上にわたって政権を独占。地方の伝統的イスラム教重視の層と、都市部の世俗派・インテリ層との間での分断が言われます。彼が出てきた頃は、イスラムの価値観、世俗主義、民主主義を両立させ、EU加盟を目指す「改革派穏健イスラム」のリーダーという感じだったのが、その後は強権化を進め、昨年は政敵のイスタンブール市長を逮捕・投獄したりしています。
ポーランドやスロバキア辺り、私は全く詳しくないですが、確かポーランドの前政権は反EUで、ハンガリーと同じく司法・メディア支配を続けていましたし(トゥスク大統領への交代で反転期待)、スロバキアもハンガリーほどではないですが、新ロシア・反ウクライナ支援の姿勢だとされています。

2000年からの変化
ではこの数値が2000年からの四半世紀で、どう移ったのか差を各国で見ます。「2024年-2000年」で計算しているので、マイナス数値は悪化を意味します。やはりわずかの例外を除いて、いずれの側面でも分断は悪化しているという様子です。
ホンマかいなとは思いつつ、日本は社会の二極化については微妙に改善(政治面では微妙に悪化)。デンマーク、ポルトガルも同様です。一方、イタリアとイスラエルは、政治の二極化は若干改善の一方、社会の二極化は悪化という結果。正直、ネタニヤフの下のイスラエルで政治の分断が進んでいないとは思いにくいのですが、まぁ、仕方ないです。
しかし多くの国で、両面で悪化。特に大きく悪化した国として、トルコ、ポーランド、ハンガリー、ドイツ、スロバキアといった辺りが見られます。

最初にリードしたのは?
政治と社会の二極化は世界的なトレンドのように見えますが、どこが「始め」だったんでしょうか。とにかくトランプ現象が強烈なので、アメリカが始点だったように思いがちですが、ヨーロッパの分断も負けていません。
ということで、上で見た悪化の激しい国をいくつか選んで、2000年からの指数の変化を辿ってみました。
例えばアメリカを見ると、政治の分極化は2008年頃から徐々に見られますが、顕著に落ちたのは2016年(トランプ選挙の年)です。トランプ現象があったので分極化したのか、分極化したのでトランプ現象が起きたのかは議論があるでしょうが、転換点としては納得できます。社会の分極化も同じような感じです。
ドイツの場合、社会の分極化は2000年代後半から徐々に起き、2010年代前半に急速に進展、政治の分極化も2010年代後半に大きく進みます。AfDの結成は2013年なので、これと重なる動きです。
かなり早い段階で二極化が進んだのは、オランダ、トルコ、ハンガリーといったところ。トルコ、ハンガリーは上で見た通りですが、オランダもウィルダース党首(こいつの顔も嫌いだったなぁ…って顔で決めんなよ)の自由党が一時期、勢力を持っていましたので、納得できるところではあります。
こうやってみると、むしろヨーロッパのほうがアメリカに先行しているようです。起点としては2010年より少し前のような印象。あまりこじつけはよくないのですが、やはり世界金融危機、その後の欧州金融危機と結びつけたくなってしまいます。
スティーブ・バノンも、AT&Tの技術者だった父親が長年保有していたAT&T株がサブプライム危機で暴落する中、政府の大規模支援で銀行エリートだけが救済されたのを見て、既存の資本主義システム、特にエリート層が主導するグローバル経済に不信感を抱き、経済ナショナリズムに考えを転換したと言っています(ホントか知らんけど)。
やはり経済的ショックが「うまいことやってる奴ら」への恨みとなって、ポピュリズムに転化する、という構図があるかもと思ってしまいますが、まぁ、正しいか分かりません。

