少し前の記事でアメリカの所得、資産格差の長期的な推移を見たのですが、その作業をする中で、金融危機の影響が所得階層でどう違うのか、ちょっと興味が沸いてきました。今回はその辺りを、少し詳細に見てみようと思います。やはり経済は金持ち層に優しいようで、影響の大きさにも、危機からの克服にかかる年数も、かなりの違いがあるようです。
因みにかなり前に、日本でもリーマン危機前後の状況を見ましたが、当時に比べ日本でも金融投資が増えているので、当時のアメリカの状況なども見ておこうかと思ったものです。
所得階層別の所得、資産の動き
まずは10%タイルの階層ごとに、所得と資産の推移を見てみます(いずれも千ドル単位:実質額)。1960年代以降に絞って見てみます。下位層で資産がマイナスになっているのは、純負債を抱えているということです。
まず明らかなのは、真ん中より上の層だとサブプライム危機時の一時的な落ち込み(特に資産面)はあるものの、その後は盛り返して、所得、資産とも、ほぼ右肩上がりの推移を続けているということ。
最悪期の所得、資産の落ち込み幅は、所得階層により大きく異なり、危機前の水準に戻す時期には、やはり所得階層ごとの差がありそうです。特に30~40%層、40~50%層、50~60%層は、最終的には危機の影響を脱してはいますが、資産の低下幅が大きく、上位層とは少し様相が異なります。
もちろん、最下層を除き、結果的には危機前以上の水準に戻っています。これを見て「だから投資なんておやめなさい」と例の評論家のように言うか、長期保有を続ければ(この資産低下時期の生活を乗り切る生活資金を確保しておけば)、プラスのリターンが期待できると考えるのか、その辺りは人それぞれでしょう。くれぐれも投資は余裕資金で行いましょうね。
問題は最も下の3階層です。10~20%層、20~30%層では長期的に平均所得は横軸を右のほうに移動していますが、0~10%層では停滞しています。ちょっと見にくいですが、1970年代までは何とかプラス方向への動きでしたが、1990年頃から逆行を始めます。
また資産を見ると、0~10%層、10~20%層では90年代以降、ずっと純負債を抱えたままの状態。ちょっと具体的に何が要因だったのか特定はできないのですが、どうも私はこの時期のクリントン政権の政策にいいイメージがないんですよね(全くの個人的感想です)。
もちろん、これは同じ人の年代別推移ではなく、例えば1960年代には最下層だったのが、その後、所得が伸びて上の階層に移行したという人もいるかもしれませんが、近年のアメリカでは社会階層の移動は困難と言われるので、やはり固定されている可能性が高いでしょう。

危機時の落ち込み幅
では、2008年のサブプライム危機の影響に絞って、1%タイルごとの資産、所得に及んだ影響を見てみます。横軸は所得・資産の階層(50=50~51%タイル等を意味)。縦軸は2008年水準に比較して、その後の「最悪期」にどこまで所得、資産が落ち込んだかの比率です。なお下位層は資産水準自体がマイナスなので、資産については変化率を計算していません。
明らかなのは、下位層になるほど、資産も所得も落ち込みが激しいということ。最下位層では税引き前所得は80%近くダウン、税引き・給付後所得でも40%ダウンです。もともと厳しい所得しか得ていない層ですから、ここで半分近くにまで落ち込んでは、まともな生活は送れないでしょう。
所得階層が上がるにつれて、落ち込み幅は緩やかになります(25%タイル層辺りに、ひとつ山があるのは、ちょっと興味が沸きますが)。税引き前では80%タイル辺り、税引き後では75%タイル辺りで、最も影響が小さくなります。
そこから上で再び影響が大きくなるのは、この辺りの富裕層だと、報酬が株価に連動するという要素があるためかなと邪推していますが、全くのあてずっぽうです。ただ、この辺りは使いきれないぐらいの報酬を得ていますから、大して気にならないでしょう。
資産で見ると、(2008年時点でプラスの資産を持っていた中で)最下層は悲惨。200%もの下落です。ここは32%タイル層なのですが、この層は2008年にはプラスの資産を持っていたのが、最悪期にはマイナスとなっています。これ以上の層では、何とか純負債者にはならずに済んだようです。
最初のグラフ(10%タイルごと)で見たように、下の3層では最悪期の資産はマイナス(純負債)になっていますが、下から2番目の10~20%タイル層が最も金額的には大きな負債を抱えています。最下層では、そもそも借金をしたくても(消費ローンとかクレジットカード負債とか)借りられないが、もう少し上だと借りられる余地がある分、さらに厳しい状況になるということでしょう。

危機克服に要する年数
さて、では危機後、2008年水準の所得、資産に戻ったのは何年だったのかを見てみます。ここでも、資産については2008年時点でマイナスだった層は落としています。
まず資産について見ると、一番早かったのは、一番下の32%タイル層。ただ、もともとゼロ資産に近い人たちなので、ほぼゼロに戻っただけです。この辺りを除くと、最も資産レベルの高かった層が、最も早く2012年には危機前の水準に戻しています。
逆に最も時間がかかったのが60~70%タイル辺りの層。言ってみれば中間層といっていいでしょう。この辺りは、元の資産水準に戻るのが2017年と、約10年かかったことになります。富裕層に比べ最長で5年も長くかかったということであれば、この層が「エリート連中は政府からベイルアウト資金なんかももらって直ぐ回復したのに、政府は俺たちを見捨てるのか」といった恨み節を言いたくなるのも、ちょっと分かる気がします。
所得についても、やはり富裕層ほど有利ですが(最上位だと2年後の2010年には元に戻している!)、資産と違って、こちらは貧困層ほど時間がかかるという問題があります。まぁ、税引き・調整後所得で一番下の層がすぐ翌年に元に戻しているのは、景気対策の給付金等が入ったということだろうと思います。税引き前所得がもとに戻るのは、この層で2021年と13年後ですからね。
しかし最下層を除けば、税引き後で見ても富裕層ほど早く危機前の水準に戻るというのは、この世界というのは金持ちほど危機に対しても復元力が高いということですね。富裕層は「それは俺が頑張ったからだ」というのでしょうが、それが親から受け継いだ資産だったり、親のコネで得たポジションだったりだとすれば、そりゃ世間の連中は怒るわな。

