トランプ政権が金持ち優遇なのは言うまでもないですね。個人所得税の最高税率引き下げ、相続税の非課税枠の拡大、法人税率引き下げと、金持ちに有利な税制改正をなりふり構わず進めています。
以前、日本の所得・資産の階層別データやG7の所得分配の状況を見ましたが、アメリカの場合、かなり古くからデータが得られるので、もう少し長期間での推移を見てみます。1980年代を境に格差をめぐる状況が反転し、現在では戦前に近い水準になっている感じが分かります。時々の政権の政策と併せて、長い動きを見てみようと思います。
トップ/ボトム層の所得シェア
まず上位1%と下位10%の所得シェアの推移を見てみます。税引き前所得(点線)と税引き後所得(実線)の推移です。前回までと同じく、World Inequality Databaseを使いますが、アメリカでは共通して1913年からの長期データが得られます。
まず下位10%を見ると、戦前は税引き後所得で見て1%強程度(税引き前所得で0.5%程度:時々、変なジャンプがあるのですが)で推移しています。これが1940年頃から1.3%程度へと上昇します。第2次大戦の戦時動員の影響でしょう。1960年代半ば以降には、さらに大きく上昇、75年頃に2%強のピークに達するのですが、その後は傾向的に低下していき、現在では戦前を下回る1%以下の水準にまで低下しています。
トップ1%で見ると、完全に動きは逆になっています。戦前は税引き後で20%弱の水準でしたが、これが第2次大戦期に10%水準にまで大きく低下、ボトムは1975年頃です。しかし、その後は反転、現在は15%程度と戦争直前ぐらいの水準ですね。税引き前所得で見ると20%程度と、ほぼ戦前と同じ程度のシェアにまで回復しています。
大雑把に言えば、トップとボトムの所得シェアは、第二次大戦から1970年代頃にかけて大きく差が縮まりましたが、その後は改善分がほぼ帳消し、現在ではほぼ1920年代と同程度の水準にまで逆戻りしていると言えそうです。

所得税率の推移
ここでアメリカの所得税の最高税率の推移を見ます。うまくデータを探せなかったので、生成AIにデータを整理してもらったものです。大きく変化した際のイベントも整理してくれたので、ありがたいことに日本語で作れました。
所得税が最初に導入されたのは1913年だそうです。それ以前、主財源のひとつは関税でした。トランプはこの時代(高関税、所得税ゼロ)に戻したいわけですね。データベースで税引き後所得のデータが出るのも1913年以降しかない理由が、これで分かりました。この時の最高税率は、わずか7%だったようです。
これが1917年に67%、1918年に77%にまで大幅に引き上げられます。第1次世界大戦の戦費調達のせいですね。さすがに戦後、すぐに25%水準まで引き下げられています。この時期のアメリカ経済は空前の好景気ですが、同時にバブルも膨らみ続けていた時期。結果、1929年の世界恐慌に至ります。
そこでルーズベルト政権は恐慌対応の増税を行い、最高税率は63%に引き上げられます。恐慌対策で増税というのはチグハグな印象にもなりますが、最高税率ですからね。富裕層から資金を集めて、公共事業や失業給付に充当したということでしょう。
ただその後は第二次大戦の戦費調達でさらに最高税率は引き上げられ、1944年には94%となります。まぁ、ほぼ社会主義のようなものですが、戦争ですから仕方ないでしょう。当然、戦後は落ち着くのですが、それでも1970年代までは70%の水準でした。
そこで出てきたのがレーガン政権。「ラッファー曲線」という思い付きのようなアイディアにより、急激に最高税率が引き下げられ、80年代末には28%となります。その後、クリントン政権(↑)、ブッシュ政権(↓)、オバマ政権(↑)、トランプ政権(↓)というシーソー状態が続くわけですが、最高税率自体は、ほぼ20年代に近い水準で推移します。

アメリカの所得・資産分配の長期的傾向
この間の格差の推移の全体像を見るため、ジニ係数の長期的な傾向を見てみます。以下は税引き後所得と家計純資産のジニ係数の推移です。すべての年を書き入れると見にくくなってしまうので、具体的な年数は4年ごとに絞って記載しています。
大きな動きとしては、戦前の時期はグラフの右上領域(資産格差も所得格差も高い)に固まっていたのが、一度、左下の領域にシフトしたものの、2000年代以降、また右上領域に戻ったという流れ。所得格差は少し低いですが、資産格差はほぼ同じ水準です。
先のグラフで見た通り、大きく格差が縮小したのが1940年代。「大圧縮 (great compression)」と言われる時期で、上位の没落ではなく、下位の底上げによる不平等縮小です。戦時動員による人員不足で賃金が大きく上昇したのに加え、黒人や女性労働力の需要が高まったことも背景のひとつでしょう。
この流れは、1960年代になっても続きます。民主党ジョンソン政権の「偉大な社会」イニシアティブです。公民権法の成立による黒人差別の撤廃とともに、メディケア(高齢者向け公的医療保険)、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)、フードスタンプ等の社会保障制度が作られ、直接的な給付、健康保険面から大規模な所得移転が実施された時期です。この辺りが、トランプが目の敵にして、潰そうとしている制度ですね。
ただベトナム戦争の泥沼化に踏み込んだのもジョンソン政権。ベトナム戦争での膨大な軍事費支出、さらにその後の景気後退により、十分な財源確保ができなくなりました。その後、共和党ニクソン政権への交代により、社会福祉予算の削減が続き、制度も弱体化していきました。
次の大きな動きが1980年代(共和党レーガン政権期)。最初は所得格差が、続いて資産格差も拡大する方向に動きます。累進税率の緩和や労働組合の弱体化が進み、富裕層・資本側へ有利な構造へ転換しました。
当初、資産ジニ係数が低下を続けるのは、ボルカーFRB議長(1979~87年在籍)の金融引き締め政策で株式市場が低迷した影響が大きいのかと思います。また1980年には日本のiDecoのモデルになった401kが創設されたので、一般労働者へも株式投資が普及したというポジティブな要因もあったのかもしれません。
1990年代は民主党クリントン政権の時期ですが、資産も不平等が拡大します。この時期は、金融規制緩和、デリバティブ・証券化の拡大、投資銀行・ヘッジファンドの台頭により、金融資産価格が大きく上昇した時期です。民主党政権らしくない政策ですが、一方でゴア副大統領は気候変動問題に熱心で、民主党が「意識高い系」へシフトし始めた時期。正直、私はクリントン政権の政策は好きになれませんでした。
その後、2000年代後半、ブッシュ政権期にはサブプライムのバブルで資産格差が拡大、オバマ1期目はバブル崩壊後の景気停滞で所得格差が拡大します。2期目にはこれが改善していきますが、右上の領域内での推移に限られます。
その後、トランプ1期政権期(2016年以降)には所得格差が大きく低下しますが、これはコロナ期の経済停滞と、それに対する給付金の増額を反映したものでしょう。トランプの政策が寄与したものでは全くありません。以前、友人から聞いたのですが「バイデン政権時の主要閣僚全員の総資産合計は176億円だったが、トランプ政権では74兆円(一人当たり5兆円規模)」とのこと。こいつらに一般庶民の生活が分かるはずないでしょう。
少なくとも歴史を見ると、政策的には民主党政権のほうが低所得者対策、格差是正策には積極的だったと整理できそうなのですが、どうも現在の低所得者層には民主党は人気がないんですよね。どこかで「生活」よりも「意識高い系」に政策の重点がシフトしたから、なんていうと叩かれるかもしれませんが、果たして2028年の大統領選挙に向けて、この辺りの修正ができるかどうか。中間選挙予備選では「民主社会主義」候補が勝つ様子も見られますが、本選での民主党勝利につながるのか、逆に穏健中間層に嫌われる要因となってしまうのか、実に気になるところです。

