IMF WEO 2026年4月版:イラン問題の影響って、こんな程度なのか?

恒例のIMF世界経済見通し(WEO)の2026年春バージョンが出ました。もう少しドラスティックなイラン問題の影響などが見られるかと思ったのですが、まぁ、ほぼほぼ平常運転に近い感じでしょうか。

少し報道等より細かく、前回バージョンからの変化等を見てみようと思います。なお今年1月に「WEO update」が出ていますが、そちらは細かいデータベースがないので、以下はすべて昨年10月バージョンとの比較です。

影響が大きいのは商品価格の高騰

今回のWEOの関心事は、当然ながらイラン問題の世界経済への影響。去年のバージョンはトランプ関税の影響が主関心でしたが、これが思ったほどではないと分かってきたところで、また大きな不確実性が追加されてしまいました。

トランプ関税の時と同じく、ベースライン予測に加えて、悲観シナリオも作っていますが、以下では詳細データが公表されているベースラインを使います。事態は2026年半ばには安定化するとの想定ですが、まぁ、最近のTACOぶり、また金融市場の反応を見れば、妥当な想定と考えたいところ(期待半分ですが)。一番のリスク要因は、自分の政治的保身が最優先のネタニヤフが、トチ狂って紛争を続けることでしょうかね。

今回のイラン攻撃の最大の問題は、イランや周辺国の物理的な被害というより、イランにホルムズ海峡封鎖という武器があることを、イラン自身と世界に認識させてしまった点。言ってみれば、パンドラの箱を開けてしまったという感じでしょうか。当然、商品価格の先行き見通しは、大きな変更を余儀なくされました。

まず商品価格総合(All commodities)で見ると、昨年バージョンでは大きく落ち着いた2023~25年水準が今後も続くと見られていたのが、今年のバージョンでは今年急騰した後も、将来的にあまり下がらない見通しとなっています。

農業原材料(agricultural raw materials)や食品(food)では、それほど大きな上昇はない一方、他は軒並み大きく引き上げられています。石炭(coal)は大きく動いていないように見えますが、縦軸の水準が違うせいです(あまりに2022年水準が高すぎた)。

化石燃料だけでなく、工業原材料(Industrial materials)、金属(Metal)といった方面にも価格上昇は健著で、製造業には中期的にかなりのコスト上昇圧力がかかりそうです。つまり紛争自体は早期に収束しても、価格がもとに戻ることはなく、コスト面への影響は長期化するということですね。

個別の石油、ガス価格の見通しも見てみます。石油はWTI、ブレント、ドバイすべてで2026年に急上昇が見られますが、特に影響が大きいのはドバイ原油。今年の上昇幅も大きいうえ、この影響が長期にわたって続くという見通しになっていて、特に中東産原油への依存度が高いアジア地域には、かなりの痛手が続きそう。

天然ガス価格は、アメリカでは影響は見られませんが、EU、アジアのLNGは上昇しています。ただしドバイ原油と違い、その影響は再来年2028年にはフェードアウトする様子です。この辺りは、少し安心材料とは言えますが、石油は燃料だけじゃなく、素材としての需要もありますからね。燃料だけならガスに転換したり、原子力や再エネにシフトしたりで対応する余地もありますが、素材原料はどうしようもないです。

マクロ経済への影響:総じて影響は一時的ともいえるが

次に世界経済への影響、特にGDP成長率とインフレ率への影響を見てみます。これも昨年秋バージョンの見通しと合わせて、その推移を見てみます。

まずGDP成長率を見ると、2025年実績は昨年秋の見通しより高く終わりました。確かにトランプ相互関税の発表時には大混乱が起き、世界貿易が崩壊するぞ、といった不安もあったのですが、TACO気味の運営もあり、結局、予想したほどの悪影響はなかったという感じでした。まぁ、それでも5500億ドル(85兆円)の対米投資を一生懸命進めるのが、日本の生真面目さというか…。

今年2026年の世界全体の成長率は3.06%に低下。とはいえ、これは昨年秋の見通し3.09%とほぼ同じであり、う~ん、どこまでイラン紛争の影響があるというべきか、ちょっと迷うところです。その後は3%台前半の水準でずっと推移します。

これを先進国と途上国に分けて見ると、先進国の2026年成長率は、2025年に比べるとわずかに落ちますが(1.94%→1.78%)、昨年版WEOとの比較では、まだ高い水準です。これに対し途上国の場合は、2026年の成長率下押しがもう少し強く見られます(2025年4.42%→2026年3.87%;昨年時の2026年予測は4.00%)。ここは、後でもう少しよく見ます。

一方、インフレ率は先進国、途上国ともに押し上げが見られます。いずれも2025年から0.3%ほど上昇しますが、2027年以降は落ち着くとの想定です。とは言え、インフレは「上昇率」ですが、消費者にとって気になるのは「物価水準」。今年、押し上げられたモノの値段が下がるわけではなく、ちゃんと所得が上がってくれない限り、不満は続きます。上で見た通り、商品価格は「上昇」が続くわけではないものの、「高止まり」しています。

地域別の状況:短期的には中東、アジアの鈍化傾向は中国問題?

もう少し細かく見るため、地域別の途上国、G7と併せて見ると、やはり影響が大きいのは中東で、特に成長率の落ち込みが顕著。まぁ、驚くことではないですね。アジア地域は確かに成長率が低下してきていますが、恐らく中国の成長率低下の影響が大きいでしょう。G7、欧州新興国、中南米は、そう大きな変化があるとは言えない感じ。

アフリカは成長率が2025年から低下し、また昨年見通しと比較しても低い水準ということで厳しい状況。資源価格の上昇である程度潤う国もあるでしょうが、主要産業である農産物価格の上昇は限定的ということで、あまり大きく裨益はしていない様子です。ただ将来的に成長率が上がっていく唯一の地域であり、この見通しが正しいことを祈ります。

主要国の成長率を見ると、当然ながらイランの急落が激しいですね。今年は▲6.1%の収縮。ただ紛争が短期終結する想定なので、来年3.2%へと回復する見通しです。当然、復興需要はあるでしょうが、先進国や世界銀行が復興支援を大々的に行うとは思えず、またアメリカが賠償金を払うこともないとすれば、やはりホルムズ海峡通行料をとるのかなぁ。あるいは中国が「一帯一路」支援?いずれにしても、困ったものだ。

分からんのがイスラエル。今年は昨年秋の見通しを下回るものの、大きな影響はなく3.5%成長を維持、しかも来年は4.4%にさらに上昇する見通しです。今回のイラン・レバノン攻撃で使いまくった軍需物資を補填するための需要と考えるべきなのか。この混乱に対し、何らかのコストを払ってほしいと思ってしまうのは私だけだろうか。

一方でウクライナ攻撃にかかりきりのロシア。ウクライナ侵攻を始めた2022年はマイナス成長だったのが、軍需に支えられ23~24年は4~5%の高成長でした。しかし昨年は1%弱に息切れし、今後も同水準での推移との見通しです。戦争で労働人口が大きく減少した以上、少々の資源価格上昇があっても、高成長への復帰は難しいということでしょうか。完全にプーチンの判断間違いでしたね。

そして大きく目立つのは、中国で継続的に成長率の鈍化が見込まれている点。今年の政府目標は「4.5~5.0%」ですが、IMF見通しでは4.4%、来年は4.0%に下がり、2031年には3.3%成長へと落ちていきます。もちろん日本などからすれば十分に高いのですが、先進国水準に到達する前にガス欠になったということでしょう。

で、これはイラン紛争の影響なのか?

さて、こうやって今回のWEOを見てきましたが、世界経済の成長率が0.3%ポイント落ちるとはいえ、果たしてイラン紛争の影響が、どこまで深刻なものなのか、ちょっと判断に迷うところがあります。

そこで、ちょっと簡単な計算をしてみます。IMFでは各国データをPPPベースのGDPで加重平均して世界全体のデータに換算しているので、2025年と2026年のGDP成長率を各国の寄与度に分解して、その差を計算しました。これにより2026年の0.3%ポイントの成長率低下がどの国の影響かを見たのが、以下のグラフです。絶対値で上位15カ国を抽出しました。当然、経済規模の大きい国が出てくる傾向です。

これによると、成長率を引き上げる方向に働いたのが、アメリカ、メキシコ、ドイツ、韓国の4カ国。これだけ世界に迷惑をかけたアメリカですが、世界経済にはプラスになっているのが皮肉です。

一方、マイナス寄与の国を見ると、まず断トツで中国。世界全体の成長率を0.09%ポイント強、引き下げています。次いでインドが0.08%ポイント程と続きます。もちろん、両国とも成長率自体はプラスなので、あくまで「世界経済の成長率が2025年から低下した」ことの主犯であり、これらの国がマイナス成長に陥ったということではありません。

その下を見ると、イラン、イラク、カタール、サウジといった中東産油国が並びます。この辺りは明かにイラン紛争の飛び火と言っていいでしょう。これ以外だと、アイルランド、台湾、そして日本もちゃんとランクインしています。まぁ、落ちてきたとはいえ、まだまだ経済規模で言えば大国の証だと慰めましょう。

こうして見ると、世界経済の成長鈍化をイラン紛争の影響として説明していいのか、ちょっと迷うところ。ここにあげた中東諸国の影響はありますが、最も大きいのは中国とインドの成長率が下がったこと。特に中国は今後、成長率が低下していく傾向なので、他の国、できればアメリカ、インド、あるいは日本やドイツなどの規模の大きい国が成長率を上げていかないと、世界全体の成長率が3%を切って2%台になるなんてこともあるかもしれません。

…が、日本は難しいだろうなぁ。高市成長戦略って、もうひとつ方向が見えないし。

タイトルとURLをコピーしました