女子テニスの常勝クラブ~少し昔のほうが面白かったのかも

今年の全豪は、男子は順当にシナーが優勝しましたが、女子は第19シードのキーズの初優勝。もちろん、これまでも一定程度の成績は残していた選手ですが、なかなか優勝候補と見られることは少なかった印象。ビッグ3が強すぎた近年の男子と比べてはいけませんが、女子は必ずしもトップシードでない選手の「番狂わせ」が比較的多い印象はあります(最たるものは予選上がりで優勝したラドゥカヌでしょうか)。

それはともかく、以前、男子テニス界の歴代トップ選手たちの戦績を見たので、やはり女子テニス界も同じように見ないと男女差別と言われてしまいます。

ということで似たような作業をしようと思ったのですが、近年だとセレナ・ウィリアムズの一人勝ちという感じ。むしろ面白いのは、少し古い時代なのかなとも思いました。

まぁ、とりあえず観察を始めてみましょう。

年間勝率上位グループの推移

男子の時と同様、年間の勝率上位(85%以上)の選手の推移を見てみます。男子とは状況が少し異なり、登場人物が多い。特に70年代辺りは多すぎて、グラフが読み取りにくい感じすらします。

1970年代前半はマーガレット・コートやビリー・ジーン・キングといった、ほとんど歴史上の人物みたいな名前が見られます。データが1968年からなのですが、恐らくそのもっと前から、この辺りの人たちは活躍していたのでしょう。

70年代に入ると、ここにクリス・エバートが連続して入ってきます。しかも息が長く、80年代半ばまで、ずっとトップリストに載っています。

後半になって、そこに割って入ってくるのがナブラチロワ。1983年の戦績は93勝1敗で98.9%という異常な数字を残しています。この人も10年以上、常勝クラブに居続けることになります。

それに代わるのがシュテフィ・グラフ。80年代末にはかなりの勝率を誇りますが、期間的には少し短くなり、90年代半ばまでの活躍となります。

そして2000年代にはセレナ・ウィリアムズの一人勝ち時代が始まります。数年サイクルで新しい名前も出てくるのですが、グラフ以前の時代のように長続きする選手がセレナと並列して活躍する感じではなくなります。

2010年代になると(ほぼ)セレナの名前のみ、そして20年代にはシフィオンテックとなります。この辺りが、男子と比べると少し面白くないと感じる(失礼)原因なのかもしれません。

同時代のライバル

もう少しエバートが活躍する時代が遅かったり、あるいはグラフが早くに生まれていたりすれば、エバート、ナブラチロワ、グラフが、男子のビッグ3のような関係になったのかもしれませんが、微妙に時期がずれていたのが残念。ただ女子の場合、同時代のライバルというのは、男子の場合より多かったようです。

以下は毎年、勝率85%以上の常勝クラブに載る人数を男女で比較したものです。男子(ATP)の場合、かなりの年において常勝クラブのメンバーは1人だったのですが、女子(WTA)の場合、大半の年で2人、71~72年には4人なんていう年もありました。この結果、どうもグラフが読みにくくなってしまっていたようです。

また男子の場合、1990年代から2000年代初頭が戦国時代(常勝クラブ0人)だったのですが、女子の場合は2010年前後以降が戦国時代。セレナの一人勝ち時代であっても、必ずしも常に彼女の勝率が高いわけではなかったようです。

やはり、男子のビッグ3に相当するのは、エバートvsナブラチロワのライバルなんでしょうかね。正直、私はこの頃のテニスは全く知らず、歴史上の出来事に近いのですが。モニカ・セレスの事件がなければ、グラフvsセレスが同じようなライバル関係になったんでしょうか。

トップに位置した年数

セレナの勝率が「そこまで高くなかった」といっても、それは85%を上回るという高い基準に対しての話。男子でやったのと同じように、勝率70%を超えた年以降、年々の勝率を眺めてみます。

ここではエバート、ナブラチロワ、グラフ、セレナの4人で比較します。

男子の場合、レンドル、マッケンローが勝率70%以上を維持したのが12年、ビッグ3で18~19年でした。それに対し女子の場合、グラフは短いのですが(といっても、レンドル、マッケンローより長い15年)、エバート、ナブラチロワは20年、セレナに至っては23年と、完全に男子を凌駕しています。

生まれたばかりの子供が大学を卒業して、社会人1年目になるまでトップに君臨していたわけで、ちょっと尋常ではありません。

苦手プレイヤーは?

ここまで強いと、実際負けた試合というのも少ないわけですが、どんなプレイヤーに負けたのかと見てみると、以下のような感じ。最初のパネルは、2試合以上負けた相手の上位10位をリストしたもの(同数がいるので10人以上もありますが)。次のパネルは対戦成績での敗率(ってコトバはあるのか?)の上位10人です。

やはりエバート、ナブラチロワ、グラフは、お互いで負けの上位に位置しあっている感じです。グラフの負け試合数でトップのサバティーニなんて、懐かしい名前が見られると嬉しくなってしまう。

セレナの場合で特徴的なのは、負け試合数では姉のビーナスが断トツ。ただし敗率になるとヒンギスがトップで、ビーナスは5位に下がります。ビーナスは比較的早くにトップから落ちてしまいましたが、恐らく初期の段階では、この両者がトーナメント決勝などの終盤で当たる試合が非常に多かったのでしょう。

アップセットの確率

男子と同じように、アップセットの確率を計算してみます。定義は(全く恣意的ですが、男子でやったのと同じく)ランキング10位以内の選手が、ランキング30位以下の選手に負けること、と設定します。

ランキング・データの関係で、1985年以降の数字しか計算できませんので、マーガレット・コートやビリー・ジーン・キングの時代は含まれていません。エバートの最終期、ナブラチロワの後半以降の時期のみです。

まず年間の全試合のうちアップセットが起きた確率を見ると、以下のように、ほぼ右肩上がりの様子。80年代から2000年代ごろまでは、だいたい5%程度の低い数字で推移していました。それが2010年より少し前ぐらいから急激に上昇を始め、2020年頃には20%という戦国時代に入ります。

先ほどの常勝クラブの人数の推移でも見たように、安定して勝ち続ける選手が徐々に減ってきています。確かに最近、「これ誰や?」という選手が上位に出てくることが多くなった印象はあります。

アップセットされた確率を見ると以下の通り。一番低いのはグラフで、驚異の0.25%(785勝2敗!)。次いでヒンギス、ナブラチロワ、エバートといった順位。セレナは7位で3.8%(681勝27敗)。

全試合を通じて負けた選手の平均ランクを計算すると、グラフが7.7位、エバート10.2位、ナブラチロワ13.1位に対して、セレナは22.9位と下がります。

戦績的には圧倒的だったのですが、取りこぼしも多かったということかもしれません。とはいえ、あれだけ長期間にわたってプレーして、途中、出産で戦列を離れてから復帰という時期もあったりしたので、これは仕方ないでしょうね。

さらにグランドスラムのタイトル数は23と、マーガレット・コートの24にひとつ足りないだけ、グラフの22よりひとつ上という成績。数年ごとに新しいライバルが出てくる中で、これだけ勝ち続けたわけですから、大したものです。

逆に言えば、グラフは比較的活躍期間が短かったのに、これだけのタイトルを取っているという評価もできます。う~ん、どっちが凄かったと言えばいいのか…。

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