もう結果が決まったことをゴチャゴチャ言っても仕方ないのですが、ほぼ最終結果に近いところまで来たので、少しだけ大統領選挙の結果についてアップデートをしようと思います。
特に出口調査の結果を使って、どんな人がどちらに投票したのか、果たして民主党の棄権者がいたのかなど、もう少し見てみようと思います。
一般投票と州別得票率のアップデート
11/20朝現在、大半の州で開票率が95~99%になりました(なんで、こんなに時間がかかるのか不思議ですが)。一般投票での得票数は、前回、開票が遅れていた数州を調整したものと、ほとんど変わりませんでした。やはり共和党が少し伸ばした一方で、民主党は大きく落としている、という結果となりました。
また各州の得票率をマージン(両党の得票率の差)で色分けしたものもアップデートしました。これも大勢では変わりありません。少し色の濃さが変わった州はありますが、ほとんどは前回の通りです。
ということで、ここまでは特に追加情報はありません。
どんな属性の人が投票したのか
さて前回は一般投票での民主党得票数の大幅減を見て、民主党支持者が棄権したのでは、という疑問を述べました。もちろん、これが正しいかどうかは分かりませんが、出口調査を使って、もう少し掘り下げて考えられるかもしれません。
以下ではCNNの出口調査結果を使います。回答者数は22,194人と、1.5億人超の投票者数から比べると、あまりに少ないので、これで全体像を正確に把握できるとは思いませんが、それでも少しは深堀りできるかと思います。
まずは回答者のイデオロギーと党派の属性のシェアを見てみます。前回2020年の出口調査は、コロナの影響もあったのでしょうか、15,590人とさらに少ないのですが、単純に比較をしてみます。
共和/保守、民主/リベラルが数を減らし、無党派/中道が増えています。ただし党派的には、民主党のほうが大きく減らしていて、やはり民主党支持者が今回は投票しなかったのかな、という印象は持ちます。
ちょっと不思議なのは、前回2020年選挙では、党派的には民主党のほうが共和党より少し多かったのに、イデオロギーでは保守よりリベラルのほうが少ない、という逆転現象があること。民主党支持者の中でも、「自分はリベラルではなく、中道だ」という人たちが多い、ということのようです(もちろん出口調査に、正直に答えるとは限りませんが)。
この中道/無党派を動員できていれば、今回、ハリスが勝てたのでしょうが、どうもそうなっていない様子。この点は後で見ます。
年齢については、25~29歳の若者層が若干低く、また50~64歳層が大きく低下する一方、65歳以上が大きく増加しています。また人種的には白人が比率を落として、非白人がすべて少しずつ増えています。
私の勝手なイメージだと、「意識高い系」の民主党左派の支持者というのは、白人の学生層という感じを持っていますが、やはり上の民主党支持者の投票減は、この層の離反だったのでしょうか。
教育水準で行くと、非大卒と学部卒が減って、大学中退と院卒が増加、短大は変わらず、という感じで、ちょっと何とも言い難い感じですね。ここは、あくまで「ご覧ください」以上のコメントはできません。
最後に所得水準です。ここは想定と違い、10万ドルを超える上位2階層が増えて、10万ドル未満の下位3階層は軒並みダウン。むしろ、この層がトランプ支持で増えたのかと思ったのですが、どうもそうではないようです。
最近はむしろ民主党が金持ちの党、共和党(あるいはトランプ党)が労働者の党という色分けに代わっているのですが、それにも関わらず民主党が得票数を落とすという矛盾が見られます。出口調査で所得のサバ読みをしたということはないでしょうが。
ただし4年前と比べての家計状況については、圧倒的に多数が苦しくなったと答えています。前回は逆に「悪くなった」との回答が少なく、「同じ」か「よくなった」という回答が多数だったので、本来なら当時の政権与党のトランプが当選する可能性が高かったはず。コロナの混乱がなかったら、前回はトランプ再選だったでしょうね。
所得水準自体は前回より高所得層が増えているのに、家計的には苦しくなったという回答が圧倒的なのは、この間のインフレ、金利引き上げによるクレジットカードの返済負担、また特に苦しいと言われる家賃の高騰、といったところが影響しているのかもしれません。さすがにこの回答を見ると、現政権与党には厳しいでしょう。コロナ初期のインフレを、当時FRBは「一時的なもの」として、引き締めが遅れたのが、今から考えると間違いだったのかと思えます。
投票者の属性と投票先の変化
さて上記では、出口調査ベースでの投票者の属性のシェアから、どういう人たちが投票したのかを類推したのですが、その人たちがどう投票したのかを、以下で見ていきます。
まず前回の投票先の質問があったので、その回答ごとの今回の投票行動を見ます。左側が各回答内での投票先の全体シェア、右が民主党への投票率から共和党への投票率を引いたマージンです(プラスほど、民主党への投票が多い)。
まず前回トランプに投票した人は、当然ながら今回も大半が共和党トランプに投票、逆に前回バイデンに投票した人は、大半が今回も民主党ハリスに投票しています。これは当然ですね。
ただし、前回も今回も同じ党に投票した比率は、民主も共和もほぼ同じなのですが、前回トランプ→今回ハリスは1.7%、前回バイデン→今回トランプは2.6%と、若干、ハリスに不利な動き。つまり無党派層の中で、若干ながらトランプにシフトした人のほうが多かったと見られます。
また前回投票しなかった人、前回民主・共和以外の第3候補に投票した人の今回の投票行動を見ると、ほぼ同じぐらいではあるものの、若干、トランプのほうに振れています。やはり、微妙なところでトランプ支持のほうが多く、これが一般投票での民主敗北につながっています。
党派で見ても同じ。民主党支持者も共和党支持者も、その中ではほとんどマージンは動いていません。ただし無党派層を見ると、民主党マージンは前回の3.4%から1.0%へとプラス幅が縮小しています。
ただし、依然として無党派は若干ながらハリス支持に傾いています。それでも負けたのは、民主党支持者の投票数が落ちたからです。全体の中で共和党支持者のシェアも落ちていますが、それでも民主党支持者のシェアの落ち方が顕著です。やはり大きな敗因は、民主党支持者が投票を棄権したことにあると考えられます。もちろん出口調査の範囲なので、確たる結論は出せませんが。
最後に人種で見ます。依然として投票者数の中のシェアで言えば、白人が圧倒的に多いです。とはいえ、非白人のほうが(出口調査の対象でない)郵便投票が多いと思われ、実際の投票ときっちり一致はしないでしょうが。そして白人は全体的には共和党支持が強く、その程度は前回選挙からほとんど動いていません(矢印は微妙にプラス側=民主党側に向いていますが)。
一方、黒人は全体的には民主党支持のマージンが大きいグループです。こちらは逆に微妙にではありますが、共和党支持にシフトしています。
問題は残りのグループです。ラテン系、アジア系、その他人種とすべてのグループで、大幅に共和党側に支持がシフトしています。ラテン系、アジア系では、依然として民主党がプラスのマージンを得ていますが、このような民主党の勝ちの「糊しろ」がなくなってきたことで、今回の民主党の負け(一般投票でも)につながったと言えます。
これが、このグループの「トランプ支持へのシフト」なのか、このグループ内での「民主党支持者の棄権」なのかは、この出口調査だけからは分かりません。まぁ、この辺は、今後、民主党内でしっかりと調査がされるだろうと思います。
2008年、オバマに大敗した共和党は詳細な敗因分析を行いました(別名「検視報告書」と呼ばれたらしい)。人口動態の変化などを踏まえて、ラテン系等のマイノリティをどう取り込むかが大きな課題だったとされます。
トランプ自身は、2016年選挙の際、全く共和党の中心には位置しておらず(予備選でも完全に共和党内でキワモノ扱いだった)、この共和党戦略とは全く別に、白人労働者、「忘れられた人々」を取り込む戦略により政権を取りました。正直、長期的な戦略として真面目に意識したのか、単なるまぐれ当たりだったのか、疑わしいですが。
しかしその後、共和党はすでに国内にいる移民と、今後、入ってくる新規の移民を区別することで、ラテン系移民を取り込むことに成功したように思えます。
民主党が、今後、自身の「検視報告書」を書く中で、どういう長期戦略をとるのか、イデオロギーを先鋭化させて「意識高い系」を離さない方向なのか、むしろ今回、民主党離れが顕著だった「中道・無党派」のマスを取りに行くのか、どっちなんでしょうね。
ただ後者のほうだと、「タリフマン」のトランプと同じ方向で、日本経済にはまた厳しい時期になるかもしれません。