大統領選挙の結果をカウンティ・レベルで見る(3):どの層が棄権をしたのか

前回、2024年選挙での共和党勝利は、それまでの民主党支持者が共和党に乗り換えたというより、そのような層が棄権したからではないか、ということを見ました。今回は、各カウンティの人種、年齢、所得などの構成を眺めながら、どういう層が棄権をしたのか、何かヒントが得られないか考えてみます。

カウンティの人口・社会構成データ

言うまでもなく、アメリカの社会は、人種はもちろん所得水準や教育水準、移民か否かなどで、かなり大きな差があります。

以前、全国レベルのCNN出口調査を使って、どういう人がどちらに投票したのかを見ましたが、残念ながら州あるいはカウンティ・レベルでの出口調査は(あるのかもしれませんが)見つかりません。

そこで、各カウンティの人口・社会構成データと比べながら、カウンティごとの投票数の増減と、どのような関係があるのか、ざっくりと見てみようと思います。

使うデータはAmerican Community Surveyという毎年行われる住民調査です。以前、州レベルのデータで投票結果の簡単な分析を行いましたが、そのカウンティ版です。ただし、この調査の対象となるのは人口65,000人以上のカウンティのみで、3000以上あるカウンティのうち850程度に限られます。その中でも、以下で使うデータが揃っているのは700程度ですが、それでも2024年の投票総数の81%をカバーするので、まぁ、いいとしましょう。

具体的なデータは以下で見ていきますが、いずれも各カウンティの世帯あるいは人口に占める割合にして、各カウンティの2020年から2024年の投票数の変化との対比を見ます。本当にこの傾向線どおりか鵜呑みにはできませんが、大雑把な関係として見ておきます。

カウンティの世帯・人口構成と投票率

まず左パネルは、人種構成(白人、黒人、ラテン系、アジア系、ネイティブ、その他の全人口に占める比率)との関係です。なおネイティブには、ハワイ系とネイティブの両方を含めています(怒られるかもしれませんが、全体に比率が高くないので)。またその他には、複数の人種のミックスも含みます。右パネルは年齢層別のシェアと投票総数の変化の関係です。

これを見ると、白人人口比率の上昇が投票数の増加と結びついていますが、他の人種については逆に減少方向に働いています。イメージ的には共和党=白人、民主党=非白人という分け方になるので、やはりマイノリティが今回は投票しなかったとすると、民主党が負けるのは仕方ないです。

ただネイティブについては全体的に水準としてはマイナスですが、U字カーブになっていて、最も高い辺りでは、ほぼゼロにまで戻しています。ネイティブ系の比率が高いカウンティは、New Mexico、Arizona、Oklahoma、Alaskaといった州にありますが、投票数はプラマイ数%程度の小幅な変化にとどまっています。最初の2州はメキシコ国境の州ですが、移民問題と関係があるのかどうか。

年齢構成については、17歳以下、40~59歳、60歳以上の比率はU字型のように見られます。もちろん17歳以下は投票権がないので、この層は直接的には投票数と関係しません。恐らく(主に)40~59歳の親と同居しているため、結果的に同じような形状なのでしょう。これらの年齢層の比率が非常に低い領域は別として、おおむね投票数の増加と結びついていると思われます。

問題は18~29歳、30~39歳の比較的若い層。ここが多いカウンティで投票者数の減少に結びつく傾向と言えそうです。イメージ的には、社会問題などに積極的な層――悪く言えば「意識高い系」――が多いのは、この年齢層かもしれません。ちょっと決めつけが過ぎるかもしれませんが。

所得については、面白いことに2.5万ドル以下の最も貧しい層と、20万ドル以上の最も裕福な層が投票数の減少と結びついており、7.5~10万ドル、10~15万ドルの中間辺りの層が増加と強く結びついています。その他はほぼフラットな感じ。

まぁ、10~15万ドルを「中間層」とは言えないでしょうが、物価水準(特に住宅コスト)の高いアメリカだと、全く生活に心配のない富裕層とは言えません。この辺りの2つの所得層は、むしろ「少し前まではよかったのに、バイデン政権の間に生活が厳しくなった」と感じ、積極的に共和党に投票したのかもしれません。

教育水準について目立つのが、「高卒未満」と「大学院卒」の層で投票数の減少に結びついている点。この辺りは所得水準とも関連していると考えられ、所得での両極端の動きと同じになっています。後者については、本来はより政治的な問題意識も高い層だと思われます。ここが投票しない傾向なのは、かなり不安なところです。

少し統計分析もやってみる

上で人口・社会構成との傾向を概観してきましたが、例えば学歴と所得、もしかすると人種と所得などの間には強い相関があるので、本当はその辺りをコントロールして、ちゃんと何が影響をしたのか考えないといけません。

とはいえ、そんな真面目に分析をするのが目的ではないので、ざくっとラフな統計分析を蛇足でやっておきます。各変数との関係が必ずしも線形でない様子も見られるので、「ぐねぐね」の関係を許すGAMという手法でやってみました。

上で見た変数以外にも、家族形態(両親がいる家庭、片親家庭、単身)、市民権(市民権あり、帰化、市民権なし)、健康保険(民間保険、公的保険、保険なし)といった変数も加えています。また最重要な変数として、前回選挙での民主党得票率も入れています。

そのうえで、特に関心のある変数(例えば人種なら黒人とラテン系、所得なら低所得層と富裕層など)に絞り込んだうえで、統計的に有意なもののみ残しました。

係数が非線形に投票率変化に及ぼすモデルなので、通常のように係数をひとつ書けないため、グラフ形式で表しています。他の変数を固定したまま、目的の変数が変化したら、どう結果が影響されるかを見たものです。

まず前回の民主党得票率では、やはりシェアが高いほど、投票率が低下しています。50%になる前から投票率が既にマイナスになっているのは、スイングステートの結果に大きく依存する州ごとの選挙人総どり選挙では厳しいでしょう。

人種は、ラテン系が高い地域ほどプラスになっています。先ほどの単純な傾向線とは、ちょっと違った姿です。すでに市民権を得ているラテン系移民が、新規の移民流入に批判的だったともされるので、彼らが積極的に(共和党に)投票したことを示しているのかとも思うものの、外国生まれで帰化した住民(naturalization)の比率はマイナスに働いています。両者とも移民問題でいえば「既得権益層」と言えますが、ここが逆の結果なので、移民問題の影響をどう考えるか迷うところです。

一方で、民主党支持の傾向が強いと言われる黒人については、真ん中あたりでプラスになっているものの、シェアが高い地域で大きく投票減という傾向。選挙戦終盤では、黒人男性の間にハリス(=女性大統領)への支援熱が低いとの報道もありました。これが関係しているのかどうか。

非常に顕著なのが年齢。60歳以上人口比率が高いところでは、今回、投票数が極めて大きく増えているという結果。やはりトランプの「金ぴか時代」の主張に共鳴したのでしょうか。若年層は統計的に有意ではありませんでした。

教育では高卒未満(卒業していない層)がマイナスというのは、ちょっと想像と違いました。この辺りがトランプ支持層と重なるかと思ったのですが。院卒は統計的に有意ではありませんでした。

一方、家族構成では片親家庭を取り上げましたが、こちらは特にシェアが高くなると急激に上昇。イメージ的にはシングルマザーなのですが(男性片親より実際に多い)、積極的に投票したようですね。インフレなどによる生活苦に、より苦しんでいる世帯ということかもしれません。

最後に健康保険。特に公的保険に頼っている層は、トランプになってオバマケアが廃止されたりすると困るはずなのですが、意外にも投票意欲が高くなかった様子。アンタら、これから無保険になって苦労しても自業自得だぞ、と突き放したくもなってしまいます。

まぁ、そろそろこの話題も飽きてきたので、この辺りで止めておきますが、やはり前回の民主党支持者が棄権した様子が強く見られ、外国人の私には何も言う資格はありませんが、この点には実にやるせない気持ちです。

果たしてこの人たちは、これまで1ヵ月のトランプ2.0の政策をどう見ているのか、棄権したことを後悔していないのか、誰か詳細インタビュー調査をしてほしいと強く思うところです。

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