前回、カウンティ・レベルの投票結果を用いて、これまで民主党の大票田だったカウンティで、かなり大きな投票行動の変化が起き、2024年選挙ではそれまでの選挙で見られた、強い民主党支持の大票田のヤマが消えたことを見ました。
今回は、2020年と2024年の投票数の変化により、このような状況を探ってみようと思います。
共和党マージンの変化
まず各カウンティの投票で、2020年と2024年の共和党マージン(共和党得票率-民主党得票率)を比較してみます。赤線が45度線です。
一見して分かるように、2024年の選挙において大半のカウンティで共和党マージンが上昇する方向に動いています。もちろん、2016年、24年ともマイナスのカウンティ、つまり民主党得票率のほうが高いカウンティも多くあります(左下の領域)。
しかし、そのようなカウンティでも、大半で(ほぼすべてといってもいい)45度線より上に点があります。つまり民主党支持が優位のカウンティでも、民主党への投票比率が総じて縮小しています。
一部のカウンティでは左上の領域、つまり前回はマージンがマイナス(民主党の得票率が高かった)だったが、今回はプラス(共和党の得票率が高い)になってすらいます。逆のカウンティ(右下の領域)は、ほとんどありません。
この結果、トランプは選挙人獲得数だけでなく、一般投票でもハリスを上回ることになりました。問題は、それが前回は民主党に入れた住民が、今回は共和党に乗り換えたということなのかどうかです。

大票田カウンティの投票行動の変化
前回、カウンティの政党得票率の分布で、民主党支持の大票田が消えたことを見ました。そこで、まず2020年選挙時での総投票数が比較的多い選挙区を選んで(恣意的に30万人以上としました)、共和党マージン(共和党得票率-民主党得票率)と総投票数が、2020年と24年でどう推移したのかを計算しました。
普通なら、有権者のうちどれだけが投票したのか(投票率)で比較するのでしょうが、アメリカの場合、投票率のデータがないんですよね。ということで、総投票数を比較することにします。
かなりの選挙区で矢印は右下向きの変化が見られます。つまり2020年から24年にかけて、これらのカウンティで総投票数が大きく減少する中で、共和党の得票率が上昇していることになります。
今回、全国でみると総投票数は1.58億人から1.55億人と約1.9%、微妙に減少しています。ある程度、矢印が下向きになるのは仕方ありませんが、特にグラフ上部にある大きな選挙区の下向き加減は突出しています。
上部にひとつ突出しているカウンティは、Los Angelesカウンティ。投票総数は2020年の4,263百万票から2024年の3,727百万票へ、なんと12.6%も減少しています。その下の矢印はイリノイ州のCookカウンティ(11.4%減)。ここはシカゴ市のあるカウンティです。
もし前回、民主党に投票した有権者が積極的に共和党に乗り換えたのであれば、投票総数はあまり変わらないので、矢印は横向き、あるいは微妙に下向きで、右にシフトしているはず。
しかし、この強い下向きの矢印からは、むしろ前回、民主党に投票した有権者が投票せず(共和党に流れたのではなく)、結果的に共和党の得票率が上昇したのだろうと考えられます。

民主党支持の強さと投票数の減少
以下の左パネルは、カウンティごとに、前回と今回の総投票数の変化率と共和党マージンの変化を比較したもの、右パネルは、前回の民主党得票率と前回から今回への総投票数の変化率を比較したものです。点の色は、州の最終結果です。
左パネルでは、投票数の変化と共和党マージンが逆相関、つまり投票数が減少(増加)したカウンティで共和党マージンが上昇(下落)する傾向が見られます。
では今回、特に投票数が減少したのはどういうカウンティかというと、右パネルが示すように、前回、民主党の得票率が高かったカウンティということになります。つまり前回、民主党への支持が強かったカウンティほど、今回は投票しなかった有権者が多く、これが共和党を助けたという傾向が見られます。

大統領選挙は一般投票ではなく、州ごとの選挙人獲得数で決まるので、個々のカウンティで共和党の得票率が上がったからといって、州全体での結果が共和党に振れるとは限りません。そこで、前回の民主党から今回は共和党に結果が変わったスイングステート6州のみで、同じことをやってみたのが以下の図です。
やはり、スイングステートでも投票数の伸び率と共和党マージン、また前回の民主党得票率と今回の投票数の伸びの間には、全国と同様の負の相関があることが見て取れます。
ただし全国の場合、前回の民主党得票率が50%を超えていると、投票数伸び率はマイナスに落ち込む傾向なのですが、スイングステートでは一応プラスと伸びてはいます。
このため、「民主党支持層の棄権」とまでは言えないかもしれません。しかし投票への熱意が共和党優勢のカウンティに比べると弱かった、とは言えるかもしれません。

もちろん、よく言われるように、すでに市民権を得ているラテン系住民が、競争相手である新たな移民を受け入れようとする民主党に失望し、積極的に共和党に鞍替えしたといった部分があったことを否定するものではありません。
ただ、やはり全体的な傾向としては、民主党支持者の棄権あるいは熱意の低下(共和党への離反というより)が重要な要素であった感触は否めません。 それがどういう理由なのか――民主党の政策がwoke(意識高い系)すぎるからか、逆にバイデンの政策が十分にリベラルではなかったと考えたからか、はたまた女性大統領は受け入れられないというマッチョ意識なのか。
この辺りは分かりませんが、次回はもう少しカウンティの人口・社会構成などと比較してみようと思います。