トランプ就任直後から大統領令は乱発され、まずは移民問題、次いで関税で大混乱が起きています。躁状態のイーロン・マスクは図に乗って、唐突にUSAIDを閉鎖するとか言い出す有様。
1期目の時もトランプが予算教書で、いきなり対外援助予算の3割削減を打ち出しましたが、その時は重鎮のリンジー・グラムが「アホか、予算は議会が作んねん!こんな予算教書はdead on arrivalじゃ!」と言って事なきを得たのですが、そのグラムも今は完全にトランプの靴を舐めている状態。政策面では、何がどうなるか分からない日々が続いています。
まぁ、そんなことを日本人が心配しても仕方ないのですが、また選挙データで少し遊んでみます。
選挙直後ならともかく、この段階で海の向こうの大統領選挙の分析など追加しても意味はないのですが、より詳しいデータなども出てきたので、あくまで面白い分析ができないかという観点で、少し追加作業をしてみました。
以前は州レベルの投票結果を比べたのですが、今回はカウンティ・レベルのデータを使います。
カウンティの投票状況
アメリカには州の下にカウンティ(郡)と呼ばれる行政単位があり、ほとんどの州ではカウンティ単位で選挙区が設定されています。一部、異なる選挙区もあるようですが、以下ではすべて「カウンティ」と書くことにします。
このようなカウンティは全米で3,000以上あり、最も多いTexas州には254区もあります。投票者数でいうと、最も大きなLos Angelsだと370万人が投票しましたが、最も小さなLoving(Texas州)だと投票者数97人(!)です。
同じ州内でも、カウンティにより投票傾向には大きな差が出ます。左パネルは各州のカウンティごとの民主・共和の得票マージン(共和党得票率-民主党得票率)を示したものですが、民主党を選んだ州でも、カウンティによっては共和党の得票数が優勢だったり、また逆だったりします(州の結果により青と赤に色分け)。
もちろん、最終的には州レベルで集計されるので、個々のカウンティの結果が最終的な選挙結果に影響するものではありません。
右パネルは、投票者数(横軸)と共和党マージン(縦軸)を比較したものですが(投票者数の差が非常に大きく、分布が偏っているため、横軸はスケールを調整しています)、やはり投票者数が小さい選挙区(誤解を恐れずに言えば田舎)ほど、共和党への支持が高いという傾向が見られます。
このため、ある州内の多くの田舎のカウンティで共和党が有利であっても、州都などの人口の多いカウンティで民主党に投票する人が多く、最終的な州の投票結果は民主党になるということはよくあります。

二極分化の進展
前回、州レベルで民主支持・共和支持の二極化が進んでいることを見ましたが、カウンティ・レベルでもそれは明らかです。
2000年の共和党得票マージンと、その後の各選挙でのマージンの差をカウンティごとに比べたのが以下のグラフ。プラスの領域のドットは、そのカウンティで共和党の得票マージンが、2000年時を上回っていたことを示します。また色は、州の集計結果を示します(赤が共和党)。明らかに年を追うごとに、その幅は上下に広がっています。
どちらかと言えば共和支持への動きが強い印象ですが、すでに見たように投票者数の小さな選挙区ほど共和党支持が強い傾向もあり、州全体あるいは国全体で見た場合に共和党支持が強いことを必ずしも意味しません。このため2016年のトランプ1期目の際も、一般投票では民主党が勝っていました。しかし今回は、一般投票でも共和党が勝つ結果になりました。
一部、2000年との差が100%を超えている選挙区もあります。例えば2000年時点ではマイナス(=民主党の得票率が勝っていた)だったのが、2024年には強いプラス(=共和党の得票率が大幅に勝っていた)になると、特に投票者数の少ない選挙区では、こういう大きな変化が起きうるのでしょう。

分布を見ると
カウンティごとの投票マージンの分布を見ると、ちょっと面白い結果が見られます。上が単純にカウンティ単位で見た分布(カウンティごとの投票者数を考えない分布)、下が投票者数でウェイト付けした分布です。あまり多いと読み取りにくいので、2004年(ブッシュ2期目)、2012年(オバマ2期目)は外しています。
まず投票者数を考えない分布だと、2016年以降、大きく共和党寄りにシフトし、いずれの場合でもマージン50%辺り(つまり共和党得票率が75%、民主党得票率が25%のようなカウンティ)に山があります。これを見ると、「アメリカ人全体では、無茶苦茶に共和党支持になったな」と思ってしまいます。これは上のグラフと同じですね。
一方、投票者数でウェイトをつけると、かなり異なった様相になります。まず分布は全体に左のほうに移ります。2000年だとプラス(共和党支持)の領域に山がありますが、2008~20年だと山はマイナス10%辺りです。またマイナス50%辺りに、もうひとつ小さな山があります。つまり、この辺りの強い民主党支持の部分に、かなり大きな投票者数を抱えるカウンティがあることになります。
ところが2024年の選挙になると、分布の山がほぼ0%の部分にシフトします。また、マイナス50%辺りの山が消え、代わりに(あまり目立ちませんが)マイナス20%ぐらいのところに移ったように見えます。
つまり、それまで民主党支持の強かった大票田カウンティで、今回の選挙ではかなり民主党支持が弱くなったことを示します。前回まで民主党に投票していた人の選択が変わり、民主党マージンが小さくなったことが疑われます。
これが、民主党支持者が共和党へ鞍替えしたことを意味するのか、次回、この辺りをもう少し詳しく見てみます。
