前回は保守、リベラル志向を持つ人のバックグラウンドの整理で終わってしまったので、今回はもう少し彼らの政策の志向の違いも見てみようと思います。
全体に保守とリベラルの相対的な差は想定通り。でも極端に対立する政策がある一方で、案外、常識的な回答も多く、トランプ主義が保守派全体を覆っていると言えるのかは微妙な感じです。
政府は口出すな?
前回も見ましたが、アメリカの保守主義というのは、徹底的に政府の関与を嫌い、個人の自由を重視する人たちです。そこで、政府の役割についての考えを見てみます。
まず「政府の規制がもっとあるべきか」ですが、結果は見るまでもなく明らか。きれいに保守からリベラルへと逆向きの並びになっています。ただ「超保守」だと半分の人が「強く反対」と言っていますが、逆に「超リベラル」で「強く賛成」は2割。「中道」から「リベラル」だと、「どちらでもない」が最多。保守とリベラルでの相対的な立ち位置は逆だとしても、アメリカ人全体として見れば「政府規制大好き」という人は極めて少数派とは言えます。
一方、現在の政府閉鎖を巡る予算攻防戦の大きなポイントが、低所得者向けの公的健康保険をどうするか。共和党はこの大幅縮小を進めようとして、民主党と対立しています。そこで「保険料を支払えない人に対し、政府が保険料支払いを支援すべきか」の回答を見ると、やはり政治姿勢により見方は大きく異なりますが、「超保守派」であっても3割程度の人は増やすべき(大幅~ある程度)、現状維持まで含めれば7割以上です。「強く賛成」では保守・リベラルの対立はありますが、この問題が本当に世論を二分するかは疑問。この辺り、議会が世論を離れて対立のための対立になってしまっているように思えます。

税金の無駄遣い?
財政のあり方も、両者を分ける論点。縦軸は「財政赤字の削減は重要か」、その中で「政府は税金を無駄遣いしていると思うか」で色分けしてみました。
アメリカでは保守派ほど財政赤字を減らすべきと考え、「超保守」に至っては9割近いです(極めて~ある程度までの合計)。この辺りは、保守を自認する政治家ですら財政拡張を主張する日本とは、かなりの違いがあります。また当然ながら、背後には「政府が無駄遣いしている」との考えがあり、「常に」が大半となっています。
リベラル派ほど財政赤字削減への支持は下がっていき、「政府の無駄遣い」への支持も下がります。しかし「超リベラル」であっても、多くは財政赤字の削減を「超重要」か「とても重要」と思っています。クリントン政権の頃は「socially liberal, fiscally conservative」という民主党支持者の表現をよく聞きましたが、まだ生きているのかもしれません。
「税金の無駄遣い」については、日本でも似たような傾向かもしれませんが、日本の場合は赤字削減より、「そこで浮いた金を俺たちに配れ」という感じなのでしょう。

財政一般から個別使途の見方になると、やはり支持の傾向はかなり違ってきます。
保守派が支持するのは「国境管理」「犯罪対策」、リベラル派が支持するのは「貧困対策」「公立学校」「福祉プログラム」で、全く方向性が違いますね。「高速道路建設・修繕」は党派性がほぼなく、「社会保障」も比較的グループ横断で共通した傾向を示しています。とはいえ、クラス横断で支持されているというよりは、クラス横断で似たような感じで賛否が拮抗している感じ。国民全体で共通して支持される支出は、アメリカではほぼないようです。
因みに「軍事費」の質問もあったのですが、回答項目が少し違ったので、ここには示していません。ただ傾向的には保守は賛成、リベラルは反対という想定通りの傾向です。

外国なんて嫌いだ?
対外関係では、政治関係と経済関係についての志向を見ます。政治面では、縦軸に「国内にとどまって、世界の他の地域の問題に関わらないでいたほうがよいか」という質問、その中で「国際問題の解決に軍事力を使うべきか」で色分けします。
「海外の問題は無視」について、全体的には「強く反対」「ある程度反対」がグループを通じて多数派になっています。ここでも「ちょいリベラル」「リベラル」でその傾向が最も強く、保守派では全体に賛成傾向が強く出ます。最も賛成が強いのは「超保守」の人たちです。とはいえ、保守派を含むアメリカ人全体としては、世界の問題を無視して引きこもりたいわけではありません。
一方、「軍事力行使」については、保守派になるほど「賛成」が多くなります。超保守派で「海外の問題無視」に「強く賛成」と答えている人で見ても、約半数は「軍事力行使」に「賛成」「概ね賛成」という回答です。リベラル系ほど「軍事力行使」には否定的ですが、全体を見ると一定程度の「軍事力行使」を認める人がアメリカ人の過半を占めていると言えます。
ここは難しいですね。トランプは、ウクライナもアフガニスタンも、「これはお前らの戦争だ、俺たちの戦争じゃない」という姿勢なのですが、保守派の多くは軍事介入には肯定的。ブッシュ時代のネオコンは廃れ、保守派の考え方は180度変わったようなイメージもあったのですが、そうとも言い切れない様子です。

経済面では縦軸に「自由貿易協定を支持するか」を7段階で回答、その中を「アメリカの雇用を守るための輸入制限を支持するか」で分けています。
まず意外だったのは、政治姿勢によらず自由貿易協定には「賛成でも反対でもない」が最大だということ。さらに、これに次ぐのが超保守派を含めて「概ね賛成」というのも驚きでした。もちろん「強く賛成」「概ね賛成」のシェアは、リベラル派のほうが保守派より高いのは想定通りではあります。
この辺りを見ると、依然としてアメリカ人の大部分は、トランプのように「自由貿易協定はアメリカを食い物にする不公平な取り決め」という認識は持っていないようです。まぁ、恐らく10年前なら賛成派が大多数だったのではと思われ、懐疑的な気持ちが侵食しつつある可能性はありますが。
一方、自由貿易に賛成でも反対でもないグループの中で、「雇用を守るための輸入制限」への見方を見ると、保守系のグループだと「強く支持」「ある程度支持」が過半を占め、中道派だと半々、リベラル派だと「強く反対」「ある程度反対」が過半を占めます。保守派で自由貿易に賛成傾向の人たちを見ても、大半が「雇用を守るための輸入制限」を支持しています。この点ではトランプの主張と政治的姿勢は一致しそう。
以前であれば、保守派(市場重視派)は「貿易により比較優位に基づいた市場効率が達成できる。比較優位のある部門への労働資源の移動が必要だ。雇用を守るために自由貿易を阻害すれば、経済効率が低下する」と主張していたでしょう。むしろリベラル派のほうが、市場の力を「弱肉強食」と批判していただろうと思います。この辺り、かなり「自由貿易」というものへの見方が変わってきた感じは否めません。

さて、ESGは?
最後にESG関連の政策を見ておきます。温暖化ガス排出への規制、トランスジェンダーの軍入隊、移民数の制限、大学でのDEI政策です。傾向としては、全く想定通りの党派性が見て取れます。
ただ温暖化ガス規制については、「保守」でも反対と賛成は拮抗(ともに「強く」「少し」まで合計)。「超保守」のみ反対が優勢ですが、全体で見た場合、過半数が反対とは言えず、トランプ政策とは異なり、まずまず穏健な姿勢といっていいでしょう。
一方、トランスジェンダーの軍入隊については、保守とリベラルの差がより鮮明です。トランスジェンダー関連の質問としては、「トイレ使用」や「スポーツ大会への参加」等、他にも色々ありましたが、程度の差こそあれ、このような党派対立が極めて顕著です。
移民問題も、やはり党派性が強く出るイシューのようです。保守派ほど移民数を減らすべき、リベラルほど増やすべきという傾向ですが、実はリベラル層の主流は「現状維持」です。やはり社会全体の温度として「移民歓迎」という感じではないのでしょう。この辺り、ちょっと民主党は誤ったかもしれません。
これに対し大学でのDEI政策は、完全に二分されています。リベラルは完全に賛成が多数派、保守は反対が多数派です。中道派では「どちらでもない」が主流、それを除くと微妙に「賛成」が多い感じですが、完全多数ではありません。トランプはこれを名目に名門大学の締め付けをやっていますが、大学側も完全に市民の支持を得られているということでもなさそう。ここは本当に厄介な問題です。


さて、こんな感じで各種の政策への政治姿勢別の反応を見てきましたが、確かに完全に二分している問題(トランスジェンダーやDEI)もありますが、意外に傾向の大きな差がない問題もあり(自由貿易、外国への関与)、また差があるものの極端な方向に振れているわけではない問題もありました(公的保険、財政赤字削減、気候変動)。
日本から報道だけ見ていると、今にも内戦が起きるんじゃないかという世論の二極化、相手への敵対視があるような印象ですが(実際、親とも口を利かなくなったという声もありますが)、まだまだ健全な部分もある様子。その一方で議会では、本当にお互いが話もしないという感じで政府機関閉鎖が続いています。この辺りが、議会や政党への不信感として募っているのでしょう。
日本がそんな状況にならないことを祈るのみです。以前も書いたように、すぐに日本はGDP規模でインドやイギリスに抜かれ、世界6位まで落ち込む未来が待っています。SNS政治に無駄な時間を使っている余裕はないはずなんですが…。

