ふと思いついて探してみたところ、やはり思った通り、アメリカには「MAGA」というティッカーシンボルの投資信託があるようです。さらに調べると、色々と政治的なテーマの投資信託が見つかりました。証券会社というものは、色々と考えるものですねぇ。
今日はこの2つのように政治理念にリンクした投資信託について、トランプ政権以降のパフォーマンスを比較してみようと思います。
政治的理念とリンクした商品
言うまでもなく、MAGAは共和党の、というかトランプ党のMAGA理念にリンクしている商品で、正式名称はPoint Bridge America First ETF。トランプ政権の政策から恩恵を受けると見なされるアメリカ国内での製造業、防衛関連、エネルギー関連、金融などのセクターに属する企業で構成されるとのこと。
こういった党派性のある商品を探すと、同じ証券会社が全く逆の理念で作ったDEMZというのもありました。こちらは民主党(Democrats)寄りの理念で、正式名称はPoint Bridge Democratic Leaders ETF。構成銘柄は、環境保護、再生可能エネルギー、医療保険、社会福祉、人権尊重といった民主党の政策と一致する企業とのことです。
こういった投資商品は、企業の財務・収益や成長性だけでなく、その企業の政治的なスタンスや政策への影響力を投資判断の基準に加えているわけで、政治情勢がパフォーマンスに追加的な好影響を与えることを期待しているのでしょう。とすれば、今はMAGA完全優位?
政治的な理念とリンクした商品として、他にこんなものもあるみたいです。
(1)反ESGファンド: 近年主流のESG(環境・社会・ガバナンス)投資に反対する動きから生まれたファンド。まぁ、MAGA系のファンドと言っていいでしょう。
- God Bless America ETF (YALL): 「神を恐れ、国旗を掲げる保守派」を対象としており、DEIやwokeを支援する企業を避けて構成。「YALL」というシンボルが何を意味するのか分からなかったのですが、”you all”を意味する”y’all”という南部表現があるようで、こういう南部の「愛国・保守」な投資家へのアピールなのでしょう。
- American Conservative Values ETF (ACVF): 保守的な価値観を持つと見なされる企業から構成。このシンボルは単に頭文字ですね。ちょっと面白くない。
(2)議員の取引をフォローするファンド: 議会規則に基づき公表される各議員の株式取引情報に基づいてポートフォリオを構築。
- Unusual Whales Subversive Democratic Trading ETF (NANC): 民主党の議員が売買した銘柄に投資。NANCはナンシー・ペロシ元下院議長の名前から取ったんでしょう。
- Unusual Whales Subversive Republican Trading ETF (GOP): 共和党の議員が売買した銘柄に投資。GOPは”Grand Old Party”で「共和党」そのものの略語です。
(3)その他:
- Strive US Energy ETF (DRLL): 石油・ガス関連企業に比重を置くファンド。再生可能エネルギー推進政策に対する保守的な立場を反映。DRLL=drillで、石油・ガス産業ですね。
- Inspire 100 ETF (BIBL): 「聖書に沿った」企業に投資するファンド(BIBL=bible)、って何やと思うのですが、構成銘柄の上位を見るとキャタピラー、プログレッシブ(保険会社ですね)、アリスタネットワークとか「なんで聖書?」という感じではあります。
MAGA、DEMZの値動き
まずMAGAとDEMZの両信託の値動きを見ます。比較対象としてSP500も加えています。
MAGAは2017年9月から(トランプ1.0政権は2017年1月から)、DEMZは2020年11月4日(バイデンが勝った選挙日ですね)からの価格データがあります。そこで後者の日付の価格を100として、その後の値動きを指数にしています(左パネル)。
一方、右パネルは2024年11月4日(トランプが勝った選挙日:グラフの縦の点線)の価格を100として、その前後の値動きを示しています。
左パネルを見ると、MAGAが圧倒的に元気です。SP500よりも高い値動きで推移していますし、今年4月のトランプ相互関税で急落した後も優位を維持しています。DEMZは、SP500よりは高値で推移していますが、MAGAには負けてしまっています。これを見ると、アメリカの投資家はMAGA推しなのかと思えてきます。
ただ2024年11月を基準にした場合、ちょっと絵姿は変わってきます。選挙直後こそMAGAが優位な時期が短くありましたが、その直後から急落。DEMZやSPと比較しても落ち方は大きかったようです。相互関税発表時点で3つとも急落しますが、その後の戻りもMAGAが最も弱く、DEMZはSPよりも強いという構図。
民主党が勝った選挙を起点にするとMAGAが強く(左パネル)、共和党が勝った選挙を起点にするとDEMZが強い(右パネル)という逆転の構図に、何か政治的な意味合いや投資家心理を読み取るべきかどうか。ま、ちょっと穿ちすぎでしょうね。
なお2022年にSPとDEMZが大きく落ちているのは、FRBがインフレ高騰に対して1年で4%も利上げをしたことの影響です。MAGAはこの時期に価格を落とさず、DEMZと差をつけたのが、その後の価格差を支えていると言ってよさそうです。
この時期、MAGAがほとんど落ちていないのは、MAGA産業は利上げに強いということなのか。今、トランプは一生懸命、利下げ圧力をかけていますが、実は利下げするとDEMZ産業を相対的に押し上げたりするんでしょうかね。まぁ、そんな単純じゃないか。

やはり値動きの水準だけでみると、どこを起点にするかで変わってきてしまうため、ここはリスク調整後リターンの指標であるシャープレシオの推移を見てみます。無リスク資産としては5年国債金利を使い、リターン、標準偏差とも250日ベースで計算しました。
これを見ると市場が下げ基調の時期にはMAGAが強く、上げ基調の時期にはDEMZが強いという感じはしますね。ただトランプ2.0に入って以降のシャープレシオ下落傾向に対しては、MAGAも全く強みを発揮できていません。この辺りの企業も、実はトランプ政策には頭を悩ませていると見るべきなのか。
DEMZとSP500はシャープレシオでみると、ほぼ同じ感じで推移していて、そういう意味では、投資商品としてはあまり面白くないのかもしれませんが、株式市場全体で見てMAGA理念が優位という分けではない、というのは、個人的には少し安心しました。

他の政治信託も値動きだけ
最後に、MAGA、DEMZ以外に上で挙げた他の政治リンク商品も、簡単に値動きだけ見ておきます。共通してデータがとれる2023年2月7日を基準にした指数ですが、面白いことに3つのグループに綺麗に分かれてしまいました。
トップグループは反DEIのYALLと民主党議員フォローのNANC。完全に水と油の理念の2つのファンドですが、かなりよく似た値動きをしています。実は民主党の議員センセイも、実際の投資活動では反DEI企業推しとか?
中位グループは共和党議員フォローのGOPと聖書大好きBIBL。ここは同じ株に投資していても不思議はありません。しかしNANCとGOPの推移を比較すると、共和党議員のほうが民主党議員より投資がヘタだということがばれましたね。
最もパフォーマンスが悪いのが、保守的価値観のACTVと石油ガスのDRLL。トランプは選挙前から「Drill, baby, drill!」と言っていましたが、株価的には全く効果がないようです。ここ2年半の間、全く停滞していますので、ここへの投資は全くの無駄だったことになります。
この辺りの経営者はともかく、労働者はMAGAの岩盤支持層の可能性が高いです。エプスタイン・ファイル問題も含めて、そろそろ岩盤MAGAがトランプ支持から離れてくれることを期待したくなります。
