大統領就任演説のテキスト分析~闇落ちする方向には行かないでほしいけど

「トランプ2.0」が始まりました。想像はしていましたが、初日から大統領令を乱発して、かなり「らしさ」を見せつけてくれています。1期目の時はトランプ自身、全く準備ができておらず、行き当たりばったりという要素が強かったですが、今回はちゃんと準備をしているでしょう。

今回は、トランプの就任演説を材料にテキスト分析をしてみようと思います。とはいうものの、全く「見よう見まね」の手法なので、何か面白い発見があるかどうかは、今後の政策の行方以上に不安ではあります。

第1期、第2期政権での就任演説

もう夜中遅くまで起きてテレビを見る気力・体力がなく、今回のトランプの就任演説は、リアルタイムでは視聴していません。あくまで翌日の報道で見ているだけですが、やはり主要メディアではかなり厳しい評価が多いですね。

「アメリカの黄金時代が始まる!」とポジティブな発言で始めたものの、本人を目の前にしつつバイデン政権下の政治をけなす発言を羅列。政府は「信頼の危機」に直面、司法省は「悪質で暴力的で不公正な武器と化している」、「急進的で腐敗したエスタブリッシュメント」への攻撃宣言などなど。

またメキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変更し、パナマ運河を取り戻すという公約を繰り返し、さらに「私たちの領土」を拡大すると誓ったとか。そりゃウクライナに攻め込んだプーチンと一緒じゃん、という声が当然、聞こえてきます。

トランプの頭の中は全く想像できませんが、まずはよくテキスト分析でやるワードクラウド図を就任演説で作ってみました(上が1期目、下が2期目)。

明らかに2期目の演説のほうが単語も多いのですが、演説の書き起こしを見ると、第1次政権のときは1,457語、第2次政権のときは2,967語と2倍になっています。「スピーチと〇〇は短い方がいい」という、コンプライアンス上、今は許されない冗談がありますが、まぁ、年を取ると話が長くなるのは仕方ないでしょう。

因みにバイデンは2,551語、オバマ(1期目)は2,396語と、トランプ1期目と2期目の間ぐらいだったので、むしろトランプ1期目が短すぎた(何を喋ればいいか分からなかった?)のかもしれません。

やはり中心はAmerica/American、nation、countryといった言葉。その周りに、peopleとかgovern(ment)、power、dreamといった言葉があるのも共通です。この辺りは、まぁ、面白みのない単語ではあります。

一方、2期目をよく見ると、右下のほうにPanamaが比較的大きく出ており、またもう少し小さいですがMexicoも出ています。またMexicoと同じぐらいの大きさでtariffやChinaも出てくる辺りは、トランプの政策らしい単語ではあります。

他にもborder、protect、criminalといった単語が見られるのは、国境・移民関連の政策関連で頻出したのでしょうね。

オバマ、バイデンの就任演説との比較

トランプの2回の就任演説と、オバマ、バイデンの民主党大統領の就任演説とで、主に出てくる用語を比較してみました。頻出する単語のトップ15の比較です(同列で並ぶ場合、リストは少し長くなりますが)。

因みに普通に作業すると「will」が断トツなのですが、これは「意思」ではなく、「自分の政権下では、こういうことをする」という単純な未来形だろうと思い、テキストから削除しています。

やはりAmerica/American、nationなどは全員共通です。一方、オバマ・バイデンとも「can」が第2位に出てくるのですが、トランプの場合は出てこず、逆に「never」という否定語が下の方に出てくるのは、ちょっとイメージ通りで面白いです(考えすぎかもしれませんが)。

また1期目、2期目とも「great」という言葉がトランプだけに出るのは、まぁ「Make America great again」だから仕方ないですね。

センチメント分析

単語だけ比べても、なかなか分かりにくいので、単語を何種類かの感情に分類して、その頻度を比べるセンチメント分析をやってみました。以下がその結果なのですが、ちょっと意外だったのは、4つとも非常に傾向が似ているんですよね。

いずれもpositiveが最も多く(シェア的にはトランプ1期目が最も高い)、次いで多いのがtrustです。一方、オバマ、バイデン、トランプ2期目だとnegativeが3番目なのですが、トランプ1期目ではjoyが3番目に来て、4番目はまた共通してanticipationとなっています。

私のイメージでは、トランプ1期目の演説は非常に暗い印象。普通、就任演説では「一緒に素晴らしい未来に向けて歩んでいこう!」的な明るい楽観的なメッセージを出すと思うのですが、彼は有名な「American carnage(アメリカの大虐殺)」というフレーズで、「あそこにいる悪いやつらのせいで、俺たちは苦境に追い込まれている。やつらを叩き潰せ!」というネガティブな暗いメッセージを出しました。そのイメージからすると、この結果はかなり意外でした。

もしかすると、「American carnage」というフレーズが衝撃的過ぎて、この言葉に演説全体の印象が引っ張られたのかなと思うところです。

2020年1月の演説と対比すると?

就任演説というのは、ちゃんとスピーチライターが練りに練って仕上げるので、全体的に同じようにポジティブになるのは当然かもしれません。そこで、最もトランプらしい(と、勝手に私が想像する)演説も引っ張ってきて、少し比較をしてみます。

やはり思いつくのは、2021年1月6日、議会襲撃の直前にホワイトハウス前で行った「アジ演説」だろうなと考えました。この時は1時間余りにわたって、「選挙が盗まれた。決して敗北を認めない。死に物狂いで戦え。さもないと国を失ってしまう」と群衆を焚きつけました。

この演説と1期目、2期目の就任演説を比較すると、以下のような結果です。時系列的にはちょっと違うのですが、1期目、2期目、1月6日と並べています。

明らかに1月6日演説では、negativeがpositiveとほぼ並ぶぐらいに増えており、またjoyは少なくなります。シェアが高いのはanger、fear、sadnessといった否定的な感情です。全体的にプラスの感情が低くなり、マイナスの感情が高くなるという傾向です。

これと第1期、2期の就任演説を比べると、1期→2期→1月6日と、プラス感情が低く、マイナス感情が高くなる傾向が明らかです。普通なら「奇跡の復活」の2期目を迎えて、舞い上がってもいいと思うのですが、方向性としては1月6日の「怒りの演説」に向かっているとなると、果たしてこれからの治世がどうなるのか。この演説が「トランプの闇落ち」じゃないことを祈ります(今以上の闇があるのか、という話はさておき)。

「まぁ、何がどうなっても2期で終わりだから」という評価はありますが、「俺は史上最高の得票数で大統領に選ばれた男だ。アメリカ国民の望みに従って、3期目も務めるべきだ」とか言い出して、今やトランプ党になった共和党も賛同して、憲法修正に動いたり…なんてことがないことを祈ります。

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