NISA適格の投信では、グローバル株式がテーマのものが非常に多いです。もちろん、そのなかでアメリカ株のシェアが圧倒的なのですが、ここ数年、絶好調が続くアメリカ株にも、そろそろ調整が来るのではと多くの人が懸念(一部の人は期待)しています。
雑誌などでも、アメリカ株一辺倒から脱却するため、次はどこを組み入れるか、みたいな記事は多く出ています。ただアメリカ株が沈んだ時、ちゃんと逃れられる市場ってあるんでしょうかね。
そんな観点から、各国の株価の動き、特に各国市場がどの程度、シンクロしているのかなどを簡単に見てみようかと思います。
各国市場のリスクとリターン
ここではG20の国々を中心に、その他のいくつかの国を追加して取り上げます。
ただしG20(19カ国+EU)のうち、ロシアは昨年6月ぐらいを最後にヤフーファイナンスからデータが取れなくなりました。ま、そうでなくても、ロシア市場に投資する勇気は私にはありませんが。
またヨーロッパ市場については、単一市場・統一通貨のEU加盟国間では当然、強く連動するので、G20に含まれる英独仏伊以外には、EUに加盟せず独自通貨を持つスイス(CHE)だけ追加しました。
あとは日本にとっては近隣の台湾(TWN)、タイ(THA)、マレーシア(MYS)、香港(HKG)、シンガポール(SGP)、また少し毛色が違うイスラエル(ISR)といった5ヵ国を加えます。
結局、19カ国-1カ国(ロシア)+7ヵ国の25ヵ国としました。
ヤフーファイナンスでは、2012年頃以降、これら諸国のデータが共通して取れるので、2013~24年の11年間のデータを使います。
なおデータは週次平均にまとめました。日次だと、例えば米国市場は日本市場が終わった後なので、同じ日付の株価でも意味が異なるためです。また現地通貨建てだとインフレの影響などもあって同じベースで考えられないため、すべてドルベースに変換しています。
さて各国の株価について、年間の平均リターンと標準偏差をプロットしてみると以下のような感じ。ただしアルゼンチン、トルコ、ブラジルは、インフレと為替の影響で異常に大きな値をとる年があるので、グラフからは落としてあります。
明らかにパフォーマンスが悪かったのが2015年と18年、22年。2018年は米中対立激化と米国金利上昇で株式市場には下押し圧力がかかった年。22年もインフレ対策でFRBが利上げを続け、またイギリスのトラス・ショックがあった年でもあります。
逆に多くの国で好調だったのは、2017年、19年、21年と、23~24年。1年おきで好調だったのが、足元だけは2年連続だったことになります(危ないかも…)。
2020年はコロナの関係で必ずしもリターンはマイナスではありませんでしたが、年間のばらつきは大きく混乱した年だったと言えます。eMAXISでも、そんな感じでしたね。国別には、日韓台が最も大きなプラスを記録しています。やはりコロナの影響が、欧米や中国に比べると抑えられていたためでしょうか。

シャープレシオの連動具合
単一の指標にまとめたほうが分かりやすいため、リスク調整後リターンの指標であるシャープレシオを計算します。安全資産利回りには米国債を使い、過去52週間の移動平均と標準偏差を用いています。過去52週間のrolling windowで計算しているので、データの始点は2013年最終週、実質的には2014年からになります。
24カ国、全部をグラフに載せても見づらいので、6カ国の動きのみを見たのが以下のグラフ。やはり全体的には各国の指標がよく連動していることが見えます。
最初の2014年頃は、少し各国の動きがバラバラ。特に2015年半ばにかけての中国の伸びが非常に顕著です。
しかし、その後、各国のシャープレシオが並行的に低下していく段階以降、各国の動きは非常によくシンクロしている感じです。この辺り、中国も含めて株式市場の相互関係が強まっていった時期でもあります。
2014年11月の香港と上海の「株式相互取引」開始、2016年12月の深圳と香港の間で株式市場の相互乗り入れ、2017年6月のMSCI新興国株式指数への中国本土株組み入れ発表。こんな動きにより、中国本土株市場への資金流入が加速した時期です。もちろん、これが関係あるのかどうか分かりませんが。
このシンクロが崩れ始めたのが2023年ごろからですね。日米印が上昇する一方、中国はそれまでの低迷がさらに長期化。英韓も最初は上記3カ国を追うように上昇するのですが、その後は伸び悩みます。
さらに足元では日本の指標は乱高下気味(植田ショックのせい?)、韓国は低迷続きの一方、年末にかけて中国は急上昇など、各国の動きが離れていきました。
結局、アメリカだけが好調を維持する、一人勝ち状態です。

相関係数によるネットワーク
ここで各国のシャープレシオの相関係数を年毎に計算し、どれぐらい密にネットワークが形成されているのか(つまり各国の株式市場が連動しているのか)見てみます。相関係数が高いプラスのペア(0.85以上)のみを抽出し、ネットワーク図を作成、またより強く結びついているコミュニティ検出もしてみました。
全部の年でグラフを出しても煩雑なだけなので、いくつか特徴的な年を抽出して例示します。
まず非常にネットワークが密だった年を選ぶと、2016年、18年、20年などがあります。以下はコロナのあった2020年ですが、24ヵ国がネットワークに参加しており(トルコは不参加)、非常に各国がよく結びついています。コミュニティは先進国を中心とした赤色と、新興国を中心とした青色の2つに分かれますが、世界全体でかなり緊密なネットワークを形成しています。

逆に疎になるのが2017年、2023年、2024年などです。以下は昨年2024年のネットワーク図ですが、参加している国も19ヵ国に減り、また個々の国がつながる国も少なくなっています。
コミュニティも5つに増え、日本=サウジ、フランス=イタリア、メキシコ=ブラジルは他の国のネットワークからは孤立しています。後の2つは納得できる感じもしますが、日本=サウジは何か経済的な意味合いがあるのか、単なる偶然なのか。
実は2024年のネットワークには、アメリカが見当たりません。やはり、アメリカは一人勝ちの様相で、他の国とは違う好調さだったんだろうと思われます。
アメリカ以外では、アルゼンチン、インド、韓国、台湾、トルコが不参加です。

ネットワーク密度の指標を各年で計算すると以下の通り。全世界対象のインデックス投資の隆盛などで、ネットワークが一方的に緊密化する方向に進んでいるのかと思ったのですが、どうもそういう感じではありません。
気になるのは、密度指標が高かった2018年と22年は市場が低調だった年。2018年は米中対立激化や米国利上げなどにより、株式市場は大きく下げた年。2022年は、FRBが1年間で4%ポイントを超える大幅な利上げを実施したことで、大きく株価が下がった年です。
逆に指標が低い2017年は、トランプ相場で株式市場は好調だった年。2021、23、24年も非常に好調でした。
2016年のように、特に好調でも不調でもなかった年でネットワークが緊密だったという例外もありますが、何となく、上昇する年には各国バラバラに上がるが、下げる年にはみんな仲良く落ちていく、という傾向があるようにも見えます。

まぁ、足元では一人勝ちのアメリカ市場ですが、そういつまでもいい状況が続くこともないでしょうし、そろそろアメリカ市場に調整が入るのか、疑わないといけない時期かもしれません。
そうなると、仮に「落ちるときには、みんな一緒に」が正しければ、アメリカ市場の調整が起きれば、どこも全滅という感じになってしまうのか。逆にネットワークに参加しない国を選ぶのがいいんでしょうかね。
世間的にはインド株を推奨する声もよく聞きます。2024年のインド株は比較的好調で、好調なアメリカと同様、ネットワークに参加していませんが、それが独立した強さと考えていいのかどうか。
上記は正相関が強い市場でネットワーク図を描いたのですが、逆に逆相関が比較的強い市場を選んでネットワークを描いてみます。前回、大きく市場が落ちた2022年と、好調だった2024年で描くとこんな感じ。なんとトルコが共通して浮かび上がってきてしまった。
最初のグラフではトルコは落としたのですが(標準偏差が非常に大きい年が多いので)、確かに2022年、トルコは一人勝ちのプラスでした。24年もリターンはプラス、標準偏差は比較的高い状態でした。とはいえ、他の年では一人負けのことも実は多い国です。
トルコは、ウクライナ情勢や中東情勢での仲介役を通じて、地域政治的にはプレゼンスが上がってきている感じはするんですが、エルドアンが金融政策にまで口をはさんで、高インフレ・通貨下落という不安定さが頻発するイメージ。投資市場としては、ちょっと信頼はしきれない感じ。さすがにトルコ市場にベットはできんなぁ。いやいや、悩ましい。
ま、ベストはトランプがおかしなことをせずに、アメリカ市場の調整が短期・小規模に収まることでしょう。

