「今どきの若いやつは」対「昭和の化石かよ」

「今どきの若いやつは」というのは太古の昔から言われていた文句。当然、今の日本にもアメリカにも、世代ギャップは色濃くあります。でも選挙をにらんで、どの辺りの政策に重点を置くかと考えると、このギャップは実に厄介な問題です。

今回は、アメリカで社会課題への認識に、どんな世代ギャップがあるのか見てみます。

民主党はどこ狙い?

私自身、トランプやMAGA派の主張が好きになれないのは隠す気もありませんが、同時に「意識高い系」の若者がやる抗議活動にも、「ちょっとそこか?」と思う気持ちは拭えません。

最近は少なくなりましたが、気候変動問題への抗議と称して美術品にトマトスープを投げつけたり、サッカーの大会でゴールに自分を縛り付けたり、はたまた接着剤で自分の手を地面に貼り付けたりとか、そんなことで世間が「そうか、俺たちももっと気をつけなきゃ」となるとは、ちょっと思えない。むしろ「お前ら、抗議している自分の姿に酔ってるだけだろう」と、後ろ向きの影響しか与えないのではと感じてしまうのは、私自身の年齢の問題もあるのかもしれません。

アメリカでは来年中間選挙があり、民主党は何とか議会多数派を握りたいところですが、世代間での認識差がある中、どこに働きかけるべきか議論があります。

Harvard Youth Poll(18~29歳の若者対象の世論調査。ハーバードの学生対象ではなく、高卒者も含む調査)というのを見ると、民主支持vs共和支持、リベラルvs保守ではそれぞれ36%ずつ、32%ずつと拮抗していますが(弱い支持を含む)、前回選挙の投票先ではハリス48% vs トランプ42%、トランプへの好感度は30%(否定的は57%)と民主党に優位。その一方で議会の仕事ぶりへの評価では、両党とも低い中、共和党29%、民主党23%と、むしろ民主党に厳しい評価です。

民主党としては若者層に働きかけて投票を促したいところですが、この層は社会課題に対して進歩的な姿勢を持つ傾向が強く、「民主党は十分にリベラルじゃない」と批判されている可能性もあります。しかし政策のウェイトをここに置いてしまうと、より高い年齢層や穏健中道派層を遠ざけてしまうことになります。そんな観点から、アメリカの各世代による社会課題への見方を比べてみようと思います。

Z世代、X世代、ミレニアル世代…

世代のラベル貼りとしては、Z世代、X世代云々というのが、最も一般的なんでしょうかね。この辺りの括りで何かいい世論調査がないか、色々と探したのですが、結局、ちょっと古く2018年にピューリサーチセンターが行った調査(“Generation Z Looks a Lot Like Millennials on Key Social and Political Issues”)に行きつきました。この調査のアップデート版がないかと探し回ったのですが、どうも見つかりませんでした。

2018年ということはトランプ1期目の途中。コロナの前だし、今のさらに過激になったトランプ/MAGA政策も見ていない段階。ただ逆に言えば、今ほどMAGAが世間に受け入れられておらず、「私はMAGA支持です」とはっきり主張するのが憚られていた頃です。

そういう意味で、この世論調査が今のアメリカの世代的な見方を正確に表しているかは微妙なのですが、大きな傾向としては大丈夫だろうと思い、これを使います。

ここでは以下の5世代に分けて、様々な社会課題についての意見を調査しています。

  • サイレント世代:1928~1945年生まれ(調査時の年齢:73~90歳)
  • ブーマー世代:1946~64年生まれ(同54~72歳)
  • X世代:1965~80年生まれ(同38~53歳)
  • ミレニアル世代:1981~96年生まれ(同22~37歳)
  • Z世代:1997年以降生まれ(同21歳以下)

サンプルサイズは、サイレント世代が最も少なく964人、Z世代1178人、最も多いのがブーマー世代3983人なので、それなりに正確な調査だろうと期待されます。

国の方向、政府の役割

まず国が進んでいる方向、世界でのアメリカの位置づけ、政府の役割といった大きな質問から。

国が進んでいる方向については、世代が高くなるほどポジティブになる傾向が緩やかにありますが、ちょっと面白いのはミレニアルが最も悲観的で、ZとXは似たような傾向にあります。Z世代はまだ大学在学中の人口も多い一方、ミレニアルは労働市場に出ていて辛酸を嘗めているからかもしれませんが、他の質問では必ずしもこういう「底打ち」傾向は明らかではありません。

アメリカの世界における位置づけ(①アメリカが世界で最良、②最良グループのひとつ、③他により良い国がある、からの三択。グラフは①と③の比較のみ)だと、Zとミレニアルが同じように悲観的。世代が上がるごとに楽観的な傾向が、「国が進んでいる方向」以上に顕著です。日本人だと、世代を通じて悲観的な感じがしますが、羨ましい限りです。

「政府が問題解決にもっと介入すべきか」と言う質問だと、若い世代ほど(Z世代が最も強く)政府の役割を求め、上の世代は「政府は手を引け、民間企業に任せろ」という姿勢が極めて顕著です。メディケアやメディケイド等、我々からすると当然と思う政策でも、アメリカでは反対する人が多いのですが、こういう世代間の差も大きいのでしょう。

移民・人種問題

トランプ政策で最も議論を呼ぶのが移民問題。移民がアメリカにとってプラスかマイナスか(強くプラス/マイナス、ある程度プラス/マイナス)を聞くと、全体的にプラスの見方のほうが圧倒的です。最もネガティブなのはブーマー世代ですが、そのブーマーでもプラスの見方のほうが圧倒的に多いです。ちょっと想定と違う結果です。

でもトランプ2期目の状況を見ていると、これは本心とは違う回答をしているのかもと疑うところはあります。しばらく前までは「移民を国外追放しろ」なんて恥ずかしくて言えなかったのが、今は全くタブーじゃなくなりましたからね。

これは人種的多様性や黒人の扱いについても同じ。これらの質問では、ポジティブな意見が世代とともに少なくなる傾向ですが、最も支持が低いサイレント世代でもプラスの意見のほうが圧倒的に多いです(これ以外に「特に違いはない」や「白人・黒人とも同じように扱われている」が、ほぼ同程度います)。

この3つの質問で共通しているのは、ネガティブ意見の比率を見ると、サイレント世代以上にブーマー世代で否定的な意見が強い点。公民権法が成立したのが1964年で、ブーマーはこれ以前に生まれた世代。また、この世代が社会に出たのが60~80年代ぐらいで、まだ圧倒的に白人が優位(移民も限定的)だった時期かもしれません。そこが記憶に残っていると、その後の状況に否定的な見方をする部分があるかもしれません。アメリカや世界の経済構造が変わっていく中で、社会に出た頃からの大きな落差を強く感じている世代とも考えられます。

このブーマー世代を巡る問題はあるとしても、共通してプラスの見方をする世論のほうが大きいという点で、一般の印象とは違う感じでしたが、ここやはりアップデートをしてほしいところです。

気候変動、ジェンダー、黒人

最後は最も「意識高い系、ESG系」の質問。やはり世代間のギャップは明らかですが、同時に課題により同じ世代でも支持率が大きく違うのが特徴的です。

気候変動については、温暖化の原因が人間の活動か、自然の傾向かを比較します(これ以外に、「明確なエビデンスはない」「分からない」も選択肢にありますが)。やはり若い世代ほど人間の活動が原因とみる傾向は強いのですが、サイレント世代でも「人間の活動」への支持のほうが高くなっています。

これ自体は心強いのですが、政策的には「気候変動を止めるために、電気代が上がってもいいか」とか「石油・石炭の使用を止めるべきか」というところまで踏み込みたいところ。こうなると、もう少し全体の傾向も変わってくる可能性があります。

最後に最も意見が分かれるのが性別の問題。「質問票などで男・女以外の回答オプションを設けるべきか」との問いに対し、これも年齢が高まるにつれてNoが増えるのですが、他の質問と異なり、ミレニアルでほぼ拮抗、X世代で既にNoのほうが多くなります。Yesが多いのはZ世代のみです。やはり、ジェンダー問題に関する限り、まだアメリカでは保守的な考え方が主流と見たほうがよさそうです。

日本から日本人の視点で見ていると、今のトランプのやり方をよしとする世論が主流とはとても思えないのですが、一方で議会民主党への評価は低く、現時点での投票先の意向調査でも民主党が負けているという調査結果も聞こえます。

やはり、どこか民主党はお行儀が良すぎて、トランプの強烈な個性に対抗できるヒーローがいないんですよね。今のところ名前が挙がるのはカマラ・ハリスとかギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事)とかですが、どうもインパクトに欠ける。

民主党も少しカラーを変えて、トランプと罵り合いして負けないぐらいのアクの強いキャラがほしいところ。個人的には、今、ニューヨーク市長選挙に立候補しているクオモみたいなオッサンのほうが、一般受けするんじゃないかという気もしているのですが。州知事辞職につながったセクハラ疑惑って、民主党内の権力闘争とか、逆に共和党からの仕掛けとか、何か裏があったのかと疑いたくもなります。

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