衆議院選挙の結果を踏まえ、政策連携の枠組みで各党の力関係を比べてみた

衆議院選挙が終わりました。まぁ、裏金やら統一教会やら、色々と逆風が吹く中、公認を出さないとか、比例重複を認めないとか、自民党は一生懸命に当選者数を減らす努力をしていたので、事前予想通りの結果となりました。

でも自民、立憲を含めて単独過半数をとった政党はないので、今後の国会運営では、どんな形であれ政党間連携は必要になります。いろんな連携可能性を含めると、結局、各政党の力関係はどう評価されるのか、ちょっと比べてみました。(追記:なお最後の計算部分、読者の方からコメントを頂き、当初の投稿から少し修正しています。)

総選挙の結果、どこも過半数とれず

選挙結果はここで繰り返す必要もないでしょうが、自民党が大きく議席数を減らし、立憲が逆に大きく伸ばしました。それでも自民党が第一党、立憲は2番目です。「2位じゃダメですか」というチャチャ入れは、もう使い古されていますね。すいません。

また、自公を足しても過半数232議席には足らないという結果でした。

過去、2009年のときは当時の民主党が308議席と単独過半数を得て政権交代が起きたわけですが、次の2012年選挙では自民党が294議席、14年も291議席…と、その後も自民党が単独過半数を取ってきました。

さらにそこに連立政権を組む公明党の30前後の議席を加えれば、まぁ、法案はどう転んでも可決できるという状況。そういう意味では、民主党時代を含めて、与党には法案可決に不安がないという政治状況が続いてきました。

ところが今回は自民191議席、立憲148議席と、どちらも過半数に届かず。公明の24議席を加えても、過半数に届きません。

こうなると自民党側であれ立憲側であれ、自分たちの法案を通そうと思うと、他党と手を組まないといけないわけです。

維新も国民も、連立政権を組むつもりはないと明言しているようなので、法案ごとに色々と手を握る必要があるわけですね。久々にそういう状況になったのは、その道のプロからすると、むしろ面白いのかもしれません。

パワー指数

政治学の世界では、「パワー指数」とか「投票力指数」とか呼ばれるものがあるようです。

例えばA、B、Cの3政党があり、いずれも単独過半数をもっていない場合、過半数をとって法案を可決するためには、投票協力が必要になります。色々な組み合わせがあるなか、各党が賛成に投じることで初めて可決する組合せがあります。ざっくりというと、各政党の投票数(議員数)をもとに、そのようなケースが起きる確率を計算し、各党の投票力を評価するものです。

この場合、単純な議員数のシェア以上に、ある党がキャスティング・ボートを握り、発言力をもっている可能性が出てきます。

従来は自民党が単独で過半数をもっていたので、自民党以外の党の投票力・パワーはゼロという状況でした。これが今回は変わってきたわけで、こんな作業にもある程度の意味はあるかと思ったものです。

なお例えばA党とC党は絶対に連携しない(例えば自民党と共産党のように)という距離の離れ方もあるので、そういうものを踏まえた形でも指数は計算可能です。ただし、私は各党の細かい「裏つながり」などの知識が全くないので、以下はあくまで数字のお遊びになります。

投票連携の可能性

今回の選挙の結果、無所属議員が12人います。この人たちはバラバラなので、ひとかたまりにすることは正しくありません。12人のうち、自民寄り、立憲寄り、維新寄りといった形で色分けができればいいのですが、私にはその知識はありません。

全体で10政党+12人の無所属議員がいるので、その所属議員数をもとに指数を計算しますが、例えば自民と公明は連立政権を組んでいるので、ここは同じ投票をする傾向が強いと考えられます。

共産党と社民党、もしかすると「れいわ」も、かなり近い投票行動の可能性があるでしょうか。また、まだ分かりませんが、参政党と日本保守党とか、色々と考える必要がありそうです。

政治ウォッチャーの方々なら、この辺り、より正確な見通しができるでしょうが、まぁ、このポストはあくまで数字のお遊びなので、一般常識をもとに、ちょっと面白そうな連携可能性も含め、複数の可能性を想定します。

まずは全政党がバラバラのケース(自民と共産の連携も排除しない)。そのほかに試行的に以下の4つの連携を考えてみます。

1{自民、公明}{維新、参政、保守}{立憲、国民}{れいわ、共産、社民}

2{自民、公明、国民}{維新、参政、保守}{立憲、れいわ、共産、社民}

3{自民、公明、維新}{参政、保守}{立憲、国民}{れいわ、共産、社民}

4{自民、維新}{参政、保守}{立憲、国民、公明、れいわ}{共産、社民}

5{自民、維新}{参政、保守}{立憲、国民、公明、れいわ、共産、社民}

多分、ケース1はかなり常識的なグループ分けかと思います。ケース2は国民民主が自公と組む一方、国民民主に逃げられた立憲がリベラル系3党と政策連携する場合。

ケース3は維新が自公と政策連携をする場合。立憲・国民はリベラル3政党とは別にしました(ケース2と少し様相を変えるため)。

ケース4は「維新が入るなら俺は嫌だ」と公明が立憲グループに入り、そこに「れいわ」も入るというケース。

最後にケース5は、自民・維新連携にリベラル連合(公明含む)という大連携ケースです。公明をこちらに入れるとお叱りがあるかもしれませんが、自公維となると、過半数になり面白くないのでご容赦。

そりゃ無茶苦茶だ、というご批判はあるでしょうが、まぁ、頭の体操ですので、許してください。

追記:なお当初は無所属議員12人をひとつの集団として計算しました。単純に横軸にずらっと無所属12人分が並ぶのが見にくいと思い、「無所属の会」的なかたまりにしたのですが、12人バラバラとして扱うべきとのコメントを頂きました(「どこぞのゲーム理論家」さん、ありがとうございました)。以下は上記の政策連携グループと別に、12人がバラバラに投票し、どことも政策連携をしない形で計算しています。なお個々の議員の投票力は同じなので、グラフでは代表の一人分のみ表示しています。

今回結果による試算

このような政策連携でパワー指数を計算しました。細かい計算方法の違いで、Shapley-Shubik 指数というものと、Banzhaf指数というものの2つがあり、両方を計算した結果です。両者間で、それほど大きな結果の差はありません。

まず全く政策連携がないバラバラの場合、自民党の指数はシャープレイ指数で45%、バンザフ指数で46%と、実際の議員数シェア41%を少し上回ります(以下、両指数の差を含め、〇~×%と記載します)。一方、立憲は議員数シェアでは32%ですが、パワー指数は13~16%に下がります。これに対し、維新は議員数では8%ですが、パワー指数は13%に上昇します。この辺り、個人的には面白いと感じました。

一方、現行の連携枠組みを(私が勝手に)想像したパターン1の場合、自民のパワー指数は41%(議員数シェアと同じ)に微妙に下がりますが、立憲も8%へ大きく下がってしまいます。逆に上昇するのは維新17%で、立憲を上回ることになります。それだけキャスティング・ボートを握る意味での「存在感」が高まるわけです。そのほか、国民民主、れいわ、共産もそれぞれ8%前後とかなり力を上げますが、社民は1%、参政、保守はゼロと力を発揮できません。

では国民民主が自公と連携し、立憲とその他3党がリベラル連携を深めた場合はどうなるか。この場合、自民のパワーがなんと56~71%と大きく上がることになります。この場合、3党で過半数を握ってしまうので、3党以外のパワーは「ゼロ」です。う~ん、国民民主の立ち位置は有利な感じがしてきてしまいました。

国民民主の代わりに維新が入る場合も同様で、リベラル系の大連携の有無にかかわらず、この3党以外のパワーはゼロです。仮に立憲から社民までが連携を組んでも、やはり3党で過半数をとってしまうためです。維新も議席数を減らしたとはいえ、いい立ち位置ですね。

公明が自民との連立から離れ、自民・維新で連携した場合ですが、この場合は過半数をとれないので、政局的には面白くなり、色々な組み合わせが可能になります。自民と維新のパワーは、ともに32~41%で同じになります。他は1~4%で「どんぐりのせいくらべ」状態。また、この場合、無所属議員もそれぞれ1%前後の力を持つことになります。かなり混沌とした状況です。

最後に「自・維連合」 vs 「リベラル連合 featuring公明」という対戦。この場合、自民・維新のパワーは29~37%ずつに下がります。一方のリベラル連合は0~2%ずつ。参政・保守の超保守連合は、それぞれ2~4%とリベラル連合の各政党を上回ります。

また最後のケースでは、無所属議員はそれぞれが2%前後の力を持つことになります。ただし、仮にこの12人が連携をする場合は、実は17~19%と最大の力を持つことになります。全員で政策をすり合わせ、しかし他の政党にすりよらず、独立独歩の精神で行く方が高く売れるのかもしれません。アメリカの上院のように、50対50で本当に拮抗している場合は、昔ならマッケイン、今ならマンチンのような一人の造反者で結論が変わりうるのですが、やはり多党が林立する中では、なかなか個人でキャスティング・ボートを握るのは困難そうです。

と、まぁ、政策連携の枠組み次第で、各党の投票パワーが大きく異なりうることが見えてきました。無所属議員をもう少し小グループに構成しなおして色分けしたり、連携の枠組みを見直したり、色々な調整余地は大きいと思いますが、いやいや政治の世界というのは難しいものです。

これまで長い間、そういう議会対策が不要な時期が続いたのですが、今後は法案ごとに各政党間で、「なだめ、すかし、おどし、おだて」により味方を作るという泥臭い作業が必要になります。こういうのを「党人派」というのでしょうか。ちゃんとそれができる人が、自民なり立憲なりにいるのかどうか、不安ではありますが、まぁ、野次馬根性で見ていきましょう。

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