前回のポストでは中国の対外資金協力について、まずは総額ベースでざっくりと見てきました。今回は、どういう国が重点となっているのか、もう少し詳しく見ていきます。やはり、よく言われるように資源国と台湾との関係が浮かび上がってくる感じです。
国別の累積供与額
まず資金供与形態をグラントとローンに分けて、国別の供与額を見ます。ただし2013年に「一帯一路(BRI)」政策が発表される前と後では、政策的な位置づけも異なる(より政府の政策の一部として強い位置づけになる)可能性があるため、2012年までと2013年以降の2期間に分けます。
以下のグラフでは、それぞれ総受取額で上位15ヵ国を抽出しています。この15ヵ国の中でも規模に大きな差があるので、グラフの縦軸は調整しています。
またグラフで色がついているのは、輸出収入の50%以上を一次産品に依存する国。黄色が原油等の燃料輸出国、茶色が燃料以外の一次産品の輸出国です。IMF WEOの区分ですが、恐らく50%以上という基準に合わず、「この国は資源国だよね」というのが落ちている点には注意。また「一次産品」ということで、農産物等の輸出国も入ると思うので、いわゆる「資源国」とは違う国も入っています。
まずパネル左半分のグラント受取額でみると、当然ながら北朝鮮が断トツで一位です。その後に続くパキスタン、ネパール、エチオピア、ミャンマーといった国は、BRI前後で共通してリストに入ってきます。
一方、BRI前後でかなり入れ替わりもあります。少し意外なのは、BRI前トップ15リストからスーダン、マリ、ジンバブエ等の鉱物輸出国が落ちている点。確かに代わってタジキスタン、モンゴル、南スーダンが入ってきてはいますが、全体的に見て、必ずしも資源狙いでグラントをばら撒いているとは言えない様子がうかがえます。
しかしローンになると、もう少し資源狙いが明らかになってきます(グラフ右半分)。ロシアは、グラフ上は色がついていませんが、資源国と言っていいでしょう。政治的近さだけでなく、資源国という点でも最重点国なのは納得できます。その下にも、BRI前でベネズエラ、カザフスタン、アンゴラが続きます。ブラジル、インドネシアも、色はついていませんが(恐らく50%以上という基準に合致しない)、資源狙いといっていいでしょう。これらの国はBRI後のトップ15リストでも残っています。
BRI後リストで新たに入った国には、アルゼンチン、モンゴル、イラン、南アという資源国があります。エジプトもWEOでは資源国になっていませんが、石油が最大の輸出品の国です。アルゼンチン辺りは、経済混乱もあり主要国が資金を出せない中、中国がリスク覚悟で貸し付けている、というストーリーかもしれません。
この辺りを考えると、BRI後の融資先トップ15でのうち、非資源国はパキスタン、バングラデシュ、トルコ、ラオスといった国ですね。
GDP比で見ると、より目的は明確かも
上記の金額ベースだと、特にローンについては、当然、経済規模の大きい国ほど、多額になる傾向が予想されます。一方で個々の国にとっての「ありがたさ=影響力」という観点で考えると、当該国のGDP比で見たほうがいいかもしれません。
以下は、各期(BRI前後)の受取累計額を各国GDP(2012年、2021年)で割ったものです。分子が累計額なので、本当はこの期間のGDP累計額で割った方がいいのですが、北朝鮮のように毎年のGDPを取るのが難しい国もあり、期間最終年の単年GDPを使いました。
まずグラントで見ると、金額ベースと同じく、当然ですが北朝鮮が断トツです(GDPには韓国銀行の推計値を使っています)。その後、ニウエ、ミクロネシア、トンガ、バヌアツといった大洋州諸国、またドミニカ、グレナダ等の中米・カリブ諸国が名を連ねています。一部、資源国も見られますが、必ずしも資源狙いとは言えないようです。別の狙いについては、後で追及します。
一方、ローンで見ると、断トツなのがマーシャル諸島です。ちょっと他の国とは比べ物にならない規模です。この国はIMFでは非燃料の一次産品輸出国になっているので色付きにしていますが、農水産物なので、中国が求める「資源」とは違う印象。しかも台湾承認国。ナゾです。タックスヘイブンが関係あるのかどうか…。
BRI前だと、その後にはエリトリアやシエラレオネ、タジキスタンといった資源輸出国が入ってくるのですが、それほど資源国に集中はしていません。しかしBRI後になると、ラオス、カンボジア、ジブチ、モルジブといった非資源国はあるものの、大半が資源輸出国になっています。
ただし、これらの非資源国の場合、もう少し戦略的な意味合いが疑われます。ラオス、カンボジアはASEANの中でも中国寄りの外交姿勢が顕著な国。南シナ海問題などを考えると、是非とも影響力を維持したい国でしょう。またジブチは紅海に面した戦略的に重要な国で、長年、アメリカが軍事基地を置いていましたが、2017年に中国も基地を開設して、かなり問題になった国です。モルジブは親インドか親中国かで、選挙のたびに行ったり来たりしている国で、対インドという観点から中国にとっては戦略的な位置づけと言えます。この辺りは、ちょっとキナ臭い感じが拭えない力点の置き方ですね。
やはり台湾問題の影が
さてグラント供与額をGDP比で見た場合、大洋州諸国や中米・カリブ諸国が上位を占める形になっていました。この背景を考える際、やはり台湾問題を意識せざるを得ません。
現在、台湾を承認している国は12ヵ国あります。うち1カ国はバチカンなので、まぁ、中国から資金援助を受ける可能性はないですが、残り11カ国のうちアフリカは1カ国(エスワティニ、以前のスワジランド)、大洋州諸国が3カ国、中米・カリブが7カ国となっています。
これらの国への中国の金融支援を、BRI前後に分けて見てみます。ほとんどの国で、BRI前後を通じてゼロです。GDP比で最大の融資を受けていたマーシャル諸島は、実は台湾を承認している国なので、「国交がないから金融支援もできない」という言い方はできないでしょう。ただしマーシャル諸島はODA条件の融資は受けておらず、OOFあるいはvague loanのみです。所得水準は比較的高い国ですが、上で見た通りGDPで見た受取額が多額であり、債務過多で乗っ取られなければいいのですが。
一方、パラグアイは逆にBRI後に大きな規模ではないですが、ODAを受けています。あまり詳しくはないのですが、中国に乗り換えようという動きでもあるのか、ちょっと謎ではあります。
露骨なのはセントルシア。ここは珍しく、2007年に中国から台湾に乗り換えた国なのですが、それまでは受けていたODA支援をBRI以降は受けていません。ハイチがゼロになったのは治安もあるでしょうから、台湾とは無関係なんでしょうが。
逆に、近年になって台湾と断交して、中国に乗り換えた国としては、2000年以降で見ると20ヵ国があります。これらの国への金融支援額を、台湾断交以前と以後とで比較しました(グラフ中、「T」は台湾承認期間、「C」は中国承認期間)。ほとんどの国で、T期にはゼロか少額だったのが、C期にはプラスあるいは多額に変化しています。
例外としてドミニカ共和国、ホンジュラス、ニカラグア、ナウルがありますが、ホンジュラスとニカラグアの中国承認は2021年(データのある最終年)、ナウルは2024年(データ期間外)です。またドミ共は、総額こそ減っていますが、中国承認前は全額OOFだったのが、承認後は全額ODAになっています。
恐らく、こういう経済規模の小さめの国は、中国にとっては少額の支援をすれば、台湾断交という大きな成果を得られるという、コスパのいい国なのでしょう。
次のポストでは、ローンの条件を詳しく見て、よく言われる「債務の罠」の可能性などを探ってみようと思います。