最近、中国経済も少し元気がなくなってきて、昔ほど「一帯一路」がニュースで報じられる機会も減ってきたような気がします。確かに規模は落ち着いてきたのですが、それでも様々な国際会議の場で、「今後〇年で〇億ドルの支援を約束」といった動きは依然として見られます。
中国の対外支援の規模、条件などは公にされていませんが、様々な公表データを用いて作成されたデータベースもあります。今回はそのようなデータを使って、どんな国に、どの程度の資金協力をしているのかを見てみます。
どんなデータベースがあるのか
通常、各国は自分が世界経済にどれだけ貢献しているか、できる限り広報したいと考えていて、対外支援についても詳細なデータを公表します。ところが中国の場合、国際イベント等で大枠をぶち上げる一方で、その詳細についてはなるべく出したくないようで、全体像が分かりません。
そこで色々な研究者・機関が、プレスリリースのような細切れの情報等も含めてサーベイして、何とか全体像をつかもうと努力しています。
まず、Johns Hopkins Universityの「China Africa Research Initiative」は、アフリカにフォーカスしたものですが、援助や貿易、投資等の様々な側面でのデータベース作成を続けてくれています。
また保守系のシンクタンクAmerican Enterprise Instituteでは、「China Global Investment Tracker」というデータベースを作っています。ここはアフリカに限定せず、世界全体での中国企業の直接投資と受注契約のデータを集計しています。受注契約が中国の対外資金協力(援助、輸出信用など)の姿を示すと思われますが、資金源はデータ上でも不明であり、中国政府以外の資金源も含まれているかもしれません。
最後に、今回使うデータはWilliam and Mary UniversityのAid Dataがまとめているもの。分かるところでは資金の供与条件(金利や返済期間等)や個々の事業の目的等、より詳細なデータがまとまっています。ただし、膨大な作業を必要とするためデータのとりまとめには時間を要し、現時点では2021年までのデータしかありません。
本来は、このような手間暇をかけないでも、中国政府がとりまとめて正確なデータを公表してくれるのが一番なのですが、何を隠したいのでしょうかね
3つのデータベースを比較
念のため、3つのデータベースを比較して、全体的な規模感を確かめておきます。上がAid Dataとジョンズホプキンス大学CARIの比較、下がAid DataとAEIの比較です。ジョンズホプキンスはアフリカ向けのみのデータベースなので、上のパネルではAid Dataからもアフリカ向けのみを抽出して比較しています。
年により、若干の凸凹はありますが、全体的な規模感としては、大きな齟齬はないようです。2016年のアフリカ向けで、ジョンズホプキンスの補足が上回っているのが例外で、ほとんどの場合、Aid Dataのほうが、よく補足していると言っていいでしょう(過剰という可能性はあるかも)。
アフリカ向けだけに関心があるわけではないので、以下ではAid Dataを使って作業をしていきます。
全体規模の主要国との比較
まず全体的な規模を見てみます。Aid Dataでは個々の資金フローについて、目的(開発、商業、混合)、形態(グラント、ローン)、ターム(ODA条件、OOF条件、不明)に分類しています。「OOF」というのは「other official flows」で、いわゆる「援助」資金より、もう少し条件が厳しい(金利が高い、返済期間が短い)ものを指します。「ODA条件」というのは、グラントはほぼ無条件にODAですが(軍事目的等は除く)、ローンのうち低利・長期といったものもODAに該当します。
なお元データでは「債務削減・救済」もあったのですが(特にイラクやキューバ向けで大きなものあり)、これは落としておきました。また「representational」という目的のものも、金額的には僅かなのでデータからは落としてあります。
そのうえで、日米等の主要国との比較をします。ただし以下のグラフでは、中国データから商業・混合目的のものは落としています。中国の場合、国営銀行の公的融資だとしても、それを全部入れてしまうと、日米などの民間銀行が行う融資と同じ性格のものが含まれてしまいます。ここでは日本などのOOFと比較可能なものとして、「開発」目的のもののみにしました。「混合」目的を全部除くべきか、検討の余地があるとは思いますが。
アメリカは、大半がグラントで、かつ規模的にも中国を(また日欧の主要国も)圧倒しています。中国は、まだ全く及ばないという水準。またドイツは近年、グラントを中心に急速に規模を拡大させていて、ドイツも規模的に中国より上です。
日本との比較でみると、ピーク時には中国が日本を上回る年もありますが、大半の期間では、まだ日本のほうが大きいと言っていいでしょう。中国の場合、OOFあるいはVagueが全体の大きな部分を占めている一方、日本は(一時はOOFのほうが大きかったのですが)近年はODA loanのほうが上回っています。まぁ、この点からも、まだ日本のほうが貢献度は高いと言っていいでしょう。
一方、フランス、イギリスについては、規模だけからいえば、ピーク時には中国が明らかに上。しかし足元では落ちてきていて、総額ではほぼ同水準といったところか。もちろん中国はOOFローンの規模が大きいため、グラント、ODAローンの規模のみで言えば、英仏のほうが上と言っていいでしょう。
ただし資金を受け取る側からすれば、融資条件が少々キツかろうが、環境基準やら透明性やらゴチャゴチャ言わずに、これだけの規模の資金を出してくれる中国というのはありがたい存在と言えるのかもしれません。
目的、形態などの内訳
次に中国の資金供与データについて、目的、形態、タームの動向を見てみます。ここでは商業目的の融資も含んだベースで見ます。
まず明らかなのは2009、10年辺りに最初のヤマがありますが、その後、一時期の停滞を挟んで、2015年頃にまた規模が拡大している点。習近平の「一帯一路」政策の発表が2013年ですので、それ以降のフロー増大が明らかに見られます。
また資金供与形態としては、圧倒的にローン(特にOOFローン)が多くを占めており、グラントやODAローンはごく一部にとどまっています。日本もローンが多いのは同じですが、中国ではよりソフトなODA条件が占める割合が非常に低い点が異なります。
資金の目的を見ると、明確な開発目的あるいは商業目的のものは全体の一部で、大半が混合(開発目的でもあり、商業目的でもあり)となっています。先ほどの主要国との比較では、この部分も(純粋に商業目的のものと合わせて)除いていますが、むしろここが中国の資金協力の特徴といっていいでしょう。
多分、資源開発のような純粋に商業目的なものではなく、インフラ整備の公共事業ではあるものの、純粋に開発目的といえる地方道路のようなものより、都市部の高速道路や発電事業、鉄道事業といった財務的にペイする(と期待される)ものが多い、ということだろうと思います。
まぁ、これ自体は、多くの先進国の支援は人道援助っぽいものが中心である一方、途上国側としては経済開発に向けた高度インフラがほしい、というギャップがあるのだとすれば、現地の開発ニーズに沿っている可能性はあります。世界銀行やアジア開発銀行、それに日本の援助もそういう傾向はあるので、これ自体は批判されるべきものではないでしょう。
ただ仮に事業の経済性等が十分に吟味されていなければ(選挙前に大統領が「コレがほしい!」と言ったなど)、途上国側にとっては十分な利用料金や税収につながらず、結果的に借り入れが焦げ付いてしまうという、いわゆる「債務の罠」につながってしまう可能性は懸念されます。
地域・所得分類
次にグラントとローンに分けて、どのような相手先に供与されているのか、大きな分類で少し見てみます。個々の国別の動向は、後のポストで詳しく見ます。
グラントは、やはりアフリカが中心、次いでアジア地域という、まっとうな地域配分です。2015年以降の規模拡大時には、南アジアや欧州・中央アジア向けが一定程度増えますが、それでもアフリカ向けの伸びが顕著です。2020年にアフリカ向けが大きく減っているのは、コロナの影響で遠いアフリカでの事業実施が困難になったのかもしれません。
一方、所得水準でみると、本来、グラントは大半が低所得国向けになるのが普通だろうと思うのですが、実は低位中所得国も同じぐらいの規模(一帯一路以降は、むしろこちらがメイン)で供与されており、どういう基準で配分しているのか、ちょっと謎な部分は残ります。もちろんグラントを低所得国以外に供与してはダメということはないですし、受取国の消化能力という問題もあるのですが、経済的というより政治的な思惑の可能性も疑われるところです。ここは別途、見ていきます。
ローンについてみると、中南米向けが案外多い様子が見られ、これも少し印象が違います。以前、国際開発機関の受注状況を見た際、米州開発銀行でのベネズエラ大型案件受注を除くと、アジア、アフリカより見劣りがしていました。ところが中国政府・政府系金融によるファイナンスは、ラテンアメリカにも重点が大きく置かれているようです。
所得水準別にみると、一帯一路以前は高所得国向けも一定程度ある年も見られたのが、その後は目立たないようになっています。なお「not classified」とあるのは、世銀が所得グループに分類していない国で、ぶっちゃけていえばベネズエラです。やはりベネズエラは、「ああいう国」であり、また石油資源も豊富にあるとなれば、中国としてはお得意さんにしたくなるのでしょう。
まずは全体像を見ておこうということで、今回はざっくりと総額ベースで中国の資金供与の動向を見てきました。後のポストでは、国別やローンのターム別の詳細などを見ていこうと思います。