世の中にはいろんな指標で作る世界ランキングがあります。何か特定のイシューを、各種指標を使って総合点に変換して、世界の中での位置づけを確認するというのは、難しい仕事でもあり、面白い作業だとも思います。
ただ、それぞれ課題があるのも事実。今回は「お前の国は、どれだけ幸福なんだ」という指標を観察してみようと思います。
乱立するランキング指標
世の中にはいろんなランキングがあります。特定のイシューに関連する複数の指標を、いろんな手法で単一の数字に総合して、各国をランキング付けするというものです。
まぁ、一人当たりGDPにしても、経済のいろんな側面を「付加価値」という金銭的な単一指標で合計しているわけで、環境負荷があってもGDPが高ければいいのか、とかいった批判は常にあるわけです。
それでも複数の側面を持つ問題を一つの指標に集約して、世界の中での位置付けを分かりやすく示すこと自体、無意味なものとは思いません。
ただジェンダーギャップ指数(過去記事はここやここ)などは、どうもデータの選択にバイアスがあるように思え、しかも他にも似たような指標で評価が全く違うものがあるのに、日本にとって悪い指標だけを取り上げて、自虐的に(というか政府批判という点では他虐的に)批判をするというのは、少し再考の余地があるのでは、とは思います。
今回は「世界幸福度指数」について見てみます。日本の順位は高いとは言えず、ちょっと気になる部分はありますが、幸い、この指標は偏った報道のされ方はしていません。先日2024年データが出ましたが、主要なメディアなどで特に大きく取り上げられていないようです(数年前までは報道されていたように思いますが)。
この指標を否定しようとか、吊るしあげようとかいう趣旨では全くありません。単純にデータをよく見てみたいとの意図です。実際、職場での幸福感、年金制度への信頼感、子供の幸福度調査など、世界的に見て日本人があまり幸福に感じていないというデータは、他のソースでも共通に見られますし。
日本の幸福度ランク
このデータは国連が定める国際幸福デー(毎年3月20日)に合わせて作成されているもので、世界150カ国程度を対象に、その国の国民が「どれだけ幸福か」を指標化しているものです。
この指標の面白いところは、一人当たりGDPや健康寿命といったハードデータに加え、各国で行った意識調査(アンケート)により「幸福度」を指標化している点です。
幸福度を構成する側面としては、所得、健康寿命、社会的支援、社会的自由、寛容さ、汚職の認識からなっています。アンケート調査は、困ったときに頼れる相手はいるかといった「yes/no」の回答もあれば、「0~10の間でどう思うか評価してくれ」というものもあります。
まずランキングを世界地図にプロットしてみます。濃い青ほどランキングが高く、濃い赤ほどランキングが低いことを示します。
この手のランキングの常として(なぜか、非常に多くの指標でそうなのですが)、上位に位置するのは北欧諸国。次いで西ヨーロッパ、オーストラリアと北米、そして南米がその次のレベルという感じ。逆に低いのがアフリカと南アジア。
日本を含む東アジアは薄い青で、なんとか真ん中以上で踏ん張っているという感じでしょうか。

日本の順位は、あまりよくはありません。2024年は147カ国中で55位。2023年の51位から少し落としています。特に先進国だけでいうと、51カ国中40位と、下から数えたほうが早いポジションです。
以下のグラフは順位ではなくスコアです。2列に分けていますが、左側は世銀所得基準による先進国、右側は新興・途上国です。個別国では日本とアメリカ、近年1位を続けるフィンランド、先進国中では最下位を続けるブルガリアを注記しています。(2013年データは欠如)
2024年だと、1位がフィンランド、その後、デンマーク、アイスランド、スウェーデンと北欧諸国が続きます。私はこの辺りの国は全く知りませんが、そんなに地域全体として幸せなんですかね。
5位オランダの次に、なぜかコスタリカが来て、7位ノルウェー、そして8位がイスラエル! 個人的には、そこまでイスラエル人が自身を「幸福」と感じているのが不思議です。
日本は世界全体で見れば真ん中よりは上であるものの、先進国だけで見るとそれほど高くありません。しかも、かつて日本は先進国の間でも真ん中ぐらいでしたが、その後、他の国の指標が上がる中、日本の相対的な位置は、どんどん低下しています。
ブルガリアの先進国中最下位はほぼ変わりませんが、指標自体の改善が顕著で、このままいくと数年後には日本も抜かれてしまうかも、という勢いです。先進国で最下位にはなりたくないなぁ。

日本の弱さはどこに?
日本の弱さがどこにあるかを、指標を構成する側面ごとに見てみます。以下のグラフはスコアを構成する各要素の寄与度なので、ウェイトのせいでしょう、変数により水準が大きく異なっています。
明らかに高いと言えるのは「健康寿命」ぐらい。「汚職の認識」はアメリカを逆転していますが、それでも真ん中ぐらい。「一人当たりGDP」は世界全体で見れば決して悪くはないものの、先進国中では高くない水準です。
「社会的自由」はアメリカが低すぎるという感じで、途上国も含めてみれば、日本は決して高くはない。これは「あなたが人生で行う選択の自由に満足していますか」という質問。正直、私はこの質問をされても、どう答えればいいか分からん。
一方、「社会的支援」は先進国内では下位にあると言ってもいい感じ。「あなたが困難に陥った時、助けてくれる友人や親戚がいますか」という質問です。まぁ、確かに日本はあまり地域内などの横のつながりがないとはいえるかも。でも、「孤独のグルメ」は私もよくやりますが、楽しんだけどなぁ。
特に低いのが「寛容さ」です。この指標は、「過去1か月間に慈善団体に寄付をしたか」というアンケート結果を一人当たりGDPに回帰させた残差を用いているようなので、「日本人は金持ちのわりに、全く寄付をしとらんじゃないか」というお叱りのようです。
確かに日本人は寄付をあまりしないと言われます。やはり大きいのは宗教との距離でしょうかね。世界各国では、宗教がもう少し身近で、教会やお寺などを通じて寄付が行われるような印象。
また特にアメリカで顕著かもしれませんが、寄付を募る際(宗教とは全く関係ない公共団体でも)、それが税額控除になることを嫌というぐらい強調します。「政府に税金で持っていかれるぐらいなら、自分の好きな団体に寄付する」という意識なんでしょう。
でも日本の場合も、お寺や神社への賽銭や、小学校などでの「赤い羽根募金」なんかを入れるとどうなんだろう。ふるさと納税は、さすがに寄付とは言えないのかもしれんが。

他の指標と比べてみると?
この指標自体、先に述べたようにアンケート調査をベースにしているので、それぞれを検証するのは難しいのですが、何か「幸福度」と関係しそうな客観指標と比べてみようと思います。
まず思いつくのは自殺の多さです。これは日本では多いので、日本の幸福度の低さへの反論にはなりませんが、他の幸福度が高めの国との相対的な位置関係を見てみます。
同様に他殺とも比較してみます。色々と不満があれば、それが他者への攻撃に転じる確率も高くなるかもしれません。
この2つは不幸せさが反映される結果的な指標ですが、逆に不幸せを引き起こす要因として、「相対的貧困度」と「悲惨指数」も見ておきます。
絶対水準としての貧困(1日〇ドル以下など)だと、当然、先進国ほど低くなりますが、主観的な不幸せの場合、「同じ社会の他の人たちに比べてどうか」がより大きく影響すると考えられます。ここでは60パーセントの所得水準より低い人口比率(2023年)を使います。
悲惨指数は、失業率+インフレ率で計算するのが最もオーソドックスなものですが、ここではそれに金利、GDP成長率を加えたHanke指数(2022年)を使っています。
グラフ中、青い点は先進国、薄いグレーは新興・途上国です。また個別国では、日本(JPN)、アメリカ(USA)以外に、上位に位置するフィンランド(FIN)、スウェーデン(SWE)、デンマーク(DNK)、アイスランド(ISL)、オランダ(NDL)、コスタリカ(CRI)、ノルウェー(NOR)、イスラエル(ISR)を載せています。横軸がこれらの指数、縦軸が幸福度スコアです。

まず自殺率は、日本の水準は確かに高いのですが、ランキング・トップのフィンランドも負けていません(ただし横軸は対数表示にしているので、見た目以上に差はあります)。上位の北欧諸国も、日本よりは低いですが、世界的に見てそんなに低いとは言えない感じ。全体に明確な下向きトレンドは見られません。
殺人事件発生率の場合、日本は圧倒的に低いですね。アメリカはもちろん、6位のコスタリカも世界的には非常に高い水準。傾向的には、自殺率よりも明らかな負の関係が見られます。
相対的貧困率については、日本は先進国中では真ん中ぐらいのグループ。コスタリカやイスラエルはもっと高いのに、幸福度は日本より明らかに高いという関係です。
一方、悲惨指数だと日本は圧倒的に低い水準。でも幸福度は低いんですね。まぁ、これまでのインフレ率や金利の低さは、ちょっと異常だったとは言えますが。
なかなか、こういうランキングを評価するのはむつかしいということですね。日本人にとって、日本は住みやすいとは思いますが、実際、色んな点で窮屈なところは否定しがたい。しょうもないことでネットは炎上するし、みんな誰かを否定して、自分が優位に立ちたくて仕方ない感じ。日本以外もそうなんでしょうが、まぁ、難しいですね。