全く、よくもここまでやりたい放題やってくれるもんだと思いますが、イーロン・マスクの暴走が止まりません。
日本でも財務省解体デモなんかがあるようですが、さすがに法的根拠も曖昧なままで、政府省庁を勝手に廃止するなんてことは起きないでしょう。
何を考えて、ここまでドラスティックなことをするのか疑念は残りますが、果たしてこれが彼ら自身にとっていい影響を与えているのかというと…。
「現代のマンハッタン計画」?
「政府効率化」という名目の下、トランプは「政府の官僚主義を廃し、過度な規制を削減し、無駄な支出を減らし、連邦政府機関を再構築する」、「大規模な構造改革を主導し、これまでにない政府への起業家的アプローチを生み出す」と主張、「2兆ドルの歳出削減」をぶち上げました。
これを「現代のマンハッタン計画」と言ったようで、まぁ、根っからの能天気さに呆れるところではあります。
年間6.5兆ドル規模の歳出から2兆ドルを削減するには、裁量的経費だけでは無理で、社会保障、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)、メディケイド(低所得者向け医療保険)、退役軍人への給付金といった人気の高い「非裁量的経費」の大幅な削減が必要になるはずですが、果たして2年後に中間選挙を控える中、そんなことが可能なのかどうか。
現状、特に厳しい仕打ちを受けているのがUSAID。1月27日にUSAID本部にDOGEメンバーが立ち入り、財務や人事の機密情報へのアクセスを要求。阻止しようとした幹部は休職処分を受けて排除されました。2月3日にはメールで全職員向けに出勤停止を通告。翌4日には、2月7日付で全職員を休職にすると通知。最終的に300人弱を除き、ほぼ全職員を解雇するという、かなりドラスティックな計画です。
また2月9日には、消費者金融保護局(CFPB)についても機能が停止されました。CFPBはリーマン危機後、民主党が主導して設立した組織。ケネディ政権で設立されたUSAIDと同様、共和党からは反発を受けてきた組織です。
消費者保護の観点から各種規制を課すため、金融業界からも嫌われていますが、まぁ、もっと言えば、Xに決済機能を持たせたいマスクからすると、その規制・監督を行う機関ですから、目障りで仕方ないのでしょう。
DOGEの目的は予算効率化よりwoke撲滅
ただ実際にDOGEの削減対象となった機関は、以下のトランプ発言に見られるように、その無駄云々よりも「どれだけwokeな機関か」が問われています。
USAIDについて、トランプは「あの組織は大勢の急進的な狂人たちによって運営されてきた。奴らを追い出せ」と主張。マスクも「犯罪集団」と決めつけています。しかし、そこで「無駄遣い」とされたのは、コロンビアのトランスジェンダー・オペラ公演に4万7000ドル、途上国の産児コントロールへの支援、ベトナムの電気自動車普及に7万ドルなど、少額かつDEIや環境保護向けの少額なものばかり。
にもかかわらず、現行の援助プログラムの8割以上を停止すると、ルビオ国務長官が発表することになりました。彼自身は、USAIDの必要性を(心の底では)認識していると思うんですが、損な役回りです。
以下の図はスタンフォード大学のAdam Bonicaという先生がポストしたものの再作成(ほぼ盗用です)なのですが、各機関のイデオロギーとDOGEによる攻撃を対比したものです。各機関のイデオロギーは、政府機関の管理職へのアンケートによるもので、客観的な指標というより主観的な見方ではあります。
これを横軸(マイナスほどリベラルな姿勢)に、縦軸に年間予算規模(単位:10億ドル)をとり、各機関の職員数(単位:1000人)をドットの大きさで示しています(最後のところだけ、オリジナルから追加)。今回のDOGEのレイオフの対象になった機関を赤で示していますが、このデータが提供されて以降、若干変更があります(例えば国防総省でも文官の解雇が開始)。
やはりレイオフ対象の赤い点は、左側に多くが集中しています。予算規模では最大がCenters for Medicare and Medicaid Services(左上のほうの小さな点)。トランプ支持が強い傾向の高齢者向けのメディケアはともかく、貧困層向けのメディケイドは削減圧力が強くなりそう。
右真ん中辺りの上方にある大きな赤い点は、Department of Veterans Affairs(退役軍人省)です。イデオロギー的には保守に位置していますが、レイオフ対象。退役軍人手当の削減は選挙的には悪手な感じはするのですが、人員削減はするが手当は削減しない(IT技術で対応可能)ということなんでしょうか。

あまりに数が多くて、個々の機関名をグラフ内に書けないため、予算規模と職員数で上位30機関のみ抜き出し、その政治的姿勢で並べてみました。人員削減対象の機関は、赤で色付けしています。
予算規模上位30機関では、国防省関連が保守性でトップ3にいます(当然か)。当初の段階では、彼らはレイオフ対象ではありませんでした(その後、文官の解雇が始まったとの報道もありますが)。保守的な機関でレイオフ対象になっているのは、国家核安全保障局、退役軍人省、連邦緊急事態管理庁(FEMA)、連邦航空局(FAA)の4機関です。
FEMAは、近年、大型ハリケーンの被害などで重要性が増している組織ですが、気候変動問題を「なかったことにしたい」意向かもしれません。FAAはスペースXの打ち上げ失敗などがあった際、報告義務を課したりする機関なので、そのせいかと思うのは考えすぎですかね。
逆にリベラル色が強い機関でレイオフ対象となっていないのは、国務省、農村住宅局、法務省、運輸省のみです。ただし国務省については、最近、在外公館の閉鎖指示がありましたし、法務省はトランプとしては大ナタを振るいたいでしょう。将来がどうなるか不安です。
職員数でみると、保守的なイデオロギーの機関が上位に位置していて、削減対象は限られています。保守的だが削減対象なのは(予算基準で見た機関以外だと)内国歳入庁。トランプ及びお友達の金持ち連中は、絶対に潰したいと思っている組織ですね。
逆にリベラルでレイオフ対象でないのは、上記以外では商務省。ここは関税その他の貿易対策で必須でしょうから、維持したいというのは分かります。

アメリカ国民の見方は?
で、これが国民の支持を得ているかどうかですが、DOGEそのものへの世論調査は見つけられなかったため、まずは大統領としての支持率(approval rating)を見てみます。データは、FiveThirtyEightという政治サイトが各種世論調査結果を平均して日次でまとめたものを使っています。データは3月3日までしか得られません(最後に少し説明します)。
大統領として就任した今年1月20日以降のデータがありますが、支持率は徐々に低下したのち、2月18日頃に大きく低下、不支持率も同じ時期に急上昇しています。ついに足元では不支持率が支持率を上回る結果になっています。
とにかくトランプが打ち出す大統領令などは数が多くて分かりませんが、自動車関税25%を言ったのが18日、ウクライナが選挙をしていないことを非難したのも18日です。この辺りの影響でしょうかね。
バンスについては支持率のデータが見つからなかったので、好感度(favorability)を見ることにします。こちらは大統領選より前からの推移を見ます(支持率とは横軸の範囲が違います)。
まずトランプについては、大統領選以降、「嫌いunfavorable」が低下、「好きfavorable」が上昇して、年初ではほぼ拮抗する形になったのですが、大統領就任後は(支持率の動きと同様に)「嫌い」が上昇、「好き」が低下する方向に転じ、「ワニの口」が開く格好です。「政策的な支持」以上に「感情的な嫌い」のほうが勝っている状況ですね。
一方、バンスについては、直近で「嫌い」が上昇しつつも、「好き」も高止まり傾向(まだ「嫌い」のほうが多いですが)。マスクと「政権No.2はどっちだ」競争をしている感じで、DOGEに対抗するように欧州安全会議での強硬発言や、ゼレンスキーへの挑発発言を一生懸命にやっているのですが、これが実は功を奏しているところがあるようで、ちょっと懸念されるところです。

こういう世論調査がないマスクについては、仕方ないのでテスラ株を見てみます。横線は、大統領選挙があった11/5の水準です。横軸上でも、11/5を赤線で示しています。大統領選を境に急上昇しましたが、その動きは長続きせず、昨年末ごろから急降下。既に大統領選後の上昇を失ってしまいました。
因みにフォード、GMの自動車株も見てみましたが、こちらは大統領選挙後、むしろ完全に株価を落としています。「関税でアメリカの黄金時代がやってくる!」との主張に相反して、市場はちゃんと見ているということですかね。
とはいえ、これがトランプとマスクを止めてくれるのかどうか。当初は株価が落ちれば人気を気にするトランプは政策を見直すと言われていたのですが、最近、ちょっとそこが怪しくなっています。

蛇足:データを殺そうとするトランプ政権
最後に、上記の世論調査データをとったFiveThirtyEightについて。大統領選挙人の数が538人なので、そこから名前を付けて、主に政治面の世論調査などを取りまとめてきた組織です(他にもスポーツ関連のデータなども多いですが)。世論調査はいろんな新聞社や調査会社が散発的に行うため、これらを全部まとめて平均値を出して、日次でデータを作ってくれて来た、ありがたい組織です。
近年はABCテレビの一部門として活動してきましたが、実はここが急に閉鎖されてしまいました。ABCの親会社ディズニーの決定だそうです。理由は全く明らかにされていません。トランプ政権から何らかの圧力があったのか、圧力が来る前に「忖度」したのか、あるいは全く政治的背景のない経営上の判断なのか、全く分かりません。
しかし報道を扱う会社が、このような政治データを整理して周知する部門を、簡単に、何の世間への説明もなしに閉鎖してしまうという動きには、懸念を感じざるを得ません。政権の圧力で疾病対策センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)、国立衛生研究所(NIH)もデータ削除を指示されています。
全米の図書館ではDEIやLGBTQ関連と疑われた絵本まで禁書にされたり、ほぼディストピアの世界。あまりに「意識高い系」に振れた社会運動には疑問を持ちつつも、もうアメリカには中国の政府検閲を批判する資格もないのではと、暗澹たる気持ちになってしまう動きです。いずれ経済統計すら、政権の意向に沿うように改竄されたりとか…。