トランプ関税砲は、今のところ日本には飛来してきていませんが、自動車関税を4月からかけるとか、付加価値税も関税とみなすとか、非関税障壁にも報復関税だとか飛び交っている状況。
ちゃんと狙い定めて絞り込んで発言しないと、そのうちみんな不感症になって真剣に反応しなくなるんじゃないですかね。
まぁ、あまり論理的に考えても無駄なのかもしれませんが、まずはトランプ砲の餌食になりそうな国をデータで見てみようと思います。
対米貿易・投資の観点から
まずトランプ関税の重点対象国になりそうな国を、対米黒字額、関税の高さから見ていきます。このようなグラフはこれまでにも数多く作られているので、特に新しい発見はないのですが。
横軸には各国の平均関税率(世銀WITSデータ:アメリカからの輸入に限定した税率ではありません)、縦軸に対米貿易黒字をとり、各国の輸出に占める対米輸出のシェアを点の大きさで示しています(いずれもIMF-DOTSデータ)。
貿易収支は2023年の財貿易データ(サービス貿易は含まず)、関税率は2022年のデータです(2023年データが揃っていなかったので)。グラフでは、対米貿易黒字で上位10ヵ国だけ、国名を明記しています。
やはり言うまでもなく、対米黒字の王様は中国で、約3400億ドルです。次いでメキシコとカナダというUSMCAを形成している国。この両国は、対米輸出が全体の8割程度あります。そのために作った枠組みだから仕方ないのですが、トランプはこの貿易赤字を「不公正だ!」と非難しています。
その後、ドイツ、ベトナム、日本、イタリア、韓国などと続きますが、対米輸出シェアで見ると、この中では日本が20%、ベトナム28%と比較的高め。
日本の場合、関税率自体は低いのですが、最近は関税だけじゃなく非関税障壁も含めるとか言い出しています。そこにはトランプが大嫌いの環境規制など、何でも詰め込んできそうな感じ。クリントン政権の頃の「日米構造協議」が思い出される展開ではあります。
先進国の場合、全般的に関税率は低いのですが、韓国がこんなに高いというのは、ちょっと驚き。22年が以前に比べて高めなのですが(何か特別な輸入品目の増加があったのか)、以前の年も必ずしも日本やヨーロッパのような水準ではありません。他の先進国が1%台なのに対し、韓国の平均税率は8.63%。中国の3.09%、メキシコの4.75%より格段に高い水準です。ちょっと謎です。
韓国は北朝鮮問題もありますし、駐留米軍の大きさ、その費用負担の程度など、いじめられそうな要素がてんこ盛りで、気が気じゃないでしょう。
でも数字的に攻撃対象になりそうなのは、やはりインドでしょうか。2023年の対米黒字額で10位と大きく、また関税率も11.46%と高水準です。

一方、先日の日米首脳会談では、日本からの多額の直接投資をアピールして、なんとか逃げ切った様子。ということで、貿易黒字を直接投資残高で割った比率でプロットしてみます(フローの黒字をストックの投資残高で割るのは正確ではないでしょうが)。
ただし直接投資が非常に小さい国を入れると数字がおかしくなるので(極端な場合、投資がゼロなら無限大になってしまう)、残高ベースで上位の国に絞りました。
この場合、日本のランクは大きく下がり、上位にはマレーシア、タイ、中国、インド、メキシコといった国が標的として出てきます。貿易黒字のグラフでは5位に位置していたベトナムは、対米投資の観点で足切りにあって出てきません。ということは、逆に危ないかも。

相互関税?
トランプは「貿易赤字が米国の経済と安全保障を脅かす」といって、相互関税を導入すると発表しました。相手国の米国からの輸入税率が、米国の相手国からの税率より高ければ、その分、関税を上乗せして同じ水準にするということのようです。
つまり彼の頭の中には、「アメリカは関税を課さず、多くの国から無税で輸入してるのに、他の国はアメリカからの輸入に高い税金を課している。不公平だ!」という思い込みがあるようです。
上で見たグラフの関税率は、アメリカだけでなく、すべての国からの輸入について加重平均をした数字。アメリカとのバイの関係で、どういう税率かというのは別です。
関税率は対象品目により水準が違うので、とても自分じゃ計算できないな、と思っていたところ、各国の様々な貿易措置をまとめているGlobal Trade Alertというところが、そんなまとめを作ってくれていました。
以下はいくつかの主要国別に、関税率の差ごとに品目数ベースで比率を計算してくれたものをグラフにしたものです。
薄いグリーンは、お互いの関税率の差が±5%以内の品目数シェア。日本、イギリス、EUでは8割以上を占めます。それ以外の税率については、米国が5~10%、10~20%、20%以上高い品目シェア、逆にそれぞれ米国が低い品目シェアも示しています。米国のほうが高いということは、相互関税の対象にはなりえない(はず)なので青く、逆は赤く色づけしています。
この赤い部分が相互関税のリスクが高い品目となりますが、日本やイギリスはかなり限定的とは言えそうです。5%以上格差の品目シェアは、実はアメリカのほうが微妙に多いですね(日本は7.7%対6.9%、イギリスは8.7%対8.3%)。
一方、EUだと少し後ろめたくなり、EUのほうが低い品目数4.8%に対し、アメリカのほうが低い品目数が11.1%になります。トランプは異常にEUを嫌っているので、これはいい口実になりそう。
ただ日本の場合だと、農産物などで非常に高い関税をかけている品目もあるので、この辺りは攻撃対象になりかねません。本来は「じゃあ、日本もアメリカに相互関税で関税を引き上げたるわい!」と言ってもいいのですが、それはないでしょうね。
ただトランプは「付加価値税も相互関税に含める」とか言っています。日本も消費税が10%なので、上のグラフがそのまま10%分、上にずれる感じ? いやいや、付加価値税は輸入品も国内製品も無差別にかかるだろ、アメリカだって州政府は付加価値税を課してるじゃん、と真剣に抗議して分かってくれる人じゃないところが難しい。
とはいえ、やはり問題は新興国ですね。±5%の品目シェアは、マレーシアで6割、中国で5割といったところに減り、ブラジルでは3割、インドは1割とかなり下がってしまいます。
特に大変そうなのがインドですね。アメリカより10~20%高い品目が4割弱、20%以上も高い品目が2割もある。しかも対米黒字が10位の大きさ。直接投資も少ない。ま、テスラのインド事業展開で便宜を図るんでしょうか。
ブラジルの場合、対米関税率は高いのですが、収支は対米赤字です。でも、それで逃げ切れるか。関税率を引き下げるか、何か他の見返り(資源開発権?)を与えないと、何されるか分かりません。
まぁ、ウクライナに対して、軍事援助してやってんだから資源をよこせと、平気でみかじめ料を要求する大統領です。何が起きても不思議ではないか…。
