テニスのビッグ3とレジェンドを比較。やっぱり別格?

このサイトは何か真面目に主張したいことがあるというより、面白くデータ分析・可視化したいという方に主眼があります。そんなわけで、いつも何か面白いデータがないかと探しているのですが、過去のテニスの試合データを全部記録してくれているサイトを見つけました。

ここしばらく、男子テニス界はフェデラー、ナダル、ジョコビッチの「ビッグ3」が君臨してきましたが、2022年にフェデラー、去年はナダルが引退して、残っているのはジョコビッチだけになってしまいました。

私自身は目の端っこで見ている程度の不真面目なファンに過ぎないのですが、今回はこのデータで、ビッグ3と過去のレジェンドの成績を観察してみようと思います。

使用するデータ

ちょっと前までは、日々の通常ニュースでも錦織、大坂の成績などが報じられていましたが、最近は全く無視。今やっている全豪オープンや去年のパリ・オリンピックでも、出場していることすら、ほぼ無視という感じ。まぁ、確かに勝てなかったのは事実ですが(今回の全豪も早期敗退だったし)、ちょっと手のひら返しがひどくないかと愚痴りたくもなります。

それはさておき、しばらく男子テニス界はフェデラー、ナダル、ジョコビッチの3人(場合によっては、マレーも加えたりしますが、やっぱりこの3人でしょう)が完全にdominateする状態が続いていました。

ようやく、最近、アルカラスやシナーといった新顔がグランドスラムでも勝ち出して、少し動きが出てきたかなというところ。今回は、これまでの記事とはかなり趣を異にしますが、「ビッグ3」って、やはり別格だったんだろうか、という辺りをデータで見てみようと思います。

ありがたいことに、1968年以降、毎年のテニスの全試合について記録してくれているJeff Sackmannという人のデータベースがあります。このデータを使って、彼らの成績を、もう少し前のビッグネームと比較しながら見ていきます。

毎年の勝率

まず簡単に毎年のプレイヤーごとの勝率の推移を見てみます。1年間のシーズンで試合の勝率を計算し(トーナメントの優勝数ではなく、トーナメント内の1回戦、2回戦…といった個々の試合ベース)、85%以上の選手のみをプロットしたものです。

グラフを見やすくするため、2回目以降はイニシャルのみにします。ビヨン・ボルグもボリス・ベッカーも「BB」ですが、そこは時期も違うし、色で見分けてください。

85%に客観的な意味はないのですが、例えば80%以上だと出てくる選手数が多すぎて、とても読み取れないため、ここで閾値を置きました。

因みに勝率85%というのは、例えばグランドスラムだと優勝するには7回勝たないといけないので、決勝まで行ったけど負けました、という場合、7戦6勝で85.7%になります。その下のマスターズだと1回少ないんですかね、6戦5勝だと83.3%。つまり、コンスタントに決勝まで行っているぐらい、という(とんでもない)勝率です。

まず70年代半ば以降、コナーズ、ボルグ、マッケンローといったレジェンドが頻出する時期が続きます。1984年のマッケンローの勝率は、ちょっと信じがたいです(82勝3敗で勝率96.5%!)。

その後、マッケンローと重なるような感じで、レンドルの時代が始まっています。70年代後半から80年代というのは、ほぼこの4人が上位を独占した時期です。

一方、90年代に入ると、アガシ、サンプラスが1回出てくるだけです(アガシは88年にも出ますが)。上記4人のような常勝プレイヤーが君臨する時代ではなくなったようです。この時期はこの2人の天下というイメージだったのですが、むしろ戦国時代というのが現実だったようです。

これが完全に変わるのが2004年にフェデラーが勝率トップに出てから。2005年の勝率95.3%、2006年94.8%という、とんでもない選手が出てきてしまった訳です。ところが、2006年からはナダル、また少し遅れますが2011年からはジョコビッチと、同時に3人がほぼ常勝グループに入ってくる年が続きます。しかも、この3人以外に常勝グループに入ったのは、マレーが1回のみという状況。

こんなとんでもない選手が3人も同じ時期に活躍したというのは、何か相乗効果があったのか、全くの偶然なのか分かりませんが、逆に言えば、もしこの3人が少し違う時期に活躍していたら、年間グランドスラムを何度も連続して達成するということもあったのでしょうか。彼らにとって、これは不運だったのか、ライバル関係という意味で幸運だったのか、どうなんでしょうね。

2020年からはジョコビッチひとりの時期が続きましたが、2024年はシナーが勝率トップとなっています。アルカラスなども含めて、今年以降、新しい顔ぶれが出てくれることを期待します。

トップに位置した年数

ボルグ、コナーズ、マッケンロー、レンドルといった80年代頃のレジェンドと、2000年代のビッグ3で、勝率の推移を比較してみます。この6人が年間勝率で70%を超えた年を始点にして、その後、引退までの勝率の推移を見ていきます。

ここで取り上げる選手たちは勝率が70%を切ったあたりで引退しているので、まぁ、70%を出発点とするのは悪い基準ではないかと思います。グラフでは、70%を下回った年は少し色を薄くしてあります。

これで見ると、ボルグの全盛期は8年、マッケンローとレンドルはともに12年です。

一方、すごいのはコナーズです。全盛期が18年も続いています。先ほどのグラフでは85%で線を引いたので、グラフに出る期間は短かったのですが、7割勝率で行けば、ここまで息が長い選手だったわけです。その後、引退前は勝てない期間が続くわけですが、あれだけ何時間も一人で走り回るスポーツで20年近くトッププレイヤーだったというのは、「鉄人」といっていいでしょう。

そしてビッグ3は、このコナーズと同じ成績を残しています。フェデラーは19年、ナダルは18年です。ジョコビッチは昨年までの段階でコナーズ、ナダルと同じ18年。今年も活躍できれば、フェデラーに並ぶわけです。

やはり、これだけの勝率の選手が同じ時期に、これだけ長い期間、活躍していたわけで、この3人だけしか目立たなかったのは仕方ないでしょう。他の選手たちには災難としかいいようのない時代でした。

対ビッグ3勝率とアップセット

この「ビッグ3」に高い勝率で勝っているトップ選手がいるのだろうかと思い、作業してみたのが以下の図です。

まだ出始めの若い頃や、怪我でランクを落としている時期(ナダルが少し前そうでした)の戦績を除くため、対戦時のランキングでトップ30位以内の選手同士の試合を抽出し、対ビッグ3とそれ以外のトップ30に対する勝率で対比してみました。

対戦相手のランクは制約しないでもいいかもしれませんが、相手のランクが低い頃であれば、当然、負ける可能性が高くなるので、対戦相手側も30位以内の試合に制約しました。

横軸はビッグ3以外の上位30位以内の選手と戦って勝った勝率、縦軸はビッグ3と対戦して勝った勝率です。当然ながら、データは45度線の下、つまり「対ビッグ3勝率<対非ビッグ3勝率」の選手がほとんどです。

対ビッグ3勝率が50%の選手が3人いますが、フルバティだけはビッグ3に対する勝率のほうが高いという結果。ただし彼の場合、ビッグ3との対戦成績はナダルとフェデラーそれぞれと1回ずつ(フェデラーに勝利)だけなので、あまり当てにはなりません。

オジェ=アリアシムも、ナダル3回、ジョコビッチ2回、フェデラー1回と対戦して、それぞれ1勝ずつしており、比較的対戦回数が少ない中での勝率です。

一方、ティームは全体で32回、ビッグ3と対戦して、勝率5割なので、ここはかなり頑張ったと言っていいでしょう。まぁ、そのうち1回は、全米オープンでジョコビッチがラインパーソンにボールを当てて失格になった試合なので、これは除くべきかもしれませんが。残念ながら、彼も昨年で引退となりました。

またビッグ3に対する勝率は下がりますが、他のtop30との対戦成績が非常によいのがマレーとアルカラス。アルカラスは、まだジョコビッチとは対戦機会が増える可能性がありますから、これを上げていってくれるかもしれません。期待したいところです。

このような「アップセット」の確率を見てみます。正式なアップセットの定義はないと思いますが、ここは勝手に「ランキング10位以内の選手が、ランキング30位以下の選手に負けること」と定義してしまいます。

ただしデータベースでは1984年以前だとランキングのデータが不完全なので、1985年以降の期間に絞っています。したがって、レンドル、マッケンローなどの早いキャリア時点の試合結果は入っていません。

そのような「アップセットされた比率」をプレイヤー別に見てみます。さすが、ジョコビッチ、フェデラー、ナダルが最も比率が低いトップ3、次いでマレーが4位となっています。

恐らくキャリア後半にはアップセットされる確率も高まるので、ジョコビッチの比率が(既に引退している)フェデラーやナダルより高くなってしまうのか、それともまだ勝ちを重ねて低い比率を維持して引退するのか、ちょっと楽しみです。

その後も、納得感のある名前が並んでいます。錦織も18位と、師匠のチャンより上位にいます。

ビッグ3のグランドスラム独占

最後にもうひとつだけ。ビッグ3が突出しているのは、やはりグランドスラムのタイトル数。ビッグ3は、それぞれが20個以上のタイトルを持つのに対し、コナーズ、レンドルは8個、マッケンローが7個と、ここは段違いです。

以下は年間勝率70%以上の年だけを抜き出して、生涯での平均勝率と標準偏差を計算したもの。図は、それが10年以上ある各選手についてだけ載せています。やはりビッグ3とレジェンドで明確な差があるようには見えません。なのにグランドスラム・タイトルになると、これだけの差が出てしまう。

活躍期間はレンドル、マッケンローの12年に対し、ビッグ3は18~19年ですから、獲得タイトル数が1.5倍程度であれば「長く頑張りましたね」なのですが、完全にそれを超えています。この理由は、専門外の私には全く判断できません。

ひとつの可能性と思って、作業をしたのが以下のグラフ。グランドスラムとマスターズに絞って毎年の勝率上位4選手の勝率を見たものです。このレベルの試合に絞ったのは、マスターズより下の試合だと、彼ら全員が揃うことがないためです。上記の6人以外が上位4位に入っている場合は、個別の名前は無視して順位のみにしています。

これを見ると、コナーズ、マッケンロー、レンドルの場合、あまり重なってないんですよね。1982年、85年に3人が入ったり、83年、89年に2人が入ったりしますが、多くの年は誰か一人だけです。

一方、ビッグ3の時代だと、ほとんどの年で少なくとも2人、場合によっては3人すべてが上位4人に入っています。こうなると、ビッグ3以外の選手は決勝前に消えてしまう可能性が高く、決勝でどちらが勝とうが、ビッグ3の誰かがタイトルを取ることになります。

これだけのレベルの選手がほぼ同期間に活躍を続けられたことが、ビッグ3がグランドスラムのタイトルを独占し続けられた一因にはなったのかも。まぁ、どちらが原因で、どちらが結果かという感じはしますし、これだけの勝率を長期間、維持できたことが驚異的なので、彼らのスゴさにケチをつけるつもりは微塵もありません。

最初に3人が同じ時期に存在したことが、幸運だったのか、不運だったのかと書きましたが、もしかすると幸運という側面もあったのかもしれないな、と思った次第です。

既にかなり長くなってしまったので、とりあえずここまでで止めておきます。このデータはもう少し遊び甲斐がありそうな感じもします。ネタ切れの際には重宝しそうで、助かります。

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