2024年大統領選挙~赤はより赤く、青は無色(棄権)へ?

まぁ、そうなるだろうなぁ、というのは前回のポストでも書いたのですが、やはりトランプが当選してしまいました。まだ集計は終了していませんが、ほぼ全体が見通せる状況まで進んだので、ここらで各州の投票動向をもとに、今回の選挙結果を振り返ってみたいと思います。

一般投票は民主党が大幅減

まず一般投票の動向を見ます。11/8朝現在(日本時間)、まだ開票が十分に進んでいない州もあるので、開票率が9割を切っている9州(特に顕著なのがカリフォルニア州の60%)については、残った票を現状の得票率で両候補に割り当てて調整しました。今後、開票が進めば大きく変わる可能性があります(特に大票田のカリフォルニアの動向)。

前回ポストでも書いたように、従来、一般投票ではほぼ常に民主党の得票が上回っていたのですが、今回は様子が違いました。集計が遅れている州の大半は、ハリスの得票数が多いので、この後、少しは差が縮まるかもしれませんが、現状では共和党が一般投票でも上回るだろうという結果になっています。

しかし、これは共和党が票を積み増したというより、民主党が票を大きく落とした可能性も考えられます。共和党の得票が前回から若干増えた一方、民主党の票数自体が大きく減っています。

なかには「女の大統領なんか嫌だ」と、共和党に鞍替えしたマッチョな民主党支持者がいるかもしれませんが、やはり一部の民主党支持者が棄権した可能性は否定できない気がします。仮にそうであれば、「共和党勝利」というより、「民主党敗北」という結果だったと言えるかもしれません。

実際にどれだけが、どんな理由で棄権したのかは分かりませんが、よく報道で見かけたのは「バイデン政権の政策は不十分だから支持しない」というもの。イスラエル・ガザ問題、ウクライナ支援、移民受け入れ、学生ローン債務問題、環境規制などなど、現政権の対応が「不十分」だからカマラ・ハリスにも投票せず棄権する、という層がいる様子。

正直、私のような年寄世代には理解できない行動様式です。積極的にトランプを推して投票した人たちには、「意見の違いは尊重します」と言えます。しかし民主党政権の政策が、自分が希望する水準に達していないので、逆方向に政権が移っても構わない、というのは…ねぇ。

来年以降、ガザで何が起ころうが、環境破壊が起きようが、そういう人たちには抗議の声を上げる資格はないんじゃないでしょうかね。もちろん、仮に棄権が多かったら、の話ですが。

赤はより赤く、青はより薄く

州別の投票結果を示したのが以下の図。縦軸の州は、2024年の結果で、民主党得票率から共和党得票率を引いたマージンの高いほうから並べています。つまり、上の方ほど、民主党の得票率が相対的に高かった州です(ワシントンDCは「州」ではないですが)。

かなり2016年(ヒラリー対トランプ)の結果と似ています。これが、やはり女性大統領への反発を示すものだとすると、むなしい感じが否めません。

これだけだと、どれぐらい両党への支持が強いか分からないので、少しニュアンスを加えてみました。マージンが5%未満、5~15%、15~25%、25%以上で4段階に分け、民主党側、共和党側で、より濃い色を当ててみました。

2020年と24年の対比では、明らかに青が全体に薄くなり、赤はより濃くなりました。そして前回の薄い青が薄い赤に変わったのが見て取れます。前回、トランプが勝った2016年と比べても、青の淡色化傾向があるようです。

1980年代(レーガン、ブッシュ時代)は全体的に赤、1990年代(クリントン時代)は全体的に青でしたが、2000年代以降、赤と青に分かれるようになっています。この辺りを均してみると、アメリカの二極分化、分断というのは、やはりあるようです。

各政党への支持と社会的特徴

よく共和党支持層の社会階層・特徴として、白人・高卒以下・農業従事者、民主党は逆に非白人・大卒・裕福といった色分けがなされます。このような社会的特徴が各州の投票行動にどう影響したのかを簡単に見てみます。

2005年以降、毎年行っているAmerican Community Surveyという社会調査から、いくつか関係しそうな指標を州ごとに作成して、民主党への投票率との関係をプロットしました。2008年以降の5回の選挙の年ごとにデータを取り、トレンド線は年ごとに分けて引いて、傾向に変化があるのかを見ています。

後で行った統計分析も踏まえ、白人比率、年齢中央値、所得中央値、第一次産業就業比率、高卒以下人口、非米国市民比率、貧困家計比率、シングルマザー比率を取り上げています。

非米国市民比率は、米国の市民権を持っていない人口の比率で、移民の多さの代用です。不法移民の数は当然、公式統計には出ないので、移民の多さを示すものではありません。あくまで、代用として使ってみました。また、もちろん市民権がない以上、投票はできないので、これは彼ら自身がどう投票するかとは別問題です。

注:ただしコロナで2020年は調査を実施していないので、2019年の結果で代用。2024年もデータがまだ出ていないので、2023年で代用しています。occup_primaryは一次産業(農林水産業従事者に鉱山労働者を加えたもの)です。またワシントンDCは、何があっても民主党支持が圧倒的な特異な地域ですので、データから落としています。

所得は年を追うごとに上昇しているので(うらやましい…)、全体に点が右シフトしていますが、傾向としては大きく変わっていないようです。非米国市民比率や年齢中央値も、部分的に少し落ちているようにも見えますが、大きな違いはなさそう。何となく高齢者ほど共和党支持というイメージだったのですが、ちょっと違う傾向。まぁ、これは州全体での年齢と投票率の傾向で、個々人の特性と投票との直接的なつながりとは別物です。

一方、白人比率、一次産業就業者比率、高卒以下比率は、トレンドの傾向は同じですが、水準自体が2024年は特に低い感じが見られます。もともと共和党の支持基盤ですが、この比率が低い(=民主党優勢の可能性が高い)州でも、民主党の得票率が下がっていれば、特に激戦州では結果が逆転する可能性はあります。

シングルマザー比率と高卒以下比率は、同じように真ん中あたりに山がある感じ。安易にカテゴリー的に言ってはダメですが、両変数は質的に連動しそうな印象はあります。ただし高卒以下比率のほうが、山はありつつも全体に右下がり、シングルマザー比率は山型という違いはあります。

それぞれの要因がどう働いたか

さて、では上記のような変数を使って、民主党への投票率にどのような影響を及ぼしてきたのかを見ます。ここでは年による変化を見たいので、過去5回の選挙ごとに推定して、その係数を比較します。

本来はパネルモデルの応用をすべきかもしれませんが、変数に0%と100%の上下限があるうえ、先ほどの図でも単純な線形とは異なりそうなので、ここではベータ回帰というものを使います(大雑把に言えば、0 or 1の二値をとるロジスティック回帰の連続型という感じ)。正直に言えば、パネルでベータ回帰をする方法が分からなかったのですが(この辺りがシロートの限界)。

50個しかデータポイントがないので(上述の通りワシントンDCは特別すぎるので除く)、あまり多くの変数は使えず、いずれの年でも有意でない変数は落として、最終的に以下の7つの変数を残しました(ある年は非有意だが、別の年は有意というものが一部ありますが、残しています)。

なお既述の通り、米国市民権を有していないと投票はできないので、この変数を残すのがいいかは議論の余地はありますが、移民コミュニティが大きい州かどうかの代理変数になるかと考えています。

まず年齢(中央値)は、既に傾向分布で見た通り、民主党にはプラスの効果と、私には意外な結果です。他の変数との相関が高い訳ではなく、多重共線関係の心配はないのですが。ただ、このプラス値が徐々に落ちてきており、民主党への投票傾向が弱まっている可能性があります。

同じく意外だったのは、非米国市民比率がプラス符号ということ。もともと、移民問題への懸念の代理変数と見て、民主党に不利かと思っていたのですが、逆のようです。ただし、この係数が2024年には極端に低下しています。出口調査によると、ラテン系男性は2020年には過半がバイデンに投票したのに、2024年にはトランプに投票したとの報道がありました。トランプの不法移民対策は、既に国内で定住している合法移民(帰化して市民権を有している場合も)にとっては、新たな競合者を排除することになるので、共和党への投票行動に働いたのかもしれません。

一次産業就業者が民主党を嫌う程度は、2012年(オバマ2期目)を除いて、どんどん強くなっています。これはイメージ通り。また各州での分布を見ても(グラフは割愛しています)、2020年から24年にかけて、実はこの比率は若干高まっています。民主党的には、どうせこの層は減っていくトレンドなので無視していい、と思ったかもしれないのですが、ちょっと不利だったかも。

高卒以下の比率は、当然ながらマイナス符号です。2020年まで続いていた強化傾向が、2024年には微妙に逆転していますが、それでもトランプ当選となった前々回と同じ程度に、民主党にはマイナスの投票傾向です。

また白人比率は、当然ながらマイナス。前回は少しマイナスの程度が小さくなったのですが、前々回と同じ水準に戻しています。

やはり前回選挙と比べると、民主党にプラスの係数が少し低下し、マイナスの係数が少し大きくなった、という部分は(全部ではないですが)ありそう。しかし、やはり今回の結果を理解するには、どういう層がどちらに投票をしたのか以上に、どういう層が(特に前回民主党に投票したグループで)棄権をしたのか(あるいは、その可能性)のほうが重要だと思います。

とはいえ、仮に「意識高い系」のグループが(あまり安易にレッテルを貼るのはよくないですが)、不満を持って棄権したのだとして、「だから、よりリベラルな政策を進めよ」と考えるのか、「より安定的に中道のマスをとれる政策が必要だ」と考えるのかは、かなり難しいところではあります。

まぁ、根本的にはアメリカほど人口が多く、人種も、所得階層もバラバラな国で、2つしか現実的な選択肢がない、しかも州ごとの勝者総取りで、わずかなブレで結果が逆方向に振れうる、というのが原因だと考えるのは、私だけではないと思うんだがなぁ。

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