先日、久しぶりの日米協調為替介入がありました。まぁ、確かに最近の円安は異常で、どこかで反転してほしいというのは分かります。でも異常な円安をしばらく放置した後、巨額の円買い介入で戻して、またしばらく円安を放置して…というのは、一般庶民の積立投資にはマイナスなんじゃないか、という恨み言です。
ここ数年の円買い介入の繰り返し
先日の日米協調為替介入。2011年3月の東日本大震災時以来、25年ぶりだったそうです。その前はアジア通貨危機の最中(1998年6月)。前回は急激な円高へ対応する円売り介入でしたが、今回と前々回は円買い介入。今の円安は「骨太ショック」とまで言われていますが、つまり大震災、世界金融危機並みの災厄だったということですかね。
以下が2020年以降の円相場のグラフです。途中に赤い点があるのが、円買い介入を行ったとされる時期です。GW中など、日本市場が開いていないタイミングもあるので、ちょっとズレがあるかもしれませんが、その辺はご容赦ください。
しかしこれを改めてみると、2020年頃は100円台だったんですね。そんな時期があったとは、今から振り返ると、もう笑えてきてしまいます。
これが大きく変わるのが2022年春頃。この時はロシアのウクライナ侵攻+原油価格の急騰だったわけで、円安自体は外的な要因だったと言えるのでしょう。まぁコロナ後の世界的なインフレに対し、欧米が金利を引き上げた一方、日銀は緩和姿勢を続けたための日米金利差という要因もありますが、実際この頃は日本ではインフレになってませんでしたし、ちょっと判断は難しいところです。
しかしさすがに145円を超える円安に対し、政府・日銀は24年ぶりの円買い介入を行います。最初は9/22、それでも円安の勢いは止まらず10/21、10/24と介入を続け、これで年末にかけて円高方向に大きく進みました。
しかし、その後も円安方向への圧力は繰り返し、2024年にもGW中と7月に介入。7月介入後には日銀植田総裁の発言などもあり、大きく円高に動くのですが、それも長続きしませんでした。
現在の円安の起点は2025年春頃ですが、やはり大きく円安に振れ始めたのは高市政権誕生(2025年10月)からですね。「責任ある積極財政」で経済を強くする、と言いつつ、逆に市場では財政悪化懸念で円が売られる、という逆方向の反応を引き起こしました。
そして164円にまでなってしまった先日、25年ぶりの日米協調介入で一気に一時155円台にまで戻しました。とはいえ、このグラフを見ると155円という水準は、ここ数年のレンジで見ても、全く円高とは言えません。ここ数日は157円近辺で推移していますが、果たしてこの後、以前の水準を目指して円高傾向が定着するのか、あるいは過去数年のように直ぐに円安方向に再転換するのか、私などには全く予想もつきません。

円安自体はNISA民には有利だが
こういう最近の円安傾向は、オルカンやSP等の外国株式に投資する信託商品にとってはプラスという側面はありました。
以下はSP500(ドル建て)と、それを日々の円ドル・レートで円換算したものの比較です(2025年初水準を100とした指数)。円ドル相場が比較的安定していた2022年頃まではそれほどの差はありませんでしたが、それ以降、急激に両者には開きが出ます。特に2022年初にはSP自体は下落する局面があったのですが、この時期、円安のおかげで、円建てで見ればSPは下落することなく、ほぼ同水準で推移。その後のSP上昇時には、さらに円安のプラス評価が加わり、両者の乖離はどんどんと大きくなります。
例えば2020年初めに一括投資していたら、ドル建てで持っているアメリカ人投資家は2.33倍に増加しただけですが(それでも6年余りで倍以上というのは大きいですが)、日本円で持っている日本人の場合、3.38倍になっています。この人にとっては「円安ホクホク」と言っていい状況です。
仮にこれで完全に円高傾向にトレンドが変わって、1ドル120円とかなったら、NISA投資民は財務省に焼き討ちに入りそうだな。私も参加しかねない…。

でも積立投資の一般人の場合は?
さて、上のケースは一括投資をした場合ですが、そんなにおカネのない一般庶民は、コツコツと積立投資をするわけです。そもそもNISAもそういう設計ですしね。この場合、少し話は変わってきます。
一括投資であれば、途中で円が200円に安くなろうが、100円に高くなろうが、全く関係ありません。最終時点での為替が初期時点に比べて円高であれば、為替による影響(為替差益・差損)はマイナス、円安であればプラスです。
一方で積立投資の場合、途中の為替経路が最終資産額に影響してきます。円安になれば、そのタイミングでは買える口数が減ってしまいます。例えば毎月1万円投資をする場合、円ドルが100円であれば100ドル分買えますが、200円になっていれば50ドル分しか買えません。翌月に為替が100円になったとすれば、前者のケースでは前月に買った信託商品の評価額は1万円のままですが、後者のケースでは5千円に下がってしまいます。
もちろん、為替が50円→100円となれば、前月の投資の評価額は2倍になるわけで、積立投資の結果、大きく儲けることになります。為替の影響も含めて価格が上下に変動する場合は、積立投資のほうが安定するという説明自体は、ちゃんと生きてはいます。
ただここで不満なのは、円ドルが趨勢的に円安方向に動いている中で、過去数年のようにしばらく異常な円安を放置したところで、為替介入で急激に相場を戻すという政策対応です。これは積立投資民には、円安時の購入口数減少という大きな負担を強いているんじゃないか、という不満がどうしても出てしまいます。
ちょっと、この点をシミュレーションしてみます。
始点は円安傾向が始まる2021年1月とします。ここから毎月、月初めに1万円、SP500にインデックス投資をしているとします。まずは実際のSPインデックスと円ドル・レートで投資を続けた場合、2026年8月頭の時点で円建てでいくらになったかを計算します。
一方、シミュレーション・ケースでは、円ドル・レートが2021年1月の103.24円から2026年8月の157.41円まで、線形でまっすぐに減価しつつ推移したとします。この想定で、同じように毎月、月初めに1万円を積立投資したケースで、2026年8月時点での資産額を計算します。
この両者の資産額の推移を見たのが以下のグラフです。actualが実際の為替相場、simulationが想定の為替相場のケースです。相場の動きにより、途中actualのほうがsimulationを上回る時期もあるのですが、足元では完全にactualが不利です。
グラフ下段は、actual÷simulationでプラス、マイナスの幅を見たもの。最終的に2026年8月時点の資産額は、simulationの132万円に対し、actualは124万円と、6.2%の差損が出てしまいました。富裕層にとっては6%ぐらい何でもないでしょうが、なけなしの財布からコツコツ投資をする庶民にとってはバカになりません。
仮にこの後、円ドルが120円とかになったりしたら、為替差損は真綿が首を絞めるように、じわじわとNISA民の資産を食い潰していきます。街中にゾンビが徘徊する世の中になってしまう…。
ということで、お願いします、財務省さん。我々のような貧乏人に積立投資を勧めるのであれば、こういう円安放置→円買い介入という乱高下ではなく、安定的に相場を管理してくださいね。

