このところ、イラン攻撃とホルムズ海峡封鎖が海外ニュースのトップを独占していて記憶の彼方になってしまいましたが、去年の今頃は相互関税が話題を独占していました。2025年の世界の二国間貿易データも出そろったので、関税前後の貿易パターンの変化をレビューしてみます。
貿易相手ペアのシェア変化
世界が大注目する中で行われた米中首脳会談。結局、台湾問題も貿易問題も、特段の変更なく終わった感じ。まぁ、首脳会談なんて、そんなものかもしれません。むしろ台湾への武器売却撤回とかトランプが口走らなかったことを成果とすべきでしょうか。
さて、トランプの思い付きの最たるものが相互関税。最高裁が違憲判断をしたため、現在は少し落ち着いていますが、大混乱しました。まずは、世界全体の貿易パターンに変化があったのか見てみます。IMFの二国間貿易データを使って、主要国(日米中やカナダ、メキシコ等)以外は地域別にまとめて、それぞれの取引額で貿易マトリックスを作ってみました。
実はこの辺の作業でいつも苦労するのが台湾の扱い。台湾を「国」として認めない中国のため、台湾が報告するデータ(台湾がどの国といくら貿易したか)が存在しないのです。昔は(中国が常任理事国の)国連データには台湾がなかった一方、IMFデータには含まれていたような記憶があるのですが、今は完全除外ですね。政治的に「台湾は中国の一部だ」と主張するのは勝手ですが、こういう国際機関のデータまで妨害するというのは本当に許しがたい。中国の投票権拡大は、本当に間違いだったなぁ。
ただ貿易相手としてのデータはあるので(例えばアメリカが台湾に輸出した額、台湾から輸入した額)、これを逆にして台湾データとして扱います(厳密にいうと、輸出と輸入でFOB/CIFと金額ベースが違うのですが、無視します)。
これで国・地域ごとの貿易マトリックスを2024年、2025年で作成し、世界貿易全体に占めるシェアを計算、この2年間での変化率を計算し、その絶対値で上位20ペアを抽出したのが、以下のグラフです。
やはり最も大きく減ったのが米中貿易。中国からアメリカへの輸出のシェア低下が断トツ1位、逆にアメリカから中国への輸出も第3位です。また米カナダ貿易も2位と4位と大きく下げています。トランプは、自分の第1期政権でまとめて「歴史的な取引だ」と自画自賛していたUSMCAを、2期目になると「最悪の協定のひとつだ」と呼んでいます。まあ、短期記憶がなくなっているんでしょう。
逆にシェアが高まったのが、台湾とASEANから米国への輸出、また中国と台湾からASEANへの輸出も増えています。この辺りが「迂回輸出」ではないかと疑われるわけですが、ここは後でもう少し詳しく見ます。
このトップリストの中には日本や韓国は入っておらず、関税措置にもかかわらず両国は貿易パターンを大きく変えていない様子。関税の値上がり分を自分たちで呑み込んで、歯を食いしばって続けているような気もしますが、まぁ、この辺は分かりません。

米中の月次貿易額パターン
次に相互関税前後で米中の貿易総額がどう変わったか(あるいは変わらなかったか)を見てみます。ここでは月次データで推移を見てみます。青のプラスが輸出、赤のマイナスが輸入、黒線が貿易収支です。縦の点線が2025年4月、つまり相互関税を発表したタイミングです。
中国は春節のタイミングで経済活動が止まり、毎年1~2月に輸出の大きな落ち込みがあるので難しいのですが、傾向的には輸出は緩やかに拡大し、相互関税前と比べれば貿易黒字も微妙に拡大したという感じ。
アメリカの輸入は、相互関税の前のタイミングで駆け込み需要があったようで増えていますが、それを除くと、ほぼ同様の水準で推移。輸出が微妙に増えているため、貿易赤字は少し低い水準ですが、昨年末にかけては再び拡大する様子が見られます。
まぁ、総額ベースで見た場合、相互関税で劇的にアメリカの赤字が減ったとか、中国の輸出が壊滅したとか、そういう感じではありません。

しかしアメリカとの二国間貿易を主要国について見ると、やはり影響は見られます。これはアメリカから見た主要国との貿易額の推移です。
最も顕著なのは対中貿易。相互関税の前の段階から、中国との貿易(特に輸入)は大きく減少し始め(輸出も同様ですが)、対中赤字はそれまでの半分ぐらいの規模で推移しています。また関係が大きく悪化しているカナダについても、輸入額が急激に減っている様子が見られます。ただ同じくUSMCAを構成するメキシコを見ると、特に輸入の減少は見られず、二国間貿易赤字はむしろ拡大を続けています。
一方で急激に輸入が拡大したのはベトナム。トレンド的には相互関税以前から輸入拡大トレンドが続いていますが、2025年に入って以降、その拡大トレンドが上昇したように見られます。先ほど、ASEANの米国向け輸出が増加したのを見ましたが、かなりの部分がベトナムからだったのでしょう。

米中の貿易相手国の変化
次に米中の主要貿易相手国(アメリカの輸入先、中国の輸出先)との取引額の変化を見ます。中国の春節の影響が大きいので、2024年4月~12月と2025年4月~12月の9ヵ月間の合計で、貿易額の変化を見ます。変化の方向にはプラス、マイナスともあるので、その絶対値で上位20ヵ国の相手国を抽出しました。
まずアメリカの場合、やはり全体的には規模が縮小した国が多く出ました。あれだけすべての国に高関税を課したので、それ自体は当然でしょう。もちろん規模的には中国が突出、次いでカナダも大きく、その他の国の減少幅とはマグニチュードが異なります。
逆に増えたのは台湾、ベトナム、タイ、メキシコといった辺り、上で見たのと同じです。他にインド、インドネシア、マレーシアといったアジア諸国でも大きく増加しています。
一方、中国の輸出のほうは、アメリカ、ロシアの2ヵ国が大きく減少したのに対し、他は増加した国ばかりです。アメリカの輸入増リストと比べると、ベトナム、タイ、インド、台湾、インドネシアが共通しており、この辺りに迂回輸出の疑惑が生まれそうです。

迂回輸出の疑惑国
そこで上記の5ヵ国に加え、中国の輸出増トップの香港を加えた6ヵ国について、対米輸出と対中輸入の月額推移を比較したのが以下のグラフです。
これを見ると、ベトナムはほぼ完全に「クロ」ですね。見事に中国からの輸入とアメリカへの輸出がシンクロしています。昨年7月に結ばれたアメリカとベトナムの関税協定では、ベトナムで「積み替えて」米国に輸入されるモノに対し、40%の懲罰的関税を課すとしています(通常の輸入品への関税20%の2倍)。やはり迂回輸出が現実的な懸念だったのでしょう。とはいえ、それを証拠づけられるかといえば別問題で、果たして40%を課す品目をどう見極めるのか、税関当局の皆さんは頭を悩ませているでしょう。
またタイもかなり怪しい感じ。ベトナムほどではないですが、かなり「クロに近いグレー」という感じは否めません。
一方、その他の国では、あまり疑惑の影は見られません。香港は中国からの輸出中継地として見られる要素はありますが、対中輸入額と対米輸出額とでは全く水準が違います。インドやインドネシアも疑惑を感じられるような動きは見られません。
台湾は、かつては対米輸出と対中輸入は、かなり似た水準で推移していましたが、現在の対米輸出の伸びは、全く対中輸入とは別のもの。恐らく半導体関連が牽引しているのだと思われます。完全に「シロ」ですね。疑惑払拭、おめでとうございます。

