2回ほど、テニス・データでの暇つぶしに寄り道をしてしまいましたが、もう一度だけ、アメリカの保守・リベラルの問題に戻ろうと思います。
これまでアメリカの世論調査を使って、保守/リベラルの志向を持つ人たちのアイデンティティや政策の方向性などを概観してきました。最後に簡単な分析をして、どんな要素が保守・リベラルの傾向を持つ人たちを分けているのか、整理してみます。
分析手法
以前の記事では、アメリカの世論調査を使って、自分を保守やリベラルと分類した人たちが、どのような社会的背景や基本的な考え方を持つのか、またどんな政策的項目を支持/反対しているか、その傾向を見てみました。
今回はこの世論調査結果をもう少し分析的に扱って、保守、リベラルという人たちを分類する、つまり強く差が出る項目は何なのかを調べてみようと思います。まずは視覚的に分かりやすいので単純な決定木による結果を示し、その後、もう少し丁寧に機械学習による特徴量重要度を見ます。
決定木分析は、採用した質問から保守~リベラルを適切に分類できるように順番に分岐させていき、最も適切な枝切り基準のところで分岐を終えています。つまり、ここに載っている以外の質問は分類基準として重要ではないということです。中道派は保守/リベラルの中間ということもあり、正確に分類できていませんが、仕方ないでしょう。
また機械学習のほうでは、通常通りのハイパラ・チューニングで過学習などを排除したうえで、特徴量重要度を見ることで、どのような項目が保守~リベラルを分類する上で重要なのかを見ることとします。機械学習の手法としては、ランダムフォレストやXGBoost、KNN等いくつかを試したうえで、一番性能がよさそうだったSVMを使っています(そんなに差はありませんでしたが)。
なお「極端な保守/リベラル」、「少し保守/リベラル」などは「保守/リベラル」に集約し、「保守/中道/リベラル」の3グループで分析います。
どんなアイデンティティの人たちか
まずは保守、中道、リベラルという政治姿勢を持つ人が、どのような背景、基本的な考え方を持つのか、アイデンティティを考えてみます。前々回のポストでも概観した質問項目に、さらに幾つか追加した以下の18項目で分類を行います。
社会的な階層(上流、中流など)や年齢のような政策志向と無関係な項目も、政府や科学者を信頼するかといった、少し政策とも関連する項目もありますが、明確に政策的な志向と言えそうなもの以外を選択しました(選択は恣意的かもしれませんが)。
なお以下には「平等」に関する質問として、「ある人が成功のチャンスを多く持っていても問題ない(unequal_chance)」と「人々の平等にこだわらない(equality)」の2つがあります。前者が機会の平等、後者が結果の平等というイメージですね。
まぁ、大半の質問で似たような、なだらかな支持/不支持の対立傾向があったので、少し回答の程度が異なるだけで結果は別の形になる恐れはあります。アカデミックに厳密な分析をする目的ではないので、軽く読み流してください。
- 年齢(age)
- 伝統的な家族の価値の重視(family)
- 聖書は神の言葉(bible)
- 自分は人生において公平な取り分を受け取っている(life)
- 人々の平等さにこだわらないほうがよい(equality)
- ある人が他の人より成功のチャンスを多く持っていても問題ない(unequal_chance)
- 変化する世界に対応して、道徳的行動に対する見方を調整すべき(moral)
- 民主主義はどのような環境でも、他の政治形態より望ましい(democracy)
- 以下の各機関への信頼度:政府(trust_government)、議会(trust_congress)、司法(trust_judiciary)、政党(trust_political_party)、科学者(trust_scientist)、伝統的メディア(trust_traditional_media)、ソーシャルメディア(trust_social_media)
- 重要な政治的決定は、政治家ではなく以下の人に任せるべき:ビジネスリーダー(biz_leader)、専門家(experts)、住民投票(referendum)
最初の分岐は「伝統的な家族の価値(family)」。ここで「1:強く同意」「2:ある程度同意」と答えると左の枝に行き(どの質問もyesが左、noが右に分岐します)、さらに「科学者を信頼するか(trust_scientist)」で「2:ある程度信頼する」から「4:全く信頼しない」を選ぶ人が、保守派のひとつのグループを構成しています。もちろん、このハコの中には、保守派でない人も一定数含まれていて、これらの質問への回答で完全にキレイに分類できるわけではありません。各ハコに記載の人数は、このルートをたどった保守、中道、リベラルの人数です。
一方、リベラル・グループは、最初の「家族の価値」質問に「3:どちらでもない」から「5:強く反対」を選び、次に「人々の平等にこだわらないほうがいい(equality)」という質問に「4:ある程度不同意」か「5:強く不同意」(つまり、平等は重要な問題だと考えている)で、大きなリベラルのグループになります。
また最初に左枝に分岐した「家族価値重視派」のうち、「科学者信頼」→「平等重視」の回答をする人、あるいは「家族価値軽視派」のうち、「平等軽視」だが「科学者信頼」派も、ある程度のリベラル・グループを形作っています。
「中道派」はやはり特徴がないのか、リベラルや保守が最多となるハコに、少しずつ散らばっていて、最終的には十分に分類できていません。まぁ、両者の中間という位置なので、埋もれてしまうのは仕方ないでしょうね。
機械学習の特徴量を見ても、やはり「家族の価値」「科学者への信頼」「人々の平等」が分類基準の上位3位となっています。重要度は少し落ちますが、「伝統的メディアへの信頼」が4番目、その後に「道徳的行動の変化(moral)」「司法への信頼(trust_judiciary)」といった辺りが続きます。「聖書」の重要度が低いのは、中道、リベラルでもある程度、「神の言葉」と考える度合いがあるということですね。
決定木のほうを、もう少し下まで見ると、「道徳的行動の変化(moral)」、「人生における公平な取り分(life)」「聖書は神の言葉(bible)」等が出てくるのですが、「道徳」以外は少し違っていますね。


結局、アメリカの保守~リベラルを分ける主なアイデンティティとしては、「家族の価値」「科学者への信頼」「人々の平等」の3つということになります。
個人的には保守とリベラルの対立軸に「機会の平等(unequal_chance)」は入らないが、「結果の平等(equality)」は入ってくるところが面白い。つまり、「機会の平等」については保守もリベラルも似たような考えを持っているが、「結果の平等」については、かなり異なった見方をしているということです。
「家族の価値重視」は、日本の保守的価値観とも一致しそうな感じはしますが、正直、アメリカ人が持つ「伝統的な家族」がどんなものか、日本の「イエ制度」「家父長制」のようなものと同じなのか、私には判断する知識・経験がありません。
「人々の平等(結果の平等)」にはこだわらない姿勢は、アメリカ保守の「自己責任」論が背景でしょう。もしかすると生活保護を敵視する日本の一部の論調と重なるのかもしれませんが、どうも日本の場合はネット・ポピュリズムというか、「自分ではない誰か」を叩きたい人のターゲットになっているように思うのは、私の偏見ですかね。
「科学者への不信」は、アメリカ保守ではキリスト教との関連が背後にはあるのかなと思うのですが、日本の場合、どうでしょうね。仮に同様の調査結果が出たとしても、「反ワクチン」のような陰謀論で、宗教観とは少し別の流れがあるような気はします。
どんな政策的志向か
次に政策的志向について、同じように分類を行います。こちらは、政府予算の配分やESG関連の質問など、もう少し政策的な選択と直接的に結びつく質問を17項目、抽出して作業をしたものです。
- 連邦政府の赤字を縮小すべき(deficit)
- 政府の規制は少なくすべき(regulation)
- 外国の問題にかかわるべきではない(foreign)
- 他国への軍事介入も許される(use_military)
- 自由貿易協定に賛成か(fta)
- 雇用維持のための輸入制限に賛成(import_job)
- 移民の入国数はどうあるべきか(immigration)
- 温暖化ガス排出規制に賛成か(warming)
- トランスジェンダーの入隊に賛成か(gender_military)
- 大学におけるDEI政策の推進に賛成か(dei)
- 以下の連邦政府支出を増額すべきか:社会保障(gov_social)、公共教育(gov_school)、国境管理(gov_border)、犯罪対策(gov_crime)、社会福祉(gov_welfare)、高速道路建設・維持(gov_highway)、貧困対策(gov_poor)
最初の分岐は「大学における多様性・公平性・包摂性政策(dei)」で、「5:少し反対」から「7:強く反対」までの反対派が左に分岐して、保守派の大きなグループを形成します。一方、ここに「1:強く賛成」から「4:どちらでもない」を選んだグループは右枝に分岐し、その中で「トランスジェンダーの米軍入隊」に「1:強く賛成」から「3:少し賛成」と回答したところに、リベラルの大きなグループがあります。
「トランスジェンダー」に否定的なグループの中で、「雇用を守るための輸入制限」に賛成→「国境管理予算」に積極的なグループが小さめの保守派グループを形成し、逆に「雇用を守るための輸入制限」に反対→「温暖化ガス規制」に強く賛成するところに、リベラルの小さなグループがあります。
アイデンティティに比べ、政策面では中道派グループが少し明確に出てきます。人数的に大きいのは、「DEI支持」→「トランスジェンダー否定的」→「輸入制限反対」→「温暖化ガス規制反対」という流れ。もう一方は、「DEI支持」→「トランスジェンダー否定的」→「輸入規制賛成」→「国境管理予算消極的」というグループ。ただ、いずれも中道派が最多とは言え、保守やリベラルと人数的には大差ありません。ざっくりというと、気候変動やDEI、政府規制についてはリベラルに近いが、国境管理については保守派に近いタイプというべきでしょうか。
機械学習のほうも、出てくる順番に少し差はありますが、決定木と同様の結果になっています。「トランスジェンダー」「温暖化ガス規制」「DEI」「国境管理」「輸入制限」が共通でトップの分類基準となっています。


トランプ政策では、「福祉予算削減」「移民制限」「関税」といった辺りが最も強烈に出てきてはいますが、実はこの辺りは保守、リベラルを強く分断する政策課題ではなく、比較的共通した立場をとっていると言えそう。前回記事のグラフを見ると、「移民」は全体として現状維持的姿勢が強く、「関税」は全体として自由貿易を擁護(ただし雇用保護のための輸入制限は支持傾向)、「福祉予算」も「貧困層支援」については増額~現状維持が多く、削減派は少数という結果でした。にもかかわらず、トランプはこれを推し進めています。これが最近の支持率低下傾向の一因なのであれば、うれしいんですが。
日本の場合、「移民」あるいは「外国人政策」は、最近のニュースなどを見る限り、左右共通して懐疑的な傾向なんでしょうかね。「貿易」も、ある程度「支持度/反対度」の熱量の差はあるとしても、やはり自由貿易擁護派が多いんじゃないかという印象はあります。
問題は財政関連ですね。「財政赤字」を問題視する世論は、左右共通して強くなさそうな印象。そのうえで、日本の場合、特定の支出に強い支持があるというより、減税支持の方向が強いような感じはします。
本当は、日本の保守主義とアメリカの保守主義、どこが同じでどこが違うかを考えたかったのですが、日本について使えるデータが見つからず、ここは印象論以上にはなりませんでした。何とか世論調査の個票データ等を幅広く公開してくれないかなぁ。
