本当は今回、これまで2回で見てきた保守・リベラルの違いを、少し真面目に分析するつもりだったのですが、先週あった女子テニス年間最終戦でルバキナが全勝優勝するという展開があったため、予定を変えてテニス・データで遊んでみようと思います。
少しランキングの計算方法を変えると、また違った姿が見えてきます、というお話です。
テニスのランキング
先週末に終わった女子テニスの年間最終戦「WTAファイナルズ」というのは、年間ランキングの上位8人のみが出場できる大会です。4人ずつの2グループに分けて、最初は総当たり。各グループの上位2人が決勝トーナメントに出場し、準決勝、決勝を戦うという、サッカーW杯や野球WBCのような試合形式をとります。
今年のファイナルズの舞台はサウジアラビアのリヤド。前半の総当たり戦を含めて全勝優勝すると、優勝賞金は523万ドル(8億円以上!)と太っ腹。グランドスラムを上回ります。う~ん、さすがオイルマネー。絶対に日本では開催できんな。
で、ルバキナ(出場時はランキング6位)が全勝優勝しました。ビンボーな私はYouTubeのダイジェストを見るだけですが、「うんぎゃわわぁぁ~」と、うるさいサバレンカ(1位)を、実にクールなルバキナがストレートで退けたのが爽快でした。
この出場資格を決めるテニスのランキングですが、トーナメントの「格」ごとに1回戦を勝てば〇ポイント、決勝を勝てば〇ポイントというように割り当てられ、その過去1年間の獲得ポイント合計で計算されます(出た試合の上位〇試合とか、少し細かい点はありますが)。例えばグランドスラムだと優勝で2000ポイント、準優勝1300ポイント、その下のマスターズだと優勝1000ポイント、準優勝600ポイント等となっています。
このように獲得ポイントはトーナメントごとに割り振られているので、例えば上位シード選手をアップセットしても、低いランクの選手に順当勝ちしても、得られるポイントは同じになります。早いラウンドでシード勢が負けていって、結局、あまり魅力のない決勝カードになり、「お前をチャンピオンとは絶対認めんぞ!」と思ったことって、ありませんか。それでも獲得ポイントは同じというのが、ちょっと納得できない部分はあります。
Eloスコア
そんなこんなで調べてみると、チェスなどではEloスコアというシステムがあるようです。強い相手に勝てば高いポイントがもらえ、弱い相手なら少ないポイントしかもらえない、というもの。どの試合で勝ったかではなく、1対1の勝負で誰に勝ったかで相対的な強さを比べるもので、何となくこっちのほうが面白い感じもします。これを女子テニスに適用してみます。
以下では2種類のEloスコアを計算します。ひとつは今シーズンの試合のみで計算したもの。実際には昨年12月末からシーズンは始まるので(この辺り、本当にテニス選手は可哀そうですが)、昨年12月末~今年11月までの試合結果で計算します。WTAポイントに近い「年間スコア」です。
もうひとつは、昨年以前を含めて各選手の過去のすべての試合結果を使って計算をするものです。今年は大きな大会で勝ったが、去年以前はイマイチ、みたいな波も含めて、各選手の総合的な力をポイント化するものです。もちろん逆に去年まで大きく勝った選手でも、今年負けていればEloポイントを大きく落とすことになるので、WTAポイントと全く無関係ということではありません。
計算方法自体はそんなに複雑ではないようなんですが(という言い方も無責任だけど)、全選手の全試合で計算する手間が大変なので、計算自体はRのパッケージに頼りました。
今年の女子テニスで計算してみる
まずWTAランクと、Eloスコアによるランクを比較してみます。緑の四角がWTAランク、赤い丸が総合のEloランク、青い三角が今年のEloランクです。いずれかで20位以内に入った選手で比較しました。縦軸はWTAランクで並べています。
WTAランクとEloランクのギャップを見ると、全体的に年間Eloのほうが総合Eloよりも大きく出る傾向があるように見えます。ほぼ常に勝つトップ選手とは違い、多くの選手はある程度、勝ったり負けたりがあるため、1年間だけの少ない試合数で計算すると、上位食いや取りこぼしもあり、その影響が強く出るということなのでしょう。
1位のサバレンカはどの指標でもトップですが、2位のシフィオンテクは年間Eloランクでは4位に、また3位のガウフはElo(両方とも)だと5位に落ちています。代わってルバキナは、総合Eloだと3位、年間Eloだと2位に上昇。最終戦ではWTAランクで1位(サバレンカ)、2位(シフィオンテク)、4位(アニシモワ)、5位(ペグラ;試合時点)を破っているので、当然とは言えそうです。

Eloランクが特に低く/高く出る選手は以下の通り。WTAランクと年間Eloランクの差が10以上の選手のみ抽出しています。この中ではキーズは全豪優勝、全仏ベスト4なのでWTAランクが高いのですが、他がイマイチ振るわなかったのでしょう。一方、ジェン(鄭)のように、手術やケガでしばらく試合を離れた選手は、その分、WTAポイントが落ちていったということでしょうね。

上位10人の年間スコアの動き
次にEloスコアでの上位10人の年間の動きを見てみます。年間スコアだと、初めの頃は数字が安定しないので、ここでは総合Eloスコアで見ます。
まず年初の段階ではシフィオンテクがトップでしたが、春先にかけて徐々にスコアを落としています。今年前半はなかなか優勝に手が届かず、シーズン終了後、一度休養を取るかも、みたいなことを言っていたと思います。ウィンブルドンで優勝して、その後はちょっと上り調子になったのですが、また年後半は少し失速という感じでした。
シフィオンテクが調子を落とす一方、年間を通して高いスコアを維持したのがサバレンカ。全豪、全仏で準優勝、全米で優勝という年だったので、まぁ、これは順当でしょう。
で、ルバキナですが、年前半はちょっと調子を落としていたのが、年末に急上昇です。スコア上昇のきっかけは、10月の寧波大会での優勝。翌週の東レで準々決勝まで進み、ファイナルズへの出場権を得たところで棄権。日本のファンは残念だったでしょうが、プロとしては仕方ない判断でしょうね。その休み(準備)の成果もあり、ファイナルズ優勝へと一気に駆け上がった感じです。来年も頑張ってほしいところ。いや、ルックスで応援しているわけじゃないですよ。

過去の年末スコア
最後に過去数年の年末のEloスコアのトップ8人を比較してみます。ここでも総合Eloスコアで比較します。本当は年間スコアのほうがいいのですが、単純に年毎に分けて計算するのが面倒だったというズボラな性格のせいです。
WTAランクのイメージと重なるように、ファイナルズが行われる11月時点でのスコアで比較しますが、中にはランキング上位でもファイナルズをスキップする選手もいないとは限りません。そこで全米が開始する8月時点で試合していた選手に絞って(22年のバーティなどは年前半で引退したし)、年内の最終ポイント(11月以前でシーズンを終えていたら、その時点でのスコア)で比較します。
これを見ると、2023年時点のシフィオンテクは、かなり圧倒的な力の差をつけたトップだったことが分かります。自身のスコアも高いし、2位のガウフとの差もかなり大きいです。それが24年にはサバレンカが伸びてきて差を詰められ、今年は逆転しています。まぁ、ほぼ24年の1位と2位の関係が逆になった感じ。
実は24年は年末のWTAランクはサバレンカが1位、シフィオンテクが2位だったんですが、総合Eloベースだと逆だったことになります(年間Eloだったら、また別かもしれませんが)。3位ガウフは同じですが、WTAランクの4位はパオリーニ。やはりパオリーニは昨年、全仏とウィンブルドンで準優勝だったので、この点でポイントを大きく積んだ結果だったのでしょう。この年もルバキナは、WTAランク的には損しています。
逆に言えば、ルバキナはグランドスラムで、なかなか勝てていないんですよね。2022年のウィンブルドン優勝、23年の全豪準優勝ぐらいまで。でも、今年はルバキナがかなり迫ってきています。サバレンカが大きくリードしていますが、1位から3位の接近具合は、このところなかった形。何とか年末の勢いを維持して、来年はグランドスラム2勝目を挙げてもらえるよう期待しましょう。


