先月には都議会選挙がありましたが、目立ったのは参政党の3議席獲得。参議院選挙でも、参政党に加えて日本保守党、また全く方向は逆ですが、れいわ新撰組の議席増が予想されています。
彼らを「ポピュリズム政党」というと怒られるのかもしれませんが、近年の色々な選挙で左右のポピュリズムへの支持が増えている様子は明らか。まだ日本でトランプ的な政治家がトップに立つほどではないかもしれませんが、ちょっと心がざわつくところです。
今回は日本でポピュリズムが支持を得るようになっている背景など、世論調査を見ながら、ちょっと考えてみようと思います。
ポピュリズムの浸透度を測る質問
今回使うのは世論調査会社イプソスが2016年以降(トランプ当選を機に?)、断続的に行っている「ポピュリズムに関するグローバル調査」というものです。最初の2016年版では22ヵ国、最新の2025年度版では31ヵ国が対象になっています。
ポピュリズムについて論じたある本では、「ポピュリズム勢力は、既存政治から見捨てられた人々の守り手を任じ、……エリート層を既得権益にすがる存在として断罪することで、『下』の強い支持を獲得している」としています。
イプソス調査では、以下の5つの質問への回答を用いて、「システム崩壊指数」と名付けたポピュリズム指標を作成しています。確かにトランプの岩盤支持層は、こういう意識を強く持っていそうな感じ。日本でもそういう傾向があるのか、気になるところであります。
- 経済は、金持ちや権力者に都合よく仕組まれている
- 既存の政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない
- 専門家たちは、私のような人間の生活を理解していない
- 金持ちや権力者から国を取り戻す強いリーダーが必要だ
- 国を立て直すためには、あえてルールを破る強いリーダーが必要だ
日本は衰退・崩壊しつつある?
まず時系列で指標の推移を見てみます。赤線は、2025年調査の平均値61%です。
国としては、ドイツ、オランダ、スウェーデンで、この指標が60%を大きく下回っているのが目立ちます。主要国の中では比較的、社会への信頼感は高いという結果です。また調査回数は少ないですが、スイス、シンガポールも大きく平均を下回っています。
とはいえ、ドイツではAfDが地方選挙等で躍進していますし、オランダもウィルダース党首の自由党が連立政権入りしたりと(その後、崩壊しますが)、かなり怪しい雲行きを感じるところがあります。後でちょっと見ますが、この総合指数とは別に「社会は崩壊していると思うか」という質問があり、この回答ではドイツは最も悪い結果、オランダも決して良い方ではありません。この辺り、ちょっと評価は難しいところ。
一方、日本の場合、調査開始の2016年時点ではかなり低い水準だったのですが、その後、着実に指標は悪化。2025年では62%と、微妙にアメリカの60%を追い抜きました。このように、顕著かつ着実に信頼感が失われているのは、日本と南アだけ。これはかなり由々しい事態という感じがします。
なお水準の高さという点では、タイ、南ア、韓国がトップ3。なんか分かる感じはしますね。

こういうポピュリズムというのは、経済がうまく回っていて、自分の生活に心配がなければ抑えられるのですが、やはりそこがうまくいかなくなると頭をもたげるという感じがあります。
この指数とは別の質問で、「社会は崩壊していると思うか」という直接的な質問と、「自国は衰退しつつあると思うか」という質問があるので、これを対比させてみます。いずれも「そう思う」から「そう思わない」を引いたネット値です。
やはり全体的に両者は同じような回答傾向になると言えますが、気になるのは日本の立ち位置。「社会の崩壊」については、まぁ、ほぼ真ん中あたりの順位と言っていいのですが、「国の衰退」についてはフランスに次いで第2位。
確かに一人当たりGDPでOECD最下位グループだとか、GDP総額でも昨年はドイツ、今年はインドに抜かれたとか、こういう報道を見ていると「衰退している」というイメージにはなるでしょう。
これが今後も続くと、自分たちは搾取されている、既存政治・官僚制度は敵だ、外国人は排除しろ、というMAGA的な主張への支持が高まることが懸念されます。実際、元々はディープステート云々と明確に言っていた政党もありますし。

日本でのポピュリズム土壌は着実に育っていそう
総合指数のもとになる個々の質問について、調査対象31ヵ国の中での日本のポジションを見ておきます。他の個別国の名前は省略しますが、比較のため全31ヵ国平均とアメリカだけ特記しておきます。
これで見ると、日本でポピュリズム度が高い項目は「あえてルールを破るリーダーが必要」と「政治家は自分たちのことを考えていない」の2点。その他の項目は平均辺りの回答となっています。
味わい深いのが、アメリカで「あえてルールを破る政治家が必要」の回答がごく小さなプラス(つまり賛否拮抗)という点。トランプを選出してしまったアメリカですが、確かに得票率では拮抗していたし、世論調査でも不支持のほうが強い現状。国全体で見れば、ああいう大統領への支持が圧倒的というわけではなさそう。
この程度の支持しかない男が、「俺は過去最多の得票数を得て支持された大統領だ」と言って、残り半分の国民を敵に回し、アメリカのみならず世界全体を引っ掻き回しているというのは、不条理としか言えません。
やはり2大政党しか実質的に存在しえない状況が問題なのか。マスクがいいかどうかは置いといて、彼の「アメリカ党」が、この政治システムに変化をもたらせるかどうか、ちょっと興味が沸くところではあります。共和党にとって代わることはありえませんが、トランプ的政策を牽制する力を持てるかどうかですね。
翻って、日本で政治家不信+ルール無視の政治家支持が高いという調査結果を見ると、日本でトランプ的政治家を生みだす土壌は十分に育っていると言えるのかもしれません。これはかなり危惧されるところです。
なお2016年から2025年にかけての変化を見ると(グラフは割愛)、日本はすべての質問で「Yes」回答率が上昇している数少ない国です。スウェーデン、イギリス、カナダも同様ですが、その変化の度合いは日本よりかなり小さい傾向です。日本では特に「この国は衰退している」と「政治家は我々のことを気にかけていない」で突出して伸びています。経済の自信喪失と政治不信が手に手を取り合って、という感じでしょうか。

財政嫌いの日本。MAGA的なポピュリズム?
MAGAは減税賛成、歳出反対という方向ですが、政治+ポピュリズムといえば、多くは放漫財政というパターンでした。この辺り、なかなか色分けが難しくなってきました。
さすがに日本でも、最近は金利が上昇傾向になり、またトラスショックの影響があったのかどうか、少し前のように、いくらでも国債を発行して財政支出をすればいい、という意見は少なくなった印象。しかし一方で減税公約やら財務省解体デモとか、MAGA的な財政不信は強まっている感じです。
イプソス調査では財政に関する世論調査もしているので、ここも調査対象31ヵ国の中でのポジションを見てみます。雇用、国防、教育等の7つの使途について歳出を増やすべきか、という質問と、こういった歳出増のために増税をすべきか、という質問について、「賛成」から「反対」を引いたネットの数字を示します。
まず、とにかく日本人は増税も歳出増も嫌う国民だということが明らかです。「歳出を増やすために増税すべきか」(最後のパネル)については、ほぼ▲50%で反対が強い。順位でいけば最下位グループとは言えませんが、31ヵ国平均と比べても明らかに税への忌避感が強いです。
因みに一カ国だけ、これがプラスの国がありますが、これはインドです。高い経済成長のなせるわざか、あるいは教育、インフラ等があまりに不足していることの反映か。
また支出増については、日本ではいずれの項目でも支持率は最下位グループです。教育、医療、公共治安は最下位、雇用創出、国防、貧困・不平等は下から3~5番目です。唯一、インフラは少し支持が高いですが、それでも下から7番目なので、これが支持されているとはいいがたい状況。
これを見る限り、日本人は支出を削ってでも(とまで言えるかは分かりませんが)、減税をしてほしいと考えていると言えるかもしれません。こうなると、自民党の「2万円給付」より野党の消費税減税のほうが、選挙公約という点では刺さるのは仕方ない感じですね。
と、まぁ、こういう感じの世論の動向を見ると、日本ではポピュリズム政党が支持を伸ばす土壌が確実に育ってきている感じはあります。トランプ1.0が始まった頃、ヨーロッパでも反移民などを掲げるポピュリズム政党が勢力を伸ばしました。当時、アメリカの識者の間には、日本はこういう流れに乗っていない唯一の先進国だ、といった論調がありましたが、もうそういう感じではなくなったように思えます。う~む。
