昨今のウクライナ侵攻やガザ紛争を見ても、本来、問題解決を主導しなければならない国連が十分に機能していない感じがあります。まぁ、あれだけ多くの国が一国一票で議論・投票して、結論がまとまるというのは難しいでしょう。
昔、トランプ政権時のボルトン国連大使が、「国連ビルの10階分がなくなっても何も困らない」とか言い切ったのはともかくとして、特にアメリカから見ると自分たちの国益に逆らう国が多すぎる、という苛立ちがあるのでしょう。特に米中対立の議題で、中国寄りの投票をする国が多い印象は拭えません。
以下では国連総会の投票結果を使って、米中対立の構図と、その中で各国がどのような「お友達グループ」を作っているのか、見てみようと思います。
まず全体像
今回使うのは、ジョージタウン大学のErik Voetenという先生方が作成、維持しているデータベースです。1946年以降、2023年までの総会決議について、議案ごとに各国の投票動向(賛成、反対、棄権等)を記録してくれています。こういうデータを整備・公開してくれる方というのは、本当にありがたい限りです。
毎年平均して85回の決議投票がなされているようです。最も多かったのが1982年の160回、最小は1957年の7回(なぜか1964年はゼロ)。いやホント、ご苦労様です。
データベースでは、各決議をArms control; Colonialism; Economic development; Human rights; Nuclear weapons; Palestine; Other issuesの7つのテーマに分けて投票結果を記録しています。各国には賛成/反対に加え、「投票しない」「棄権する」という選択肢もあります。前者は「棄権票を投じる」という明確な意思表示というより、物理的に投票の際に出席していなかった、ということも含むらしいです。
なお旧ソ連の崩壊により、国連加盟国は1990年代初頭に大きく増えましたので、以下の分析では1993年以降の時期に絞っています。
各国が過去の決議で賛成票を投じた比率を見ると、以下のようになります(棄権、無投票は0.5票として集計しています)。横軸は国名のアルファベット順ですが、とても読み取れないので表記は省略しています。ただし常任理事国(米露中英仏)に加え、日独のみ図中に入れています。それぞれ頭文字で米露中英仏はU/R/C/G/F(英はGreat BritainのG)、日独はJ/Dで表記しています。
こうしてみると、アメリカは賛成票を投じる比率が圧倒的に低いです。パレスチナ問題で反対票を投じるのは分かりますが、すべてのイシューで一貫した姿勢(!)。これに対して中国は一貫して賛成票を投じる比率が高いです。核兵器や人権問題では、自身もスネに傷を持つと思うのですが、(若干低めにはなるものの)圧倒的に賛成票を投じているのは、国連決議なんて意味がないので、投票には賛成しておくが、別に中国の政策は制約されない、という考え方なんでしょうか。
日本は人権問題では少し賛成票の比率が落ちますが、全体的には賛成票を投じる傾向が顕著です。英仏は顕著ではないがアメリカ寄り(パレスチナ除く)、独は日本と英仏の間ぐらいという位置づけでしょうか。ロシアは少し意外ですが、パレスチナ、人権以外では中国寄りというより英仏と近い傾向と言えそうです。
賛成票率が25%以下の国を見ると、アメリカがEconomic development, Palestine, Nuclear weapon, Colonialismの4イシューで該当、イスラエルもPalestine, Nuclear weapon, Colonialismで該当します。またPalestineについては、マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ、ナウルという太平洋島嶼国が低い賛成票率です。これらの国の積極的な意思なのか、アメリカの信託統治を受けていたことの反映なのか。とはいえ、最近、中国がこの地域に多額の援助をして取り込もうとしている様子。ちょっと気になる動きではあります。
米中対立での各国の立ち位置
ここで国連総会決議を米中対立の場とみて、各国がどのようにサイドをとっているかを見てみようと思います。まず各イシューにより、米国と中国が対立した場合に、どちらの側に同調したか(CHN or USA)、また米中が同じ投票行動をとった場合に同じ投票をしたか(common)、あるいは米中と異なった投票をしたか(independent)の4種類に分けて、その国数のシェアを見てみます。ただし年々の変動も大きいため、ここは恣意的にアメリカの政権ごとの年に分けてみます。1993-2000年(クリントン)、2001~08年(ブッシュ)、2009~16年(オバマ)、2017~20年(トランプ)、2021~23年(バイデン:まだ3年間のデータのみ)に相当します。
まず明らかなのは、パレスチナ問題については、一貫して中国と同じ判断をする国が圧倒的です。米中が同じ投票をする場合(具体的にどのような決議なのか想像しにくいですが)、それと違う投票をするindependentが圧倒的です。ことパレスチナ問題に関する限り、米国は完全に孤立している様子が窺えます。
核兵器についても、米中対立の場合は中国側に立つ国が多いですが、実はindependentも多く(米中が同じ投票だが、多くの国がそれと異なった投票をした)、やはり核保有国である中国に、圧倒的に多くの国が同調しているとは言えないようです。
なお全体的には、米中対立時に米国側に立つ国のシェアが徐々にではありますが、上がってきている様子が窺えます。トランプ政権期以上に、ブッシュ政権期に米国の人気のなさが際立つ感じがあるのは、ちょっと面白いですね。
米国の重要決議に絞った分析
上記は、年間平均80件余りある決議案全体を見てのものですが、これらの決議案全部が同じ重みをもっているとは限りません。ここではアメリカにとっての「重要決議」に絞って観察してみます。
アメリカでは、自国にとっての重要決議案を特定したうえで、各国がどのように投票したのか(アメリカの方針に同調したのか)を議会に報告しています。アメリカでは予算策定も議会の権限が非常に強いので、こういう報告を国務省に義務付けているのでしょう(その良し悪しはともかくとして)。
以下では、アメリカにとっての重要決議(年間平均12本程度)に絞って、同様の分析をしてみましょう。ただし元のVoeten先生のデータベースでは、近年、重要決議の特定は空欄になってしまっているため、国務省の公表資料で特定しました。
ただし国務省の資料は2022年分までであり、まだ2023年分は出ていません。従ってバイデン政権期の分析は2021~22年の前半2年間のみの限定した期間のものです。この時期は、基本的にコロナ対策での国際協調が進んだ時期ですし、ロシアのウクライナ侵攻は始まった一方、ガザ紛争は起きておらず、ちょっと特殊な時期だろうと思います。
さて「重要決議」について、賛成・反対投票のシェアを示したのが以下の図です。まず特徴的なのは、パレスチナ問題を除いて、アメリカの賛成投票率が上がる点です(まだ低いとは言え)。それと反比例するように、軍備管理、植民地主義、人権問題、核兵器においては中露の賛成投票比率が下がっています。とくに人権問題については、中国とアメリカで賛成投票率が逆転しています。この辺り、国連の場での米中対立が顕著に見られます。
日英独仏については、それほど顕著ではないですが、若干、賛成投票率が上がっているようです。
これも米国の政権期間ごとに分けて、米中どちらサイドをとったかを見ると、例によってパレスチナ問題は別として、米国サイドに立つ国のシェアが増えてきます。特にオバマ政権期で非常に米国よりのシェアが高かったことが目立ちます。その「特異期」を除けば、米国寄りの投票率が徐々に高まる傾向が見られます(なんとトランプ政権期も含めて)。
重要決議に関して見る限り、国連が米国の国益に沿っていない、という主張は偏っているように思えます。アメリカ的には、100%の国がアメリカ寄りの投票をしないと我慢ならないのかもしれませんが。
クラスタリングによる友達探し
では重要決議ベースでの投票行動により、各国をクラスター分けしてみます。グラフの見やすさから、クリントン政権を除く4政権の期間に絞っています。以下は、第1及び第2主成分得点をx軸、y軸にとってクラスターごとに色分けしてみました。クラスター数は色々と試行錯誤した結果、すべて5クラスターで統一しましたが、まぁ、比較的きれいに分類できたのではないでしょうか。図中、G20諸国のみ国名を記しています。またその下には、各期のクラスターを地図上で色分けして示しています。(色は時期横断で統一されていないので、注意してください。)
全体的な構図としては、米国グループと中国グループが両極端に存在し、欧州グループ(日韓もここに入る)が比較的米国に近い位置に別グループを形成(バイデン政権期は同グループですが、ここは留保付きです)。そして、欧州グループと中国グループの間にさらに途上国グループが2つできて、全体をつないでいるという感じです。
一方、中国はブッシュ政権期には、米国グループから最も離れた場所に位置しつつも、比較的多くの国からなる、よくまとまったクラスターに属しています。しかしオバマ政権期以降、中国が属するクラスターは比較的小さくなり、多くの国は袂を分かったようです。
それぞれの友達から外れた国は?
では、このクラスター分析から、米中の「お友達」の国、またそこから外れた国などを特定していきます。
各政権期を通じ、米国と同じクラスターに入る国は、米国、カナダ、オーストラリア、イスラエル、マーシャル諸島、ミクロネシアの6カ国です。パラオはトランプ政権期のみ外れますが、それ以外は米国グループ。しかしナウルは、ブッシュ政権期には同じ組ですが、その後は常に外れます。大洋州諸国には中国が多額の援助を行って影響力を増しており、その影響があるのか疑われます。とはいえ、中国グループに入るまでには至っていません。「中国に取り込まれた!」と騒ぐのは尚早かもしれませんが、気になる動きではあります。
バイデン政権(2021~22年のみ)を見ると、米国グループと欧州グループ(日本や韓国もここ)が合体します。トランプ政権期に放り出した気候変動対応等で欧州諸国と歩調を合わせた結果かもしれませんが、やはり2年間のみの状況で、しかもコロナ対応という特殊要因が世界を覆っていた時期であり、あまり信用しないほうがいいでしょうね。オバマ政権期であっても、米国グループはごく小さかったので、そう簡単に変わることはないでしょう。
一方、中国はというと、ブッシュ政権期には43ヵ国が属する大きなグループを構成していました(地図を見て分かるように、中国から東南アジア、南アジア、中東にまたがる地域から構成)。この時期、西欧グループが45ヵ国、非中国の途上国グループが70ヵ国(主にロシア、中央アジア、アフリカ諸国)と23ヵ国(主に中南米諸国)に分かれています。
しかしその後、中国はより小さなグループを構成するようになります。オバマ政権以降は、中国、北朝鮮、ロシア、キューバ、イラン、シリア、ベラルーシという、「いかにも」な国々と同グループを構成するようになります。インド、ベトナム、ウズベク、アルジェリアはオバマ政権期まで、ミャンマー、ベネズエラはトランプ政権期まで中国グループですが、バイデン政権期は別グループになっています。とはいえ、ミャンマーとベネズエラの結果は、時期的な特殊要因である可能性は否定できませんね。
このように、中国は国連においては「途上国の盟主」を標榜していますが、(アメリカにとっての)重要決議を見る限り、多くの途上国は中国と異なる投票行動をしていると言ってよさそうです。
このように、国連決議を米中対立の場としてみると、米国は一貫して孤立した立場にいますが、中国もやはり少数派。あまりお友達になりたくない国々でキナ臭いグループを構成している感じでしょうか。アフリカや大洋州諸国等、色々と援助を行って取り込もうとはしていますが、パラオやナウルのように米国グループから離れた(ように見える)国はありますが、中国グループに呼び込むところまでは来ていません(とはいえ、要注意ではありますが)。
途上国は内部で若干の入り繰りはありつつも、米国グループ、中露グループ、西欧グループと交わることはなく別グループを構成しており、やはり国連の場で「みんな仲良く」とはいかないのが現実のようです。「ともだち100人できるかな」というのは難しいようです。