金融危機の影響と回復プロセス:日本もかなり特殊な例かも

前回はアメリカで、リーマンショックの所得、資産への影響と回復過程が所得・資産水準の階層ごとにどう違ったかを見ましたが、今回はG7全体(韓国も参考に追加)で比較して、何か違いがあるかを確認してみました。これを見ると、やはりアメリカという国はかなり特殊な国と言えそう。でも、日本も別の意味で、かなり特殊な動きではあります。

金融危機の所得、資産への影響

前回、金融危機(リーマンショック)の影響、回復過程が、アメリカの所得・資産階級別にどう異なっていたかを見ましたが、やはり金持ちに優しいなぁという結果でした。所得や資産の落ち込みは金持ちほど緩やかで、また危機前の水準に回復する速度は金持ちほど早いという傾向が見られました。

果たして他の主要国でも同じなんだろうかと思い、アメリカを含むG7、そこに参考までに韓国も含めて横並びで見てみようと思います。

実は中国も含めてみたのですが、ちょっと信じられないほど横一列(つまり階級による差は全くない)だったので、ここでは落としました。今回もWorld Inequality Databaseというものを使いますが、データがおかしいというより、やはり中国では公開データが少なすぎるので、意味のある推計ができなかったということだと思います。

まず所得水準(税引き前所得:pre-tax incomeと税・給付調整後所得:post-tax income)の下落率を見たのが以下のグラフです。2008年の所得水準に対し、その後の最悪期の所得が何パーセント落ち込んだかを示しています。なお資産はあまりに各国の差が大きすぎて、ひとつのグラフに描けなかったため、後で別掲します。

まずアメリカは前回見たように、最下層が最も深刻な所得低下を経験しています。税引き前でも、税・給付調整後でも、最下層が最も深刻です。ところが、他の国は必ずしも同じ形はしていません。

カナダでは最下層の税引き前所得で大きな低下が見られますが、最上位の低下はもっと大きく、また税・給付調整後の所得で見ると、最下層の低下は限定的です。

イタリアは、アメリカほどではないですが、税引き前所得の減少は最下層に大きく出ていますが、税・給付調整後では全世帯で同じような水準の低下に調整されています。ドイツやイギリスは税引き前所得では階層による差が大きくないのですが、税・給付調整後では高所得層で大きな低下が見られます。フランスは税引き前も給付等調整後でも、最上位層に大きく影響が出ています。

日本は若干特殊で、80%層辺りで最も谷が深く、それより上になると緩和されるという形です。以前の記事でも書きましたが、日本の場合、金融危機というより貿易危機の形で影響が出たので、海外取引の大きい大企業の労働者を中心に大きく給与削減の動きになったのでしょう。

韓国はちょっと微妙ですが、最も大きく影響が出たのは最上位であるものの、やはり日本と同じく80%層辺りで谷が深い感じ。この辺り、日本と同じように貿易部門への影響が出たと見ていいのかもしれません。

資産については、あまりに各国の影響の程度が異なるので、各国のスケールを別にしてグラフにしています。また縦軸も疑似対数変換しています。

まず大きな点として、アメリカの場合、金融危機以前の段階で、下位30%タイル程度以下の純資産がマイナス(つまり純負債を負っている)だったためグラフが消えているのですが、他の国だと、こういう純負債層は極めて限定的ということ。

カナダとフランスでは純負債層はなく、日本、ドイツ、イギリス、フランス、イタリアは7~10%タイル程度、韓国は最下層の1%タイル層のみ純負債家計になっています。この閾値の少し上の層は純資産を持つとはいえ、ごくわずかな額だったため、少しでも負債を負うと、その「変化率」は極めて大きく出る結果になりました。

また国別で目立つのは、日本では富裕層ほど下落率が大きいものの、その大きさは諸外国とは比較にならない小ささ。日本だと最上位でも下落率は4%程度です。一方で諸外国を見ると、下位層ほど下落率が大きく、しかもその下落率は韓国、イギリスでは数千%、下落率の低いフランスでも80%程度となっています。

恐らくですが、当時の日本では株式などの市場性の資産が限定的で、ほとんどが現預金や生命保険という形だったため、株式市場の混乱が資産規模に及ぼす影響がほとんどなかったのでしょう。でもNISAの普及以来、最近は株式・投資信託の占めるシェアが上昇していますからね。仮に今、金融危機が起きたら、前回よりは大きなマイナスにならないとも限りません。

ドイツは少し特異で、10%タイル前後の層のみで大きく純資産を減らしていますが、それ以外は資産を減らしていないということ。何となく堅実なドイツ国民の国民性が出ているような気がしないでもないですが、ちょっと正確なところは何とも言えません。

なおカナダのグラフが描かれていないのは、何とこの国では純資産の下落が観察されないからなんですね。すぐ隣国なのに、何とアメリカの状況と違うことか。

危機克服に要した期間

では次に危機克服に要した期間を比較します。いずれも2008年レベルの所得、資産に戻ったのが何年かを、階級ごとに比較したものです。バーチャートが立っていない層は、依然として2008年水準に戻っていないことを示します。

アメリカについては、前回やったものと同じです。金持ち層ほど危機からの回復が早いという傾向が確認できます。

アメリカ以外の国では、まず目立つのがイタリア。所得、純資産とも、ほとんどの層でグラフが立っていません。つまり依然として2008年水準に回復していないということになります。グラフは割愛しますが、全体の時系列の動きを見ると、リーマンショック直前ぐらいがピークで、その後は下落を続けています。階級により若干異なりますが、ほぼ2015年辺りまでに底を打ち、上昇に転じますが、ほとんどの層で危機前の水準にまで回復していません。データは実質値なので、名目値ではまた異なるのでしょうが、ちょっと資産面では弱い状況が続いているようです。

カナダ、ドイツは所得も資産も、ほぼすべての階層で同じように、しかも短期間で危機前の水準に戻しています。上で見たように、所得下落率は概ね小幅にとどまり、また資産も落とした階層がほぼなかった国なので、こういう姿になるのでしょうね。今、トランプと大ゲンカ中のカナダ。どっちかを選べるなら、私はアメリカよりカナダに住みたいなぁ。

フランス、イギリスの場合、被害規模はアメリカより小さく、また危機からの回復プロセスはアメリカの逆という感じ。所得については、上位層ほど長い期間がかかっていて、最上位層だと税引き前で2021年、税・給付調整後だと2024年という感じです。一方で資産については、下位層ほど時間がかかっています。

で、日本ですが、資産については階級の差なく、ほぼ一様に2012年、つまり4年で元の水準にまで回復しています。下落幅が数%程度と小さかったのに4年もかかっているのは、やはり所得の伸びが小さかったせいでしょう。

で、その所得を見ると、税引き前、税・給付調整後とも、中位層辺りを境に回復が遅れる傾向が見られます。特に80%タイル層辺りで回復が極端に遅く、アメリカの最下層より遅れています。

やはり日本ではリーマンショックを境に、「まぁまぁの富裕層」に大きく経済の負担がのしかかり、これが「失われた20年」を「失われた30年」にしてしまったような感じはします。日本の下位層の相対的な所得の低さを考えると、この層の経済的負担を改善する必要は言うまでもありませんが、経済全体の活力を考えた場合、「そこそこの金持ち」に危機後の経済的苦境の皺寄せを集中的に強いてきた当時の産業界の対応が正しかったのか、ちょっと疑問が湧いてくる感じは否めません。

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