足元のアメリカの州別経済状況~トランプに投票した州は潤ったのか?

トランプ2.0が始まって、まだ1年ほどしか経っていないのが信じられません。本人は政権の政策実績をしきりと喧伝していますが、国民が政治に最も望むのは経済、自分の生活の安定と向上です。とりあえず2025年第3四半期までの経済データ、通年の雇用データが出たので、一度整理しておきましょう。

一日一善?

先日、トランプは「政権始まって365日で365項目の実績を上げた」との分厚い報告書を出していました。一日一善ならぬ一日一件。件数ありきの作業なのは明らかで、報告書を作らされたスタッフは頭をかきむしったことでしょう。

今年は中間選挙の年。通常、大統領選挙の年に比べると、あまり熱気は高まらないのですが、今年はかなり様相が異なりそう。上院を民主党がひっくり返すのは厳しそうですが、全議席改選の下院では民主党が過半数を取る可能性もなくはない感じ。まぁ、これだけ無茶苦茶なトランプに対して、勝つ確率が「なくはない」程度というのも、民主党の情けなさなのですが。

トランプ政権の重点政策としては、移民削減とか西半球支配の「ドンロー主義」とかイラン封じ込めとか色々ありますが、選挙民の最大の関心は経済。関税政策でアメリカに製造業を取戻し、雇用も増え、賃金も上がり、物価も下がって生活が安定し、豊かになるという希望でしょう。

先ごろ、最高裁が相互関税を無効とする判決を下しましたが、トランプは別の法律を使った関税を意地でも課す様子です。果たして実体経済にトランプが主張する効果があったのか、2025年第3四半期の州別経済データ、通年の雇用データも出てきたので、ざっくりと実績を見てみようと思います。

一人当たり所得と失業率

商務省経済分析局(BEA)による州別一人当たり所得、労働省労働統計局(BLS)の月次失業率データを並べてみます(ともに季節調整済)。所得は名目値なので、消費者物価指数で割り引いて実質値にします。本当は州別の物価の差も反映したほうがいいのですが、いくつかの大都市圏をまとめた指数や、北西部、南東部みたいな広域のものしかないので、全国の消費者物価で我慢します。

横軸には2025年Q3の一人当たり所得(全米平均を100%とした指数)、縦軸に2025年12月の失業率をとっています。また前回の大統領選挙結果を使って、トランプ得票率が55%以上、ハリス得票率が55%以上、その間で、共和党支持州(赤)、民主党支持州(青)、激戦州(黒)に分け、点の大きさで各州の下院議員数を表します(ワシントンDCも1議席として表示)。縦線は100%、つまり全米平均の所得ラインを示し、横線は全米平均の失業率を示しています。

言うまでもなく、横軸方向で見ると、右のほう(全米平均より所得が高い)に民主党支持州、左のほう(所得が低い)に共和党支持州が多く分布しています。一方、失業率に関して言うと、青の民主党支持州は大半が全米平均以上(ハワイ、バーモント、コロラドを除く)、逆に赤い共和党支持州は、全米平均より低い方に多く分布しています。

特に極端なのがワシントンDC。連邦政府や国際機関、シンクタンク、ロビイングのための弁護士事務所等が集中する地域なので、平均所得水準は極端に高い地域です。しかし実は黒人人口比率の高い街で、失業率も高い傾向にある地区です。

因みにトランプ関税対応の日本の対米投資第一弾は、オハイオ州、テキサス州、ジョージア州。オハイオ、テキサスは左上の領域(所得は全米以下、失業率は全米以上)、ジョージアは右下領域で、失業率は全米以下ですが、所得は全米平均以下ですね。どれだけの経済効果があるかは不明ですが、中間選挙前のアナウンス効果に期待しているんでしょう。

ただ、赤や青の州は、概ね投票行動が固まっているので、両党が気にするのは激戦州。ここは所得水準でいうと全米平均より少し低い辺りに多くが固まり、また失業率は全米平均の上下にほぼ均等に分布しています。そういう意味で、アメリカの平均像という感じはします。ここの有権者が、どう反応するかで中間選挙後の議会勢力が変わってきます。

政策運営への有権者の評価としては、現時点の状況よりトランプになって以降の変化のほうが重要かもしれません。そこでトランプ政権になって以降の所得と失業率の変化を見ます。所得は2024年Q1~Q3 vs 2025年Q1~Q3の変化率、失業率は2024年12月 vs 2025年12月の差をとります。

縦線が全米平均の所得上昇率です。これより右は相対的に所得上昇率が高かった州、左は逆です。当然、最も望ましいのは(相対的な)所得上昇+失業率低下という右下の区画、最も厳しいのが(相対的な)所得低下+失業率悪化という左上の区画です。

やはりワシントンDCの悲惨な状況が目立ちます。所得は全米で唯一のマイナス、失業も顕著に上昇です。マスクの政府効率化省(DOGE)がやった連邦政府職員の首切りで、多くの雇用が失われた結果、所得水準が大きく低下、失業率が上昇する結果となって、赤い州のMAGA派からすれば拍手喝采モノでしょう。DC市民からは恨み節ですが、以前も書いた通り、DCには上院議席がなく、下院議席も1議席のみ(ただし投票権なし)なので、共和党にとっては痛くも痒くもありません。

赤い共和党支持州は右上の区画、つまり相対的な所得は上昇したが、失業率が悪化した州に多く分布しています。所得増は望ましいですが、失業率が悪化すれば定職者と失業者の間の格差が問題になります。もともとMAGA派の原動力は、持てる者に対する嫉みの気持ちでしたが、これが赤い州内で起きることになります。これがどう選挙結果につながるか、ちょっと興味深いところではあります。

ただ前述の通り、赤い州、青い州では、ほぼ選挙結果は見えているので、本当に重要なのは選挙ごとに結果が変わりうる激戦州。ここを見ると、左上領域にニュージャージー、アリゾナ、逆に右下領域にはメインだけ。ただバージニアとミネソタは、所得は大きく変わらずに失業率だけが上昇しているので、どちらからと言えば左上グループ、逆にニューメキシコとジョージア(失業率は変わらず、所得は上昇)、ミシガン(所得は変わらず、失業率は低下)は右下と言ってもいいかも。こう考えると、ほぼ互角でしょうかね。

ただICEによる移民摘発強化、州兵の派兵による混乱が顕著になったのは昨年秋以降。特に移民摘発は農家の収穫作業に影響するし、ホテルやレストラン等の経営にも影響し、人手不足で店が開けられないといった不平も出ています。これから秋までに、この状況がどう動くか、共和党にとっては気が重い状態が続くでしょう(そう期待します)。

製造業の復活?

さてトランプの最大の選挙公約は、関税政策によって(高い賃金を払う)製造業が国内に回帰する、というもの。もちろん相互関税の当初案はTACOってしまいましたが、それでもトランプ前に比べれば高い関税が課されています。果たして、これで製造業の雇用が増えたのか見てみます。

失業率と同じくBLSの州別雇用統計により、非農業民間部門全体と、そのうちの製造業の雇用数について、2024年1~12月平均と2025年1~12月平均の変化率を計算しました。12月時点での比較も考えたのですが、季節調整データでも月により特殊要因等で大きく姿が異なるので(例えば11月時点の比較と12月時点の比較で大きく姿が変わる)、年間の平均を使います。

雇用全体では、ほとんどの州で伸びています。青い州ではワシントンDC、マサチューセッツ、赤い州ではアイオワ、激戦州ではメインのみで落ちています。政府部門の雇用は含んでいない数字なので、ワシントンDCの雇用減は、政府職員の削減で彼ら向けのレストランなどが打撃を受けたということでしょう。

しかし製造業の雇用で見ると、全51州のうち増加したのは18州のみです。残りの33州では減少しており、激戦州だけで数えても増加4州、減少9州と負け越しです。やはりこの辺りの動きを見ると、関税で製造業雇用が戻ってくるという公約が果たされたとは言えません。

そもそもアメリカの雇用市場を考えて、製造業を中心に据えること自体、もう時代遅れと考えたほうがよさそう。各州の雇用全体の伸びに対するセクター別寄与度を計算して、トップのセクターを州ごとに抽出すると「娯楽・宿泊・飲食サービス業(leisure and hospitality)」が圧倒的に多いです。製造業がトップのけん引役となったのは、バーモント、ロードアイランド、アラスカのみ。逆にマイナスのけん引役を見ると、製造業が最も多く15州です。

まぁ、トランプが本当に真剣に考えた公約なのか、とりあえず選挙民受けすればいいやというスローガンだったのかは分かりませんが、国民を本当に豊かにするという観点からは的外れだったと言うべきかもしれません。実際、トランプ関税は「産業政策」というより、他国への恫喝手段になっていますからね。

少し気になるのが、製造業に次いで多くの州で「専門的・業務サービス(professional and business services)」が最大の雇用減少セクターである点。まぁ、ワシントンDCはDOGE関連でしょうが(政府職員そのものは統計の対象外なので、受託しているコンサルなどか)、他の州での減少は、よく言われるAIのホワイトカラー雇用置き換えの可能性もあります。大学新卒者が全く職を見つけられないといいますから、この辺りが日本の就職氷河期のようにならないか心配です。

と、否定的なことばかり書いていますが、トランプの煽動力というのは侮れません。とにかく集会で、あることないこと、脈絡なく喋る中で、聴衆の受けがいい話題を直感的に発見して、それを何度も繰り返して、「うねり」として盛り上げるという才能は、他の「普通」の政治家にはない能力。民主党にも、もう少し行儀の悪いアジテーター・タイプを発掘してほしいなぁ。

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