退職代行サービス「モームリ」の弁護士法違反事件。昨年の家宅捜索に続き、先日、逮捕まで行きましたね。確かに法律には違反したのでしょうが、根がひねくれている私などは、なんでこれが法律違反になるのか、難癖をつけたくなってしまいます。
この法律が弁護士、依頼人のためになっているのかどうか、ちょっと意地悪な視点で考えてみようと思います。
モームリの非弁行為
昨年10月、退職代行サービスの「モームリ」の運営会社が、弁護士法違反で家宅捜索、逮捕にまで行った事件がありました。弁護士資格を持たない者が法律業務を行うことや、報酬を得て斡旋することを禁止する「弁護士法72条」というのがあるようで、こうした行為は「非弁行為」として刑事罰の対象になるということらしいです。
弁護士資格がないのに法律業務をするのは、間違った助言をするかもしれないので、そりゃ違法になるのは仕方ないですね。ただ今回の問題は、弁護士を「有償で斡旋」したこと(タダなら問題なかった)。紹介した弁護士から、別名目で謝礼を受け取っていたため、この法律に違反したとなったわけです。
でも弁護士資格がないと、優秀な弁護士を紹介できないんでしょうかね。各弁護士が、どのくらい裁判や和解手続きをこなしてきて、どれぐらい依頼人側に有利な結果をもたらしたか、といった弁護士データのプールがあれば、この程度の仕事ならこの弁護士が最適(十分)という判断はできるんじゃないかと思うんですよ。
例えば医者とか会計士、税理士、建築士とか、他の国家資格を持つ「仕業」の斡旋がどうかGeminiに調べてもらうと(念のため他のモデルでもクロスチェックしました)、無資格の人間がその「業務」を行うと当然罰せられますが、その「有償斡旋」が刑事罰の対象になることはないとの回答。先生の方が業界から懲戒されることはありえても、刑事罰ではないし、ましてや斡旋した側が罪に問われることはない。なぜか弁護士だけ、斡旋したほうが刑事罰なんですよ。
「ドクターX」大門未知子の斡旋をしていた「晶さぁ~ん」(岸部一徳)は、確か元は外科医だが、免許を剥奪されたという設定だったような。もしこれが違法だったら、いくらメロンと請求書を見せられても、「知るか、ボケ。警察呼ぶぞ」と言えば済むわけで、あのドラマは成り立ちません。医者を含め多くの「仕業」では問題ないのに、弁護士だけは刑事罰になるのです。
なぜこんな法律?
この法律に意味がないとは言いません。斡旋業者の利益追求が行き過ぎれば、依頼人の利益よりも、紹介料を多く払う弁護士を優先的に紹介するという利益相反のリスクがあります。でも、それは弁護士以外の「先生」でも同じじゃないですかね。
いい弁護士を知らないから誰かを紹介してほしいのに、そのために弁護士にお願いしなければいけない、というのも、どうもしっくりきません。幸い私はこれまで弁護士が必要になる状況に置かれたことはありませんが、そもそも紹介をお願いする弁護士を、どうやって探せばいいんだ。
それに紹介をお願いした弁護士が、「では私が担当しましょう」と言ってきても、その人がどれだけ優秀か分からず、かと言って「あなたでは不安です」と断る勇気も根拠も、私にはありません。仮に私がモームリに退職代行をお願いしたなら、その後の会社側とのやり取りをする弁護士は、むしろモームリに紹介してほしいだろうなと思います。
もちろん法律的には、それが無償なら全く問題ない、有償だから問題なんだ、ということなんでしょう。でも、なぜそれがダメなのか、特に「弁護士だけ」ダメなのかが分からない。斡旋手数料も含めて自分たちで囲い込むため、法律家が自分に都合のいい法律を作ったんじゃないかと思ってしまうのは、司法試験に受かるだけのアタマのない凡人の嫉みなんでしょうね。
このところ「アンソロピック・ショック」とか「SaaSの死」とか話題ですが、アンソロピックが法務サービスまで本格的に提供できるようになったら、日本の弁護士業界はどう対応するんでしょうね。アンソロピックを非弁行為で訴えたり、サービスを使うには弁護士資格が必要とか言い出したりするんだろうか。ちょっと楽しみではあります。
弁護士市場のシミュレーション
法律知識は全くないので、別にモームリを擁護しようとか、この法律を廃止しろと文句をつけようとか、そういう意図は全くありません。私の頭の中のモヤモヤを整理するため、ここはちょっと数値シミュレーションを作ってみようと思います。
こういう斡旋業者が仲介する「斡旋市場」がある場合と、依頼人が自分の身の回りだけで行き当たりばったりに弁護士を探す場合とで、どれぐらいマッチングの結果が違うのか、簡単に試行してみます。こういうのは、本来はマッチング理論で考えるのでしょうが、私はゲーム理論の方面は暗いため、原始的な市場を考えることでお茶を濁します。
今、1,000人の潜在的な依頼人がいて、同じく1,000人の弁護士がいるとします。弁護士は既に仕事を抱えているので、新たに引き受けられる依頼人はそれぞれ1人だとします(複数でもモデルの設計は変わりませんが、簡単にするため)。
弁護士の能力、費用はバラバラで、弁護費用が高いから優秀ということでもありません(つまり依頼人には能力の判断のしようがない)。一方、斡旋業者側は過去の実績データを持っています。また依頼人が幾らぐらいまでなら払ってもいいという予算限度額も、自分の抱えている問題の深刻さに応じてバラバラです。
まず斡旋業者がいない場合、(例えば知り合い等から聞いて)ランダムに選んだ20人の弁護士を候補として目処をつけます。その中で各弁護士に電話をして、最初に出会った自分の予算限度額以下の費用の弁護士と契約をするとします(能力は依頼人側に不明なため)。仮に20人まで当たって、費用が見合う弁護士がいなければ諦めます。仮に契約がまとまれば、その弁護士は1,000人のプールから除外され、次の依頼人は999人のプールから同じ作業を続けていきます。
次に斡旋業者がいる場合、斡旋業者は1,000人の弁護士プールから依頼人の限度額以下の弁護士候補を抽出し、その中で最も能力の高い弁護士を紹介します。ただし弁護費用の10%の斡旋手数料がかかります。当然、その分、依頼人の予算との関係では不利になります。これを1,000人の依頼人について、順番に続けていきます。もちろんすでにマッチングができた弁護士は、全体プールから落としていきます。
シミュレーションなので、予算限度額、弁護士費用、弁護士能力は乱数にしておきます。予算限度額は平均110、標準偏差25の正規分布、弁護士費用は平均100、標準偏差20の正規分布(つまり平均的には弁護士費用は予算額より下)、弁護士能力は平均70、標準偏差10の正規分布とします。単純な枠組みなので、これを100回だけ繰り返します。
シミュレーション結果
以下が100回のシミュレーション結果です。Brokeredが斡旋業者のいる場合、Randomが完全に行き当たりばったりのケースです。
左上パネルが、あぶれた弁護士の数(=あぶれた依頼人の数)です。斡旋業者がいない場合、平均的に160人前後の弁護士が仕事からあぶれますが、斡旋業者がいる場合、これは80人前後と約半分にまで減少します。10%の斡旋手数料により、本来なら「弁護士費用<予算限度額」となるペア数が少なくなるにもかかわらずです。
では、これにより失われた弁護士の収入を考えます(右上パネル)。これは試行回数ごとにあぶれた弁護士の費用合計の分布を見たものです。斡旋業者がいない場合、弁護士業界全体では平均的に20,000単位程度の収入が失われますが、斡旋業者がいれば10,000単位弱に抑えられます。単位は適当ですが、前提として平均費用を100としているので、仮に平均的な弁護士費用が1万円とすれば(全く当てずっぽうです)、100万円 vs 200万円となります。
仕事にあぶれた弁護士の能力の分布は、左下パネルの通りです。明らかに斡旋業者がいたほうが、能力の低い弁護士がはじき出されます。逆に言えば、斡旋業者がいないと、能力が高くても(過去の実績がよくても)仕事にありつけない弁護士が出てきますし、依頼人側からすれば、裁判・和解交渉でヘタを打つ弁護士をつかまされるリスクが高まります。どう考えても、これは弁護士と依頼人の双方にとって、望ましくない結果でしょう。
まぁ、素人のやることですから、シミュレーションの設計には、いくらでもケチはつけられると思います。でも、しっかりと費用、能力を含む情報が流通した市場を作ることは、弁護士と依頼人双方にとって有益。斡旋業者を排除するとして、その辺りがどう考慮されているのか、気になるところではあります。

