先日の全豪オープン・テニスで、アルカラスが史上最年少での「生涯グランドスラム」を達成しました。グランドスラム優勝なんて、生涯に1回でもできればすごいことなのですが、それをすべてのサーフェスで達成したわけです。
でも、最近はビッグ3も全員達成していて、何か昔ほど希少価値が感じられない、なんて言うと怒られるか。テニスそのものについて論じる資格はないので、ちょっとデータで遊んでみます。
生涯グランドスラムの量産体制?
今年の全豪オープン男子はアルカラスの優勝。ファンの皆さんには申し訳ないですが、そろそろアルカラス、シナー以外の優勝者が出てほしいが、だからといってジョコビッチじゃ新鮮味もないしなぁ(最年長優勝という価値は否定しないが)などと不遜な考えだったのも事実。それでも史上最年少での生涯グランドスラム達成というのは、やはりすごいことです。
しかし、昔は「生涯グランドスラム」にとてつもなく大きな価値があったのでしょうが、このところはフェデラー(2009年)、ナダル(2010年)、ジョコビッチ(2016年)のビッグ3が達成。ここでアルカラスが仲間入りし、シナーも残すは全仏のみ。こうなると年間グランドスラムじゃないと驚かない、なんてことにもなりかねません。
昔は「クレーコート・スペシャリスト」なんて言い方もあって、全仏だけは特別という感じもあったのですが、何でもできる超人の時代になってきたのでしょうか。一方で、すべてのコートでスピードが速くなり、コートによる差がなくなってきたという意見もあるようです。なかなか優勝に手が届かないズべレフ辺りだけでなく、フェデラーからも同じようなコメントが出ているのは、ちょっと気になるところです。
その昔、全仏は特別だった?
もちろん、この辺りの話が正しいのかどうかは、私のように「見るだけ」のライトなファンには全く分かりません。正直、男子の試合は「すっげぇー」とは思うものの、それ以上に何の表現もできない鈍臭いオヤジなもので。
ということで、何かデータで見られないかと思い、以前も使ったEloスコア(男子、女子)というやつを使ってみようと思います。過去に遡っての全試合結果を引っ張り出して、このスコアを全プレイヤーについて計算し、各グランドスラムで優勝者のスコアに違いがあるのか(あったのか)を調べてみました。まぁ、オフィシャル・ランキングのほうが分かりやすいのですが、過去に遡ってデータを揃えるのも面倒だったので、以前に作ったデータの再利用に逃げました。
このスコアは、出場する大会のランクごとに与えられるポイントの獲得で決まるオフィシャル・スコアではなく、どれだけ強い選手に勝ったか/弱い選手に負けたかで計算されるスコアです。同じ時期に戦っている選手の間での「相対的な強さ」を示すスコアという感じでしょうか。オフィシャル・ランクだと「棚ボタ勝利(早い段階でトップ選手が負けて、順位の低い選手に勝っちゃった等)」でも高いポイントが得られますが、そういうのは評価しないスコアと言っていいでしょう。
比較に使うスコアは、前年末のスコアを使うことにしました。例えば全仏オープンやウィンブルドンの直前には、それぞれクレーコート、芝コートの試合がいくつか組まれて、当然、クレー、芝に強い選手はそこで勝ち星を重ねるでしょう。このため、各グランドスラム開催時だとスコアも高くなるので、そのようなバイアスを避けるためです。
なお対象とする期間は、1988年以降にしています。全豪オープンは1987年までは芝、1988年からハードコートに変更されたようで、サーフェスの統一の観点からこの期間としました。因みに全米も1974年まで芝、一時クレーを経て、1978年からハードコートに代わったそうです(知らなかった)。
また集計期間を、1988-2004年と2005-2025年の2期間に分けています。2005年にナダルが初めて全仏で優勝し、2006年から3年連続でナダル×フェデラーという全仏決勝戦となったので、この辺りをビッグ3時代に突入したタイミングと考えたものです。
GS優勝者、準優勝者のスコア
ではGS優勝者(winner)のスコアを見ます(男子のみです)。赤い点は、前年末のスコアで上位3人だった選手を示します(オフィシャル・ランクとは違う可能性があります)。
ビッグ3以前の時代では、明らかに全仏の優勝者スコアが低く分布しています。また前年末にトップ3位以内だった選手の優勝も、他GSに比べて少ないですね。これは全仏の優勝選手は弱いということではなく、全仏では他のサーフェスとは違うタイプが優勝する、ということですね。実際、ウィキペディアでこの時期の優勝者の名前を見ても、ブルゲラ、クエルテン、コスタ、ガウディオといった他GSでリストに出ない名前がずらずらと並んでいます。
これがビッグ3以降になると、明らかに全仏と他の3つの大会での差がなくなっていきます。まぁ、この時期、ビッグ3以外の優勝はほぼないので、当然ですが。ナダルも私のイメージ的には、最初はクレーコート選手だったと思っていましたが、記録を見ると既に2006年のウィンブルドンではフェデラーと決勝を戦っています。
果たしてビッグ3時代への突入時に、GSのサーフェスの速さの統一があったのかどうか、私は全く知りません。ぼんやりと、ウィンブルドンでビッグサーバー(クライチェクとかイバニセビッチとか)が一発で決めてしまう退屈なゲームが増えて、少し遅くしようという議論を聞いた記憶はありますが。
ちょっと意外なのは、現在ではUSオープンのスコア中央値が最も低く、また幅も広くなっている点。確かにビッグ3時代でも、デル・ポトロ、チリッチ(この時は錦織が準優勝)、ティーム、メドベージェフといった辺りが優勝する試合がありました。ここに何か理由があるのか分かりませんが、アルカラス、シナー以外の選手には、全米が最も狙い目ということなんでしょうか。
因みに準優勝者(runner up)のスコアを見てみると、ここでもビッグ3前の時代で全仏スコアが若干低いのですが、優勝者ほどの差はないようです。面白いのは、ビッグ3時代になると、むしろ中央値では全仏のスコアが最も高くなる点。まぁ、この時代だとフェデラーとジョコビッチが4回ずつ、準優勝に名前を連ねているので当然とも思えます。
と、まぁ、何か結論が出たわけではありませんが、やはりかつては全仏オープンだけ毛色が違い、タイプの違う選手が優勝していたのが、ビッグ3時代以降、過去20年はこの差が消えてしまったのは確かなようで、生涯グランドスラムも出やすくなったとは言えそうです。でもそれがサーフェスの質の問題なのか、プレイヤーの質の差なのか、ここは全く謎です。


