敗戦国の軍国主義復活は許さん!・・・てか?

「存立危機事態」発言以降、中国の対日批判発言が続いています。その中には、あたかも日本が戦後秩序の破壊者として、再び軍事大国になるかのような発言もあります。

アンタらに言われたくないよ、と思うのですが、まずは現実を把握するため、世界の軍事費関連データで日本の位置づけを簡単に見てみようと思います。

日本の軍備増強?

中国とか北朝鮮とか、何か他国を批判する際、我々の常識からすると考えられない罵詈雑言を使うことが多いですね(トランプもだけど)。「存立危機事態」発言後の「汚い首は切ってやる」はSNSでの個人の発言としても、政府の声明ですら「核爆弾で海に沈める」とか「歴史のゴミ箱に捨てられる」とか。最近は存立危機事態発言に反応して、日本について「軍国主義復活の悪夢」、「敗戦国の再武装再燃」、「戦後国際秩序の破壊者」とか、まぁ、言いたい放題です。

この辺りはレトリックとして無視するとして、軍事費や人員、武器取引額等、簡単に得られるデータで、各国の動向、日本の国際的な位置づけなどをおさらいしておきます。使うのはスウェーデンのストックホルム国際平和研究所のデータ。無料で得られるデータは限られているのですが、ざっくりと見る上では十分でしょう。

まずは最新年(兵員数は2020年、金額データは2024年)で、各項目の上位15カ国を並べてみました。軍事費、輸出入は百万ドル、兵員数は1000人単位です。

軍事支出、武器輸出ではアメリカが断トツの1位、輸入でも3位、兵員数で5位です。中国は軍事支出と兵員数で世界2位、輸出でも6位。軍事大国という意味では、世界2位につけていると言ってよさそう。

輸入でウクライナが断トツ1位なのは、ロシア侵攻に対抗するための各国支援なので、仕方ないですね。中国は輸入では上位15カ国に入っていないのは、国内での内製化が進んでいるせいでしょう。この辺りの過去の推移は、後で見てみます。

またロシアは輸出5位ですが、ウクライナ戦前まではもっと上位でした。これも後で見ますが、とても輸出に回す余裕がなくなってきたのでしょう。

さて日本はというと、軍事支出では10位。G7では米独英仏についで5位なので、少ないとは言えませんが、中国との差は歴然です。輸入では10位ですが、輸出、兵員数では上位リストに入ってきません。同じく「敗戦国」だったドイツが3位、イタリアが4位の武器輸出国であることを考えると、そこまで自己規制をかける必要があるのか議論の余地はあるでしょう。武器輸出三原則を見直す動きは、頷けるところがあります。

まぁ、少なくとも中国には、ドイツ、イタリアへも同じことを言ってほしいものです。

武器貿易における位置づけ

武器貿易について世界全体での位置づけを見てみます。いずれも2024年の輸出入、また点の大きさは軍事支出の大きさを反映しています。斜め線が45度なので、線より上は輸入超過の国、線より下は輸出超過の国となります。

これを見ると、日本は赤字側への貿易不均衡が突出して大きいグループにあると言えます。もちろん、「ミサイルよりコメ!」と主張する人たちからすれば、こんなに武器を輸入するカネがあるなら、それを生活支援に回せ、消費税を減税しろ、ということになるのでしょう。金額的に全く比較にならないんですがね。でも日本ほどの工業生産能力を持つ国が、こと武器に関しては輸入依存度がここまで高いというのは、諸外国からすればおかしな国だと思うのでは。

これで見ても、同じ敗戦国のドイツ、イタリアは均衡線の下側(輸出>輸入)。戦勝国側ですがフランスも同様、カナダとイギリスは、ほぼ均衡線上にあり、日本はG7で唯一の輸入依存の国となっています。韓国も微妙に輸入超過だが、ほぼ均衡と見てよい水準です。

憲法9条、平和国家という理念は分かりますが、例えば今回のウクライナ侵攻においても、日本は防衛装備を求めるウクライナに対して具体的な支援をできませんでした(必勝しゃもじは送りましたが)。「平和」を唱えていれば戦争は起きないと信じる人は別として、防衛力の強化はしておくべきじゃないかと思うところです。

時系列での輸出入推移

ここで敗戦国である日独伊、中国とインド、また韓国の武器貿易を時系列でみてみます。輸出はプラス、輸入はマイナスで棒グラフを描き、貿易収支を折れ線で示しています。

日本は言うまでもなく赤字続き。1990年頃まで赤字が拡大したのが、その後、急減しているのは、恐らく当時の貿易黒字批判に対応するため、アメリカからせっせと防衛装備品の輸入をしていたことを示しているのでしょう。この時期、わずかながら輸出があるのは、恐らくアメリカとの戦闘機の共同開発関連じゃないかと思いますが、間違っていたらごめん。

このように輸出市場では存在感のない日本に比べ、ドイツはかなり頑張っています。1960年代ぐらいまでは完全に輸入超過でしたが、既に70年代ごろからは輸出を大幅に拡大させ、80年代に入る頃までには完全に輸出超過の国になっています。イタリアも、ドイツに比べれば規模は小さいですが、やはり80年代ごろからは輸出超過が続いています。

同じように敗戦国の立場、国連では「敵対国条項」でいつ攻め込まれても文句言うな、と言われている国なのに、日本とは全く違う状況にあります。それでもドイツやイタリアが「再武装」で非難されることはありません。

尹政権以前は、中国と歩調を合わせて対日批判が強かった韓国ですが、韓国もここ10年ぐらいは武器輸出を強化しています。まだ独伊のように輸出超過が定着する状況ではありませんが、既にみたように2024年では世界8位の武器輸出大国、今後は黒字定着するかもしれません。ウクライナ支援でも、殺傷能力のある兵器の供与はしていませんが、地対空ミサイルや砲弾などの支援が要請されました。

そして中国。改革・開放政策以前は完全な武器輸出国。「第三世界の盟主」としての途上国向けの武器輸出でしょう。これが改革・開放政策以降、かなりの武器輸入国に転じましたが、2000年代半ば以降、輸入が大きく減少します。武器の内製化を進めてきたのでしょう。一方で輸出が拡大しています。相手先はやはり途上国、主にはアフリカと(インドを除く)南アジアが主な顧客とされます。今回のベネズエラ侵攻では、全く役に立たなかったみたいですがね。

これに対してインドは完全に輸入国。確かロシアの大口顧客ですね。でも近年はフランスやスウェーデン等、欧州諸国に調達先の多様化を進めていたところに、クリミア・ウクライナ侵攻による対ロ制裁、またそもそもロシアの輸出キャパシティの制約もあって、ちょっと落ちてきています。

ここで念のためにロシア関連を見てみます。ロシアはやはり2022年のウクライナ侵攻以降、武器輸出が急減し、23~24年には若干の輸入もしています。

ウクライナ侵攻以前から、武器輸出の減少傾向は見られています。これが何を原因とするものなのか、ちょっと調べたのですが分かりませんでした。さすがに、5年も前からウクライナ侵攻準備のため備蓄を進めていたとは思えませんが、クリミア併合が2014年なので、この辺りから輸出余力がなくなってきたのかもしれません。

一方、ウクライナ侵攻以降の輸入増に対し、イランと北朝鮮の輸出増が見られます。ロシア向けかどうかは、このデータでは分かりませんが、まぁ、この2カ国がロシアの戦争遂行を裏から支えているのは、疑いのないところで、何の不思議もありません。

世界におけるシェア推移

最後に軍事関連での世界シェアの推移を簡単に見ておきます。2000年以降の期間で、データが部分的にしかない国は除いて軍事費、輸出、兵員数で各国のシェアを計算し、各年のトップ4を抽出して推移を見たものです。トップ4が常に同じではないので、国は途中で出たり入ったりしています。輸入トップ4は比較的目まぐるしく変わるため、グラフの見やすさの観点から除外しました。

まず軍事費支出については、やはりアメリカが圧倒的ではあります。2000年代半ばには世界全体の軍事費支出の半分を占めていました。まぁ、この頃は9/11以降のイラク、アフガニスタン攻撃につぎ込んでいた時期でしたので、不思議ではありません。

しかしその後、40%程度にまでシェアを低下させ、逆にこの時期、シェアを大きく拡大させたのが中国。それまでの5%弱から15%弱に増大しています。フィリピン沖の南沙諸島の埋め立てが始まったのが2014年、ハーグの国際裁判所が領有権を否定したのが2016年ですので、この頃に軍事支出を急拡大させているわけです。世間的にはこういうのを地域の不安定要因というんじゃないでしょうかね。

逆に人員については、中国はかつての断トツのトップからシェアを落としています。この時期にシェアを引き上げ、現在はトップになったのがインド。両国は国境問題も抱えて、散発的に衝突しているし、この辺りが最大の兵員数を競っているというのもキナ臭い感じが否めません。

と、まぁ、いくつか数字を見てきましたが、軍事面で見た日本のポジションは国力に比してかなり控えめ。同じ「敗戦国」であるドイツやイタリアと比べても、特に輸出面で、その小ささは際立っています。

平和を希求する心は美しいですが、実際の世界の現実を見た場合、これでいいのか不安になる気持ちは抑えられません。何とかして日本を押し込めたい意図を持つ隣国が牽制をし、それに同調する国内論調もありましたが、この圧力はあまりにいびつと思うべきじゃないかなぁ。

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