最近のオヤジ雑誌を読んでいると、とにかく高齢者の健康テーマや年金関連の記事が多い。昔はもうちょっと艶っぽい記事も多かったと思うんですが、やはり高齢化が進んでメイン読者の関心が移ってきたんだなぁ、ということを感じます。
さて、今日はそんな年寄関心の「健康寿命」って、どこまで真剣に考えないといかんのかというお話。本当に暇つぶし目的の、年寄りの繰り言でしかない記事ですが。
健康寿命へのおぼろげな不安
昨年末のこと、居酒屋で「孤独のグルメ」を気取っていたところ(五郎さんと違い、アルコール付きですが)、隣のおじさんたちの会話が耳に入ってきました。企業年金を受け取る期間を5年、10年…と選べるようで、短ければ毎月の支給額は多いが総額は少ない、長くすれば毎月の支給額は少ないが総額は増える、という制度のようです。その何年スキームを選ぶべきかの議論らしいです。
ひとりのおじさんが「でもさぁ、男の健康寿命って71歳だろ。それ以降、カネなんて使えないぞ。そんなになってからもらっても無駄になるし、太く短くもらうんじゃないか」というような話をして、他のおじさんも頷いている、という展開でした。
確かに雑誌を見ても、フレイルがどうの、認知症がどうのといった記事を毎週載せて、あれを食べろ、これを食べるな、この薬はやめろ、脳トレはこれだ、といった指示が毎週繰り返されます。これを毎週フォローして覚えておけるのは、とてつもなく健康な老人だけ。あなたには健康の心配は全くありません。
因みに主要国の男女別健康寿命を調べてみると、こんな感じ(WHOデータ:2021年)。日本は男性が71.9歳、女性が74.8歳です。日本は健康寿命と平均寿命の差が大きいと言われますが、それでも世界的に見れば健康寿命も長いですね。
北欧諸国は日韓、シンガポールより短いですが、それに次いで長く、西欧は徐々に下がっていく流れ。中国は、女性は英独より上ですが、男性が非常に短いという男女差が大きい国。男女差の大きさは日本なども同じで、東アジア共通の原因があるのか気になりますが、まぁ置いておきます。
かなり衝撃的なのがアメリカ。何と男性は平均して62.8歳、女性は65.1歳で健康寿命が尽きるという結果。まぁ確かにアメリカ人は全体的に肥満が多く、また公的健康保険も整備されていないため、貧困層は簡単に医者にかかれないという問題があります。そこに加えてオピオイドなどの薬物問題もあり、社会階層が上のほうはジム通いで無茶苦茶に健康だが、下の方は健康的な生活とは無縁という状況かなとは思います。

でも健康寿命って何だ?
しかし「平均」とはいえ、日本人男性の健康寿命が71歳って、どうも感覚的には納得しがたいところがあります。自分の親だって70歳で寝たきりになったわけではないし、勤務先のOBなどを考えても、そこまで早くヨボヨボにはなっていません。まぁ、現役時代から「お前、ボケとるやろ」という連中は多かったですが。
健康寿命とは「日常生活に制限のない期間の平均」とされていますが、具体的な判断基準が示されておらず、困るところです。上のグラフはWHOのデータなので、厳密なところは違うのかもしれないのですが、厚生労働省の国民生活基礎調査の場合、「現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」と尋ねて、「ある」と回答した人は不健康とされています。つまり何か厳密に医学的な基準があるのではなく、回答者の「お気持ち」による部分が強そうです。
これだと「いやぁ、最近ちょっと膝が痛くてねぇ」とかいったレベルでも「不健康」とされてしまいそうです。もちろん、それでも日常生活に何らかの制限があるようであれば、その有無を調べること自体に意味はあるのでしょうが、その程度の問題をもって「健康寿命を延ばせ」と号令をかけて、健康診断を受けろ、血圧を下げろ、この薬を飲め、なんてやることに意味があるのか、ちょっと気になります。頑張れ「幸齢党」!
ひとつの指標として、年齢階層別の要支援・要介護認定の割合を調べたのが、以下のグラフです。厚生労働省の「介護保険事業状況報告(令和5年度)」から年齢階層別の認定数を取り、これを総務省の「人口推計」で割って比率を計算したものです。断片的にウェブなどで見るデータと比べても、齟齬はない結果かと思います。
グラフを見やすくするため、要支援2、要介護1、3、5と全ての認定の合計だけ載せています。
これだと、例えば男性の場合、70~74歳の段階で要支援2の認定は0.9%、要介護1は1.2%、要支援1~要介護5まで何らかの認定を受けている人をすべて足しても6.5%です。80~84歳になると、要介護1で4.7%、要介護3で2.6%等と上がりますが、すべての認定を足して20.6%。高くはなりますが、それでも5人に1人です。「平均」と比べて考えるため、半分以上が何らかの認定を受けるのをベンチマークと考えると、90歳以降という感じです。
やはり「健康寿命」という数字をあまり深刻にとらえて、この年齢を過ぎると、寝たきりになったり、施設に入ったりするのかと思うのは違うようです。そもそも男性の「平均寿命」が81.1歳、60歳時の余命で考えても83.6歳ですからね、寝たきり期間が長期に続くというイメージと、かなりギャップがあるのは否めません。

老後年金生活を破綻させるリスク?
そうすると、冒頭に紹介したおじさんの考え方も、実はリスクが高いと思われます。おじさんは、70代前半になると健康寿命が尽きて、その後は外出、旅行、飲みに出かけることもできず、カネも使えなくなるから、企業年金も太く短くもらえばいい、と思っていたようですが、現実にはそういう状態が来るのはもっと先。何らかの認定を受ける段階とすれば、現実的には80代以降と考えるべきかもしれません。
71歳までは太く短い企業年金をもらいながら「ゆとりある生活」を送り、それ以降は「最低限の生活+介護費用」で済むから資金は持つだろう、と思っていても、実際には「ゆとりある生活」の支出が長引き、早めに資金が底をついてしまい、健康なのに飲みにもいけなくなるという事態も生じうるわけです。
このような状態での資金計画を考えてみようと思いますが、介護費用などをネットで調べても、一人当たりベースの数字が多いので、とりあえず単身ベースで考えることにします。この辺りの数字、まだ私も真剣に考えるレベルではないので、使う数字に間違いがある可能性はあります。まぁ、簡単な計算なので、手計算で済ませましょう。
「最低日常生活費」は、単身で月額15.8万円、夫婦二人世帯で23.2万円とされます。夫婦二人での「ゆとりある生活」が37.9万円とされているので、単純にこの比例で考えると、単身者の「ゆとりある生活」の月額支出は約26万円となります。
「不健康」になって以降、在宅介護になるとすると、その平均費用は5.2万円/人といわれるようです。この場合、最低生活費を足して、月額21万円ですね。施設介護の費用はピンキリですが、平均的には13.8万円(生活費なども含む)というデータがありますので、ここは間をとって月額17.4万円とします。
つまり支出月額は、健康状態で26万円、不健康になって以降は17.4万円と、月額約8.6万円(年額103.2万円)の差が出てきます。
すると、例えば70歳で「ゆとりある生活」から卒業して在宅介護になると思っていたら、(ラッキーなことに)71歳にずれました、という場合、100万円あまりの年額費用が追加で必要になります。75歳にずれると5年分で合わせて500万円、80歳にずれると1,000万円が追加されます。
冒頭のおじさんの場合、優雅な生活期間を「太く短く」と思っていたのに、それが長くなれば(それ自体はラッキーですが)、これだけの追加費用が掛かります。であれば、あまりに「健康寿命」データを気にして企業年金を太く短くもらうより、細く長くもらって総額を増やした方がいいかもしれません。
「健康寿命」などのデータで身体に気を付けるよう啓蒙することは重要なんでしょうが、その実体的な意味が曖昧なまま独り歩きさせてしまうと、老後の生活設計等に逆に問題を起こしてしまうんじゃないかと、師走の寒風吹きすさぶ中、心配になってきました、というお話でした。

